#040 こんな僕にも帰る場所というのはあったんだなって再確認した
「身分を確認できるものは?」
「……ないですね」
国境の門が開いて一番に入ったら、完璧に忘れてた質問をされてしまった。グラシエラの衛兵のお兄さんが僕のまずったな表情と発言で眉根を寄せる。
「いやでも、僕はアルソナの人間なんです。アルソナ帝国において、ビンガム商会のコーディネーター、エルと言えばそれは僕で、帝都ラ・マルタでも超有名ですよ」
「そんなことは知らん、身分確認ができないなら出国させられない」
むうう、しっかりしていらっしゃる。
こういう規則に立ちはだかられると癪だけど、かと言って押し通るというのは、他のちゃんと身分証明できるものを持参した人への筋が通らなくなっちゃう。
「出直します……」
この場は一度、諦めることにして引き下がっておいた。
国境まで来られたのだから、もうヘイネルは目と鼻の先なのだ。レティシアにもらった紙束を取り出して一筆したためる。これをアルソナに向かう人に託して首尾よくヘイネル出張所の誰かに助けを求める作戦である。
具体的に言うと、何か僕のことを証明できる物品をここまで届けてもらうつもりだ。そうすれば通行することができるようになる。ふっふーん、持つべきものは頼りにできる仲間だね。
そして国境の通行審査を待つ人にお願いして手紙をヘイネルの出張所へ届けてもらう約束をした。約束通りに手紙を届けてくれたらお礼をあげるという条件だ。手持ちの金品はないけどヘイネルにはいくらでも僕の財産がある。出張所の人に建て替えてもらってお礼を渡してもらうのだ。
手紙を託した人が国境を通過してから、それなりに待っていたらアルソナからグラシエラに人が出てきた。一瞬、その顔を凝視してしまった。相手もすぐ僕に気づいて駆け寄ってくる。
「エルくん!」
「あれ、エイワスさん? エイワスさんが自ら?」
「グラシエラにいたのか!? 一体どうして? それもいきなり消えて、商会本部から何か知らないかと報せが届いた時は気が気でなかったんだ。しかし無事で良かった。精霊器狩りの事件に巻き込まれたんじゃないかと心配していたんだ」
「実は巻き込まれまして……」
「何?」
「それで、気づいたらグラシエラの南部に飛ばされたと言いますか、一瞬で。それで地道に歩いて帰ってきました。まだ厳密には帰れていないですけど」
「そうか。とにかく良かった。きみの家から身分証を引っ張り出してきた。それと連れの少女がいるとも手紙があったが、この子かい?」
「はい。彼女はリアです。事情がある子なんですけど、通れそうですか?」
「問題ない。ビンガム商会の一員ということにして、身分証を発行しておいた」
「ありがとうございます」
「とにかくヘイネルへ戻るとしよう」
「はい。あ、リア。こちらはエイワスさん。僕の上司だよ」
「じょーし……」
やっぱり、けっこうな心配をかけてしまっていて申し訳なかった。
でもどうにかこうにか、五体満足でアルソナへと帰還できたのである。
▼
ヘイネル出張所が懐かしかった。
出張所の事務のお姉さん達もかなり心配してくれていたようで中には泣きだしてしまったような人までいた。
これまでの経緯をエイワスさんに報告をする間に夜になってしまった。リアは僕と離れたがらず、報告の間ずっとソファーで一緒に座っていたけど気づけばぐっすりと眠ってしまっていた。ヘイネルの僕の家は掃除なりをしないと使えそうになかったから、すっかりヘイネルの街の名物酒場となった酒場の二階の宿でお世話になった。
久しぶりに食べた焼き鳥も煮込みもおいしかった。リアも夢中になって食べていた。おばちゃんも随分と心配してくれていたようで再会するなり思いっきり抱きしめられて苦しかった。
お風呂で旅の垢をごっそり落とすのも一苦労だった。おばちゃんにお願いしてリアの体も綺麗に洗ってもらった。お風呂上りのリアは自分の肌を指でこすり、その触り心地の違いにやみつきになったかのようにずっと繰り返すほどだった。
ともかく、アルソナには帰って来られた。
あとはラ・マルタに行ってギルを起こさなきゃならない。
ヴァイオレットからギルがどこにいるかは聞き出していた。きっと、まだ僕を狙っているだろうからあえて、そのままにしているはずだ。十中八九、罠を用意していると見られる。でもその時はその時だ。
最悪、罠で満身創痍になって、また魔力を封じられたりしてしまっても、ギルを叩き起こしさえすればその場を切り抜けることはできるのだから。
いつも通りの早起きをするつもりだったのに、自然と目が覚めたのはもうお昼前ほどだった。リアは部屋にいなくて、階下に行くとおばちゃんと一緒にいた。
リアが使い古しっぽい大きなエプロンをつけ、箒を手にしている。おばちゃんはその掃除ぶりを見ながら何か話しているという感じだ。
「おはよう、おばちゃん」
「あら、おはよう、エルちゃん」
「リアも、おはよう」
「うん、おはよう……」
「2人でどうしたの? ガールズトーク?」
「何言ってるの、エルちゃん。ガールなんて年じゃないわよ、あたしは」
とか何とか言ってはにかんでニヤけちゃうんだから、おばちゃんはかわいいところがある。ただ、おじちゃんが厨房で仕込みをしながら苦笑している。それを見られたら怒られちゃうよ。
「手伝いの子が最近辞めちゃって困ってたんだよ。それでちょっとリアちゃんにお手伝いしてもらってたのさ」
「そうなんだ……。リア、お手伝いはどう?」
「……床、汚れが落ちないの」
「掃き掃除ばっかりだもんね……。拭いたりしないの、おばちゃん」
「拭いても落ちやしないのさ」
こびりついちゃってるということか。ここで飲み食いする人って、基本的にマナーのマの字も知らないから汚いんだよね。で、床に落ちちゃった食べこぼしとか平気で踏み潰して床と末永く幸せにさせようとしてくる。
「……確かにこれはもう、落ちそうにないね」
「だからもう諦めちゃってねえ。エルちゃん、もしかしてこういうのもどうにかできるかい?」
「方法としては……薄い金属の板みたいので、ごりごりこそぎ取るとかかなあ」
ゴリ押しでなければ、こういうのは重曹とお酢を混ぜた洗剤とかも有効だろうか。
重曹は
電気は、こっそり僕が魔術で起こしちゃえばいいかな。
「うん、やっぱり手作業は大変だから、化学の力を使おうか。少し素材の調達で時間かかっちゃうから、すぐは取りかかれないけど」
「やっぱりエルちゃんは頼りになるわねえ」
「おばちゃんにもおじちゃんにもお世話になりましたから。いや、進行形でお世話になってるね」
「何言ってるのさ。エルちゃんがうちを繁盛させてくれたんだろうに」
ばしっと背中を叩いて笑われたけど、なかなかの衝撃でよろめきかけた。パワフルなんだよなあ、おばちゃんてなかなかに。それとも僕がひょろすぎなんだろうか。おばちゃんがパワフルということにしたい。
「そうそう、エルちゃんに頼みたいこといっぱいあったのよね。新しいメニューとかないかしらね? 飽きてきたとかいうお客が出てきちゃって」
「新メニューかあ。……うーん、分かった。じゃあちょっと市場でも眺めて何かいいのがないか探してみる。リア、一緒に行く?」
「わかんないけど行く」
「うん。それじゃすぐに出発しようか。行ってくるね、おばちゃん」
「はい、行ってらっしゃい。リアちゃん、気をつけるんだよ」
そんなこんなでリアと一緒に市場へと向かう運びとなった。
何度か来ているけれどヘイネルの市場は農作物や果物が中心だ。
見た目にも珍しい野菜なんかはたくさんある。僕が知っているお野菜とはやや違う見た目ながらも、似たようなものというのはそれなりにある。茄子はおっきくて、楕円に近い。アーモンド形とでも言おうか。ちょっとくびれて細くなる。長ネギはそう長くはない上にやたらに太い。僕の喉より一回りは太いかも知れない。トマトも縦長の楕円に近い。大きい。そして赤いものはあんまりない。緑が強くてやや黄色みがかっているのかなという程度の色合いのものばっかり。ちなみにこのトマトは酸味がとっても強い。大根は逆に小さい。というか、白くて太くて髭を生やしたあの大根とは見た目がまったく違う。むしろ二十日大根だ。ラディッシュそのもの。
あんまり見慣れないお野菜というのも多い。黒くて丸くて小さな、サイズは直径4、5センチ程度の謎のお野菜。切ってみると中は薄黄色がかった白に近くてけっこう瑞々しい。味は何と言うか、ないに近い。食感はさくっとする。聞いてみたところ、プチクロとかいうらしい。プチクロ。響きがかわいい。しっかし、見事に無味。香りはほのかに、大根に似ているんだろうか。
あとは香草なんかもけっこうたくさんある。これはもう名前と香りを結びつけて覚えるのがとっても難しい。たくさんありすぎるんだもの。
それからフルーツ。基本的にどれもこれも酸味が強すぎる。甘くておいしいのは収穫前からすでに別で確保されてしまうから市場には出されないらしい。そんなわけで庶民が手に入れられる果物はそうおいしいわけではない。酸味と甘味のバランスという意味で、とってもとっても酸味ばかりが強すぎるのだ。
