第15話 さっさと片付けてくださいね

 水やりのために早めに学校に着いていた私は誰もいない教室で一人、ある準備をしていた。あとは彼女が来るのを待つだけだ。

 ポツポツとクラスメイトが教室に入ってくる。誰よりも先に教室にいた私に対する挨拶はもちろん無い。そしてついにの彼女がやってきた。


「おはよ〜。今日って一限から国語だよね? 課題写させてよ」


沢田は前の席にいる女子に気怠そうに話しかけていた。そして彼女は自分の机の中に手を入れる。


「ちょ、なんか濡れてるんだけど・・・」


机の中に入っていたものを確認し、ヒェっと小さく悲鳴を上げる。


「なによこれ、生ゴミ?! まさか・・・」


沢田はソレを床に叩きつけ、ものすごい形相で私を睨みつける。


「赤木リン!!! 花壇のゴミを私の机に入れたな!!!」

「・・・どうしてソレがゴミだとわかったんですか?」


沢田は言葉に詰まる。彼女の狼狽うろたえる姿を見て、周囲の人間もざわつき出す。彼女は歯切れ悪く反論をする。


「べ、別にそんなことはどうだっていいのよ! 今はアンタが私の机の中にコレを入れたことが問題なの! これってイジメだよね?」


彼女は周囲に同意を求めようとするも、明確な賛同は得られていなかった。


「みんな?どうしたの? 赤木が私にヒドイことをしてきたんだよ?」


誰も彼女に目を合わせようとしない。そこへ藤沼がやってくる。この時間に藤沼が登校してくることを私は知っていた。


「沢田。ひどいことしていたのはお前の方だろ? 全部、平川から聞いたよ。お前を中心に俺の見えないところで赤木をイジメていたってさ」

「ちょっと、藤沼くん? 違うよ? 私は何もしてないよ?」


あれだけ大々的に私を虐げていた彼女に、味方はいなかった。私に行われていた行為を誰かが『イジメ』だと認めた瞬間に、関わっていた全ての人間が保身に走る。沢田が全ての元凶で、自分はそれに巻き込まれた被害者ということにしたいのであろう。私からすれば藤沼含め、全ての人間が加害者である。


「沢田さん。私は沢田さんが今まで私にしてきたことをイジメだとは思っていないよ」

「赤木さん・・・!」

「イジメなんて抽象的なものではなくて、器物損壊とか名誉毀損とか、言い出せばキリがないほどの犯罪行為をされたと思っているから」


沢田は青ざめた顔で硬直する。そして「私はそんなことをしていない」と喚き散らかす。藤沼は蔑むような目で彼女を見つめ、周囲の者達は無関心を装って視線を逸らす。沢田はいよいよ放心状態になり、膝から崩れ落ちる。好きだった男から失望され、今まで仲間だと思っていた者から見捨てられたのだから、ショックも受けるだろう。しかし、私が味わった苦痛とは比べ物にならない。

それに、アオイ先輩を傷つけた罪は重い。こんなもので許されていることに感謝をして欲しいくらいだ。そして私は沢田に近づき、耳元で囁く。


「・・・そのゴミ。匂うのでさっさと片付けてくださいね」

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