第二章 咲いたベロニカ

第10話 高校入学

 私は高校生になった。第一志望の高校に落ちてしまい、スベリ止めで受けていた高校に入学することが決まっていた。自分の努力不足だったとはいえ、スベリ止めの高校に入学をするということが不服であった。


「リンー? 準備終わったの?入学式から遅刻なんてしたら、悪目立ちするよ!」


一階からお母さんの声がする。私は全身鏡に映る自分の制服姿から目を離し、学校指定のカバンを持って一階に降りる。


「わかってるって。それじゃあ、行ってきます」

「はーい。気をつけてね」


お母さんに見送られながら家を出る。外の天気は曇り。せっかく咲いた桜も、その美しさが半減している。


 天気も気分も暗いまま校門にたどり着く。大量の生徒が校門に吸い込まれていっていた。制服を着なれているかどうかは一目でわかり、新入生かどうかの判別は容易であった。きっと私も周りから見ればなのだろう。そう思うとなんとなく恥ずかしい気がして、人波に紛れるようにコソコソと校舎に入って行った。


 校舎に入ってすぐの廊下にクラス分けの名簿が張り出されていた。私のクラスはA組。と言っても小さな学校だからクラスはAからCまでしかない。中学で仲の良かった友人たちは皆別の学校に進んでしまい、友人関係は一から構築し直しになる。それが憂鬱で仕方がなかった。そして、なんとなく道なりにA組の教室を探して歩いていると、背後から誰かに声をかけられる。


「おい、赤木か?」


声の主は中学の時に一緒のクラスだった藤沼カズキだった。


「藤沼くん。あなたもA組?」

「そうそう! 一緒に行こうぜ」


実を言うと私は藤沼が苦手であった。人懐っこい性格で誰とでも仲良くなれるような人物であるが、一気に距離を縮めてくる感じが私は苦手であった。


「あんまり元中のやついなくてガッカリしてたんだけど、赤木が一緒ってのは結構ラッキーかもな」

「そう?私なんかと一緒でも楽しいことなんてないと思うけど」

「おいおい、お前結構かわいい方なんだぜ? 中学同じだったってだけで周りに自慢できるだろ?」


藤沼はよくわからないことを言っていた。私の見た目は良くても下の中くらいだと思っていたからだ。


 たどり着いたA組の教室は静まり返っていた。既に半分くらい席は埋まっていたが、誰も会話をしていない。携帯をいじっている人と黙って座っているだけの人、そして机に突っ伏して眠っている人。会話をしている人は一人としていなかった。それもそのはず。今日は入学初日なのだ。高校入学していきなり悪目立ちするような行動は取りたくないという当然の心理が働いているのだ。しかし、そのが通じないやつもいる。


「おはよう! みんな! なんか思ったより静かなクラスだな。初日だからみんな緊張してんのか?」


こいつの高校生活は終わりだ。みんな目立たないようにひっそりとしているのに、そんな絡み方をすればシラけるだけだ。しかし、現実は違った。彼のその発言で何名かがクスクスと笑い出し、それを皮切りに隣の人に話かけ始めたのであった。そして少しずつ会話は伝搬していき、あっという間に騒がしい空間になってしまった。藤沼はすでに複数の男女に囲まれており、会話の中心人物になっていた。


 その後間も無くして、学級担任が教室に入ってきた。先生はすでに打ち解けあっていたこのクラスを見て驚いていた。

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