「さてと……適当に色々と買ってきたものの、下ごしらえとか分からないや」
「いっぱい買ったな」
お買い物を済ませて酒場へ帰り、厨房の一角を借りて食材を広げる。おじちゃんが焼き鳥の仕込みの串打ちをしながらこっちを見ている。
「おじちゃん、下ごしらえのやり方教えてくれる?」
「じゃあ串打ちも手伝ってくれな、エル」
「もちろん」
野菜ごとの皮の剥き方だとか、食べられないところの除き方だとかをおじちゃんに教わる。さすがに長年、酒場の主をしているだけあっておじちゃんは包丁使いが上手だ。同じようにやってみようと思ってもコツを掴めなくてなかなかうまくいかなかった。
でも歪なりにもどうにか下ごしらえを済ませられた。
あとは片っ端から試すのみだ。まずはお野菜の素焼き。炭火ならば素焼きだろうととってもおいしく焼き上げられるはず。
「おじちゃん、おばちゃん、リアも。試食してみて」
焼き上がったものを片っ端から試食してもらう。
味つけはお塩か、マヨネーズ。マヨ大好きになってしまったらしいリアは何でもマヨをたっぷりつけて食べている。
でも素焼きだとそこまであんまりっていうような反応だった。
天ぷらとかどうだろうと思ったけど油は高級品でおいそれと使えないという理由で断念した。
そうなるとやっぱり、素焼きなんていう程度ではない、もっとちゃんとした調理が必要ということになってくる。酒場の営業が始まっても厨房の片隅で試行錯誤をする。
そして不意に発見したのはプチクロちゃんが焼くとかなり変化するというものだった。見た目は黒いミニトマトみたいなもので、下ごしらえもヘタを取るだけ。でもそれが、半分に切って火を入れると茄子めいたとろとろ加減になるのだ。単体ではほとんど味はないけれど、焼き鳥の油が跳ねたところを偶然にも食べたらめちゃくちゃ美味しかった。というか、これって茄子の仲間なのかも知れない。きっとそうだ。
と、気づいてからは早かった。鉄鍋に串から外した焼き鳥と、4つに切り分けたプチクロを放り込んで炒め合わせたら、鳥の油をたっぷりプチクロが吸ってすごくおいしい炒め物ができあがった。
「おばちゃん、これならおいしいんじゃない?」
「おいしいけど、目新しいもんじゃあないからねえ……」
「あれ?」
普通に家庭料理として浸透されているものぽかった。
なかなかうまくいかない。これは流行ると確信したのに。
それならばと、鉄板の上にプチクロのスライスを敷き詰めてその上へ香草でマリネした鶏肉を配置して窯に突っ込んで焼き上げた。鶏肉が焼けて油はプチクロに染み込んでいくという仕組みだ。
「これならどうですか!」
「これは、鼻につんときすぎるねえ……」
「ハーブって難しい……」
やっぱり、こうなると調味料が欲しくなる。
具体的にはお醤油、お味噌なんかが欲しい。あるいは海産物であったり、せめて川魚なんかが安定して仕入れられるのであれば、そういうのの塩焼きで充分においしいのができるはずなんだけれど、生憎だったりしている。
買い込んできたものはいずれも失敗に終わり、意気消沈しながらもピークタイムを迎えた酒場のお手伝いをした。厨房とホールを出入りしながらお客さんと喋ったりしつつ、焼き鳥の串を打ったり、煮込みをよそって持っていったり、また談笑したり。
何だかんだ、こうしていると、この平和な忙しさがとっても安心させられる。おじちゃんもおばちゃんもやさしいし、それなりにここへ来るお客さんも顔馴染みが多いし、これが実家に帰ってきたような安心感というやつなんだろうか。ということはここが僕の実家になってしまうんだろうか。
ある意味では間違っていないかも知れない。出発点という意味ではここだったのだ。が、しかし、僕にはやるべきことがまだまだあったりする。あるいはずっと、ここで働きながら暮らすのも悪くないのかもだけれど、それはもっともっと、ずうーっと先になってから本格的に考えることなのかなと思ったりした。
▼
「5万ロサを支払ったから、リアはこれで一等国民ね。で、これからのことなんだけれど」
「……これから?」
一緒にリアが一等国民へ上がるための5万ロサを納めに行った。その帰りの道すがらにリアと話さなくてはならないことがあった。
「僕は用事があって旅に出なくちゃいけないんだ。それでね、リアには、あのお店でおじちゃんとおばちゃんのお手伝いをしてもらえらたなって思っているんだけど、どうかな? 丁度、人手が欲しかったっていう話だし、2人は大歓迎だからリア次第なんだけど」
