第16話 卒業
沢田に反撃をした日の放課後。私はいつも通り屋上に向かった。そしてフェンスに手をかけ、また悩む。そこへアオイ先輩がやってくる。
「やっぱりここにいたんだ。『粛清』はどうだった?」
「・・・不完全燃焼です。私は彼女に、私が味わった苦しみと同等以上のものを味わせたかったのに」
「そこまではやらなかったんだね?」
「はい」
彼女から虐げられている時は、彼女を殺してしまえば全てが楽になると思っていた。でも、人を殺める勇気が出なかった。だから私自身が消えてしまおうと思ったのだ。そして今回もまた、命を奪う覚悟ができなかった。結果的に、彼女の『大切なもの』
を奪うだけに止まった。
「まぁ、でも、勇気を振り絞って立ち向かったんだ。誇りに思っていいと思うよ」
そう言って先輩は優しく微笑む。やっぱり先輩には笑っていて欲しい。
「アオイ先輩」
「なに?」
「先輩は・・・私に死んで欲しいですか? それとも、生きて欲しいですか?」
「怖いことを聞かないでよ。そんなの当然、生きていて欲しいよ。君が苦しくないなら、生きていて欲しい。というか、誰の死も願ったりしないよ」
「・・・だったら、私はまだ死にません。そして今度こそ、先輩の大切なものを守りたいです」
「あはは。心強いね。じゃあまずは、今日亡くなってしまったベロニカを供養してやろう」
「はい!」
その後、沢田からのイジメは彼女の転校をもって終了した。それからというもの、全て吹っ切れた私はアオイ先輩と過ごす時間が増えていった。一緒に水族館へ行ったり、花を見たり、お買い物をしたり、勉強をしたり。時には意見の食い違いから喧嘩をしたりもした。大抵は私が悪いのだが。私の高校生活は地獄から始まったけども、そのお陰で運命的な出逢いを果たせたのだった。
そして月日は流れ、遂に先輩の卒業の日が訪れた。一通り行事を終えた先輩が校門の前にやってくる。
「卒業おめでとうございます」
「ありがとう。これで遂に高校生活も終わるのかぁ。実感湧かないなぁ」
最後は笑って別れようと決めていたのに、いざ先輩の顔を見ると、涙が止まらなかった。この人は私の命を救ってくれた。私の高校生活を変えてくれた。私に勇気を与えてくれた。恩人だった。
「あらら、ボロ泣きじゃないか。こんな風に君が涙を流す姿を見るのは二回目だね」
「・・・私、先輩の大学に行きます。そしたら、また同じように私と会ってくれますか? 私を見捨てずにいてくれますか?」
そう尋ねると、先輩は笑いながら答えた。
「当たり前だよ。同じ大学だろうが、違う大学だろうが、どんなことがあっても見捨てたりしないよ」
私が先輩に抱きつくと、先輩の身体も微かに震えているのを感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます