第5話 リボルビング
俺はセーレとボスとアルジェを目指すことにした。
ボス以外の山賊たちは草むらの裏にあるアジトに寝かせておいた。
それでいいらしい。彼らもまたファクトリーの工員だったそうだ。
「で、そのファクトリーは何作ってるところなんだ」
「ビートルバムの全て。アルジェの街を丸ごと大きな工場に変えて、ビートル人がぜいたくな暮らしをするために一日も休まず稼働してる」
「街丸ごと工場にしたってのか。すげえなおい」
いくらチートを持っているからって首都を潰して丸ごと工場に置き換えるなんて、どうやって。
「お前ら反抗しなかったのか。いくらビートル人と言えどたかだか数十人だろ、市民全員で闘えば何とかなるはずじゃ」
「チートよ」
苦虫を噛み潰したようにセーレが答える。数十万人はいたアルジェ市民はある1人のビートル人のチートによって、敗北。
「ヒャクイチというビートル人がアルジェのみんなに魔力をばらまきました。雨に魔力をしみこませて。魔力の雨は疲れた体に心地よく、アルジェ市民はビートル人を歓迎しました。ですが実はあの雨こそがヒャクイチというビートル人のもつ【バンク・アカウント】というチートだったのです」
「ひゅー、かっけえ名前」
「その力は、ビートル人の言葉でリボルビングというそうです」
「魔力の雨を降らせるチートの何がリボルビングなんだよ」
リボルビングって回転だろ、リボルバーとかの。
じゃあ銃を無限に撃てるチートの持ち主が空から機銃掃射でアルジェ市民を一掃したのかっていうと、どうやら違うらしい。
「魔力の雨を浴びた人間は、魔力をヒャクイチに返済しなきゃいけない。ただしその魔力は、利息?がついて、もらった分より少し多くしなければならない。それがヒャクイチの【バンク・アカウント】」
「リボ払いってやつか」
どうやらこの世界にはまだリボ払いという概念がないらしい。なんて平和な異世界だろう。金利15パーセントなんていう地獄を彼らはまだ知らないのだ。
「ビートル人が特に何もせず帰った後、アルジェ中の人間が魔力切れを起こして倒れだした。それがヒャクイチのチートだと判明するころにはアルジェの人間は誰も魔法が使えなくなっていた」
そのタイミングを見計らってビートル人がアルジェに侵攻。一瞬のうちに侵略されあっという間にファクトリーが建設された。
「そしてへろへろになったアルジェ市民たちはファクトリーに収容された」
「そう。もし仮にリボルビングが自身の持つ魔力を越えたら、その時は」
「おん?」
「死ぬ」
死ぬの。死ぬんだ。
「だからアルジェのみんなはファクトリーで働き続けるしかない。致命的に増えた利子を返すために」
なるほどな。
‥‥‥でもリボ払いだよな。
「……リボ払いってのは月々一定の額を払えばいいっていう素敵なシステムだ。だからその月にいくら借りたとしても返す額は一定」
「そこがわかんないのよ。そこまでは王国の研究者たちも掴めたけど、だとしたらビートル人にメリットがない。死ぬって脅されたけど、実際にリボルビングに殺された人はいない」
「ビートル人はお前らから魔力を徴収するために【リボルビング】をしたわけじゃない。このリボ払いをファクトリーの従業員に課した最大の狙いは、ずっと働かせるためだ。毎月働いて返せる魔力より利子で増える借りのが多いから、アルジェ市民はずっと働かざるを得なくなる。しかも魔力は多分生活できるギリギリ残るように調節されてんだろうな」
生かさず殺さずずっと自分たちの国を豊かにするためだけに働く存在。それを作りたくて【リボルビング】なんてチートを振りまいたんだ。
「ひどい……それじゃ、アルジェのみんなは一生ファクトリーから出られないっていうの……」
「多分親の借りたぶんは子どもが支払うことになるだろうぜ、たとえその子が雨に降られていなくてもな」
森を抜けると高台に出た。すでに日も傾き始めていたのだが、さすがファクトリーはギラギラと光を放っていた。
まるで要塞のようだった。刑務所だかそれとも本当にどっかの工場を模したのだかしらないが、中世ヨーロッパに不釣り合いな鉄と錆びのの巨大建造物だ。
「前言撤回したい気分だ。こりゃ俺一人じゃどうしようもないかもしれん」
せいぜい10代の少年少女が作る代物なんてと侮っていたが、こんな規模の工場持ってる企業なんて日本でも数少ない。
豊田市よりえげつない規模してるぞこれ、49人でどんな贅沢してやがるってんだ。
「だが、工場を壊す必要はない。要はそのヒャクイチってやつをぶっ倒せばアルジェのみんなは解放されるんだろ」
「それはそうだけど、でもユキノ、方法はあるの?」
「リボ払い対策ってことだろ。まあそれなら方法はある……てか、お前ら2人はリボルビングを逃れられたのか」
セーレもボスもアルジェ市民のはずだ。だとしたらリボ払いを完済したのか。俺の問いかけを聞いた2人は少しの沈黙の後、同じ答えを言った。
「解放されてない」
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