第11話 ペイヴメント
友達の友達がアルカイダっていった政治家が昔いたらしいが、俺もテロリストと友達になっちゃった。
「違う。ビートル人がてろりすとなんだ」
「なあラッド。お前テロリストなんてビートル語わかって使ってんのか」
このまま秘密にするのも後ろめたいので、とっとと自分が元ビートル人であることを明かした。ついでに女だと誤解されてることも伝えておいた。
「なんで誤解されたままにしてんだよ」
「女だと軽作業しか任されんだろ。そっちのが体力を温存できるからな。この奴隷棒は男女区別しないみたいだけど」
「ってことはお前、女子寮に住んでんのか」
「マジか。うらやま」
ラッドは単純に羨ましそうにしてるが、女子寮に入れられてることでボスに会いづらくなってんだよな。不純異性交遊は厳しく禁止されてるから。
といいつつ俺はネッドの家にお邪魔している。セーレと俺の部屋からはかなり遠く、男子寮の1階だった。なお、女子が男子の家に出入りしていることがバレればリボルビング魔法を追加されてしまうので、この密通は何としてもバレてはいけない。
別にそんなドキドキお泊りがしたくて来たわけではない。
「俺たちペイヴメントは元カクラ王国の兵士たちだ。普段は小市民のふりをして、夜になるとこうして打倒ビートルバムの作戦を日々練ってるというわけさ」
元カクラ王国兵士だったネッドとラッドはカクラ王国が滅亡した時に2人だけでなんとか逃げだした。
「あの時俺たちを逃がしてくれた先輩がいるんだ」
「きっと生きてる」
その後ビートルバムの侵略に抵抗しながらたった2人でビートルバムを打倒しようと行動している。
それをビートルバムに察知されて、逮捕。両津勘吉並の魔法負債を背負わされてファクトリーの底辺で強制労働に従事させられている。
そんな説明を俺にしてくれながら、ネッドはベッドの端にある置物を移動させる。すると壁が動いた。そして現れたのは武器。
忙しいブラック勤務の傍ら少しずつ集め壁を改造して武器庫にしたそうな。
「できれば全部銀色で統一させてほしかったな。その方が、なんていうか、宇宙人とも戦えるって感じがして」
「よくわかんねえけど」
というわけで晴れて俺もテロリストの仲間入りをした。
テロリストとして認められる最小人数であろう2人で活動している反ビートル人組織ペイヴメント。最終的にはビートルバムの打倒を目指しているらしいが、当面の目標は人数集めだそうで、ネッドとラッドはまず元カクラ王国の人間たちに声をこっそりかけているらしい。
なんにせよ仲間が増えたのはよかった。
異世界にLINEなんてもんは存在しない。セーレを助けた後に試しにスマホを開いてみたがLINEを開くどころか電源すら起動しなかった。
水没したからかもしれんが。
というわけで俺はセーレに連絡する手段を持たなかった。中世ヨーロッパってやっぱ不便だな。
そう思いながら心肺機能の限界を超えるくらい全力疾走でセーレの待つ家に向かった。きっと怒られる。浮気を疑われる。下手したら離婚問題になるかもしれない。
嘘。
でも日付が変わるくらい夜に「今帰ったぞお」ってのがやばいのは事実。俺は【ヒーリングファクター】をフルに使いながら休むことなく走り続けて、人知を超えたスピードで家までたどり着いた。
電気がついていない。セーレはまだ帰ってきてないのだろうか。そんなわきゃない。
嫌な予感がする。
「セーレ!」
そう叫んで、玄関をぶち開ける。目の前には真っ暗な空間が広がっていた。
「あ、ユキノ。遅かったね」
その闇の奥からセーレのか細い声が聞こえてきた。
「お前、電気もつけずに何してる?」
「電気?ああ‥‥‥なんかつける気になれなくて‥‥‥」
セーレは真っ暗の部屋の中、うずくまっていた。作業着から着替えてもいない。
「セーレ、お前。ああ、早すぎる」
クソっ。まさかメンタルのダメージがこんなにも早く進行するなんて。
「あれ、もうこんな時間だ。早く寝て明日に備えないと。でもなんか眠りたくないなあ‥‥‥」
ふらふらと幽鬼のように立ち上がってベッドに向かおうセーレ。だが暗い中そんな歩き方をしているためにけつまずいてこけてしまった。慌てて抱きかかえるとその身体は驚くほど軽かった。
「……セーレ‥‥‥そうだ!有給だ!!」
「ゆう‥‥‥きゅう‥‥‥?」
現代日本の会社なら有給という制度がある賃金をもらえる休みだ。この制度を利用すればひとまずセーレを休ませてあげられる。
「そんな‥‥‥制度‥‥‥あるわけないじゃん‥‥‥ファクトリーだよ?」
そうだった。ここはファクトリーだった。現代日本にも存在しないブラック企業。それがファクトリーだった。
ならばサボろう。普通にさぼりゃええねん。
「だ、ダメだよ!私班長なんだよ!?私が休んだら工場が、工場が回らなくなっちゃう‥‥‥!!」
このセーレという女子は責任感が強い。お前も俺も会って数日だから知らなかったよな。
俺がサボろうと提案した瞬間、セーレは跳びかかるみたいに俺の腕をつかんで必死な顔で食らいついてきた。
「わ‥‥‥わかった。落ち着け、落ち着け。そう、そうだよな。セーレは班長だもんな」
それ以前にロンド王国の第一王女だろうって言いかけたがやめた。いったいどんな仕事を任されているのかまでは知らんが、真面目な性格につけこまれてあれやこれやと仕事を押しつけられている。
俺がなだめたことでセーレは落ち着き、そのまま眠りについた。
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