第20話 離れない

 先輩は黒崎と共に走り去ってしまった。いつかはバレてしまうとわかってはいたものの、いざ「」と言われてしまうと狼狽えてしまう自分がいた。


「アオイ先輩。私は、どうすればいいんでしょうか・・・」


ふとそう呟いたとき、背後から人の気配を感じ振り返る。するとそこには石川教授の姿があった。


「やぁ赤木さん。蒼井君を見なかったかい?急に部屋を飛び出して行ったからさ、心配で」

「・・・いえ。見ていませんね」


彼は「そうか」といいながら目を細めて私を見つめる。そして彼は私の様子を伺う様にゆっくりと近づいてくる。


「君はやたらと蒼井君に接触を図っているみたいだね。どうしてだい? まるで君はみたいじゃないか」

「さて、なんのことでしょうか。私はただ、先輩のことが好きで着いて回っているだけですよ?」


教授との距離が縮まっていく。この男も私がアオイ先輩殺しの犯人だと思っているのであろうか。私は思わず後退りをしてしまう。


「・・・君はどこまで知っているんだ?」

「何をですか?」


背中が黒板にぶつかり、これ以上後退することができなくなる。教授は私の逃げ道を潰す様に、ドアを背にして近づいてくる。この冷たい視線に、この発言・・・もしかして彼がアオイ先輩を刺したのか?いや、あの時すれ違った人物は彼ではなく、間違いなく・・・


「赤木さん。君がを知りさえしなければ、もっと楽しい大学生活を過ごせただろうに」


教授はそう言って、ジャケットの内ポケットから何かを取り出そうとする。

私は身構えた。




 俺は黒崎の発言に違和感を覚えながらも、その答えを見つけられずにいた。


「とにかく、もっと遠くに逃げましょ? すぐに赤木さんは追いついてくるよ」

「・・・黒崎。俺はリンと話をしたい」

「え?」


黒崎は俺の腕を掴み、不安そうに見つめてくる。


「どうして? 殺されちゃうかもしれないんだよ?」

「正直、まだ彼女が犯人だと言い切れない自分がいるんだ。だから、リンともっと話をしたい」

「そんなのダメだよ!」


黒崎はそう言い、立ち上がる。パニック状態のような彼女に落ち着いてと言葉を掛けたが、まるで聞いてもらえない。危ない、ダメだ、殺されると繰り返すばかりであった。


「ちょっと落ち着いて!」

「イヤ、私から離れないで! 行ったらダメだよ!」

「そんな大袈裟な・・・。少し話をするだけだよ」


彼女は膝から崩れ落ちる。そして何かをブツブツと呟きはじめた。俺は彼女に歩み寄り、彼女が呟いていた言葉を拾う。


「・・・蒼井君を殺して、私も死ぬ」

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