「……おばちゃんは、好き」
「うん」
「……でもやだ……と思う」
「嫌なの?」
ちょっと意外だった。なあなあでリアも酒場の手伝いをしていた。何ならおばちゃんがメインでやっている二階の宿も手伝っていたと思った。おばちゃんもリアのことをかわいい、かわいいって喜んで世話を焼いている感じだったし、てっきり、関係は良好だとばかり思っていた。
「じゃあ、リアは何か他にしたいことがあるのかな?」
「……エルと一緒が、いい」
「僕?」
しかしそれって、つまりはリアを僕の旅に同行させるということだ。
かなり危険だ。どうにか、まだ僕が生きていられるのは運が良かったとか、危機的な状況ではあっても1人だったから身動きを取りやすかったとか、そういうところが大きかったりする。
こんな危ないことが頻発することが目に見えているような旅だ。それこそギルのような人でもないと一緒にはいられない。何が起きても、自力でどうにかできるという信頼を寄せられる相手はそうはいないのだ。
「……ダメ?」
「うん、悪いんだけどとっても危ないんだ。この前の夜も、びっくりしたでしょう? だからね、きみを連れていくわけにはいかないのさ」
今度は嫌とも、分かったともリアは言わなかった。
黙々と歩いて酒場まで帰ってくる。おかえり、と気さくにおばちゃんが声をかけてくれて、ただいまと返す。
「リア、さっきのお話の続きをしよう。座ってくれるかい?」
テーブルを一基借りてリアと対面に座る。
「……できることなら、リアにはリアのやりたいように、もちろん、法と道徳が許す範囲内に留まった上で、好きにしてもらいたいと思ってる。ここでおじちゃんとおばちゃんを手伝って暮らしてくれるなら、ここはきっともう、僕が帰ってくる場所になっているから、たまにだけれど会いに帰ってこられると思っているんだ。
でもね、僕もそうだけれど、リアだってとっても若いんだ。可能性という意味で、酒場と宿屋を兼ねたこのお店以外で活躍することだってきっとできる。でも、いきなり、やりたいことをやるというのも難しいことさ。経験がない、知識がない、そんな問題が生じてしまう。そこでね、学校へ行くことも選択肢には入ると思うんだ」
「がっこー?」
「うん。お勉強をするところさ。同じくらいの年の子が集まって、集団生活を送りながら社会的な常識を身につけたり、人と人との関わり合いを覚えたりね。ヘイネルにも1つだけあって、けっこう学費とかはかかっちゃうんだけど、リアがそこに行きたいと思うのであれば費用は僕が全て援助するよ」
「…………」
「どうだろう? リアはどうしたい?」
問いかけてもリアは困ったようなしかめっ面で黙り込んでしまうばかりだった。彼女の希望は僕と一緒にいるということだったから、それ以外については想像することもできないのかも知れない。
だけどこればかりは、僕がこうしなさいと決めるわけにはいかない。
「もちろん、学校に通いながら、ここでお手伝いをするというのもいいし、お勉強が苦手でやりたくない上、ここでお手伝いっていうのも気が引けるなら、どこかで働けるようなところを一緒に探すよ」
「……わかんない」
「分からない、かあ……。そうだよね、難しいことだからね」
「何が、いいの?」
「……うーん、これはリアが自分で決めるべきことだからね。自分で決めてもらいたいな。僕が提示してあげられるのは、ここでお手伝いしていくか、学校へ行くか、あるいはリアに別の何かやりたいことがあるなら、どうすればいいかを考えてあげることはできるけれどね」
やっぱりリアは何も答えられない様子だった。
どうしたものかなと思いながら待っていたらずっと掃除の片手間に見守っていたおばちゃんが痺れを切らしたようにやって来る。
「リアちゃん、学校なんて行きたくても行ける子はいないんだから、学校にお行きよ」
「お、おばちゃん……」
「お金があったってダメだって言われちゃうようなところなんだよ? 不安ならうちから通えばいいじゃないか。そうしたらね、おばちゃんが文句でも何でもすぐに言ってあげるから。ね、そうおしよ。ちゃあんと学校を卒業したらエルちゃんみたいな立派なお仕事にも就けるようになるんだよ」
「……エルみたいな?」
「いやでも、僕は学校行ってな――」
「そうさ。賢いお利口な子になれればそれだけで儲けものだからね」
最早、聞いちゃいない。おばちゃんとしては学校を出るということにものすごい価値を見出しているようだ。でも確かにそういう