第12話 終わり

 私の机にはいつも誰かのサインが書いてあった。そのサインを消すところから私の一日は始まる。


 私のロッカーにはいつもゴミが詰まっている。生ゴミが入っていない時はラッキーだ。


 私の上履きにはいつも虫の死骸が入っている。靴は履く前に中身を取り出す癖がついた。


 私の名前を呼んではいけないというルールができた。私を呼ばなければいけない時は、どうにか工夫をして呼ぶというゲームも流行っている。


 私が藤沼に話しかけられた回数だけ、机を蹴られようになった。普段近づいてこないような人物が私の机のそばに来るときは、机から物が落ちないように気をつけなければならない。


 私が「やめて」と言えば笑いが起きた。人前で声を発すれば誰かがクスクスと笑うようにもなった。


 私の隣に座る人たちがソワソワとするようになった。自分も巻き込まれないかと心配しているのだろう。


 私への扱いについて他のクラスの人たちも気付き始めた。たくさんの人に私は認知されたけど、味方は一人も増えなかった。


 私の友人が、挨拶をしてくれなくなった。


 私は家族に嘘をつくようになった。


「学校楽しい? 困っていることとかない?」

「楽しいよ! 最近はいろんな人とも関われてて、良い経験していると思う。」

「そっか、まだ高校生活も始まったばかりだし、貴重な三年間をしっかり楽しんでね」

「うん! 残りの2年6ヶ月頑張るね!」


 受験や学費でたくさん迷惑をかけてしまった家族の前では、私は幸せでなければならなかった。



 夏が終わりを告げるころ、私の存在はクラスの共通悪として機能していた。私への陰口は人と人を繋ぎ、私への攻撃はカースト上位へのパスポートになっていた。その頂点に立つのは沢田ミキ。


 ある時、藤沼が私の席までやってきて、世間話をしようとしてきた。心に余裕がなかった私は、つい彼に怒鳴りつけてしまった。


「私に関わらないで!」


彼は突然の出来事にショックを受け、「ごめん」と言い離れていった。これで少しは楽になれると思った。しかし、その行為は火に油を注いだだけであった。その日から私への扱いは悪化していった。


 私を名乗るSNSアカウントが立ち上がった。それは、カースト上位の者に気に入られるために誰かがイタズラで作り出したアカウントであった。そこには私の個人情報や、私が口にしたこともないような卑猥な言葉等が垂れ流されていた。そこに他の人たちがコメントを残す。誹謗や中傷といった部類のものだ。そこにコメントを残すことは『大喜利』と呼称されていた。




ある日、なにかがプツンと切れる音がした。




私は屋上が好きになった。誰にも見つからずにゆっくりとできるから。

いつでも楽になれると思えるから。

いつもは勇気が出なかった。楽になるために必要な痛みの方が怖かった。でも、今日は違った。その恐怖よりも、楽になりたいという気持ちの方が強かった。


フェンスを登ろうと手をかける。その時、誰もいないと思い込んでいた私の背後から声が聞こえた。


「これから死ぬのかい?」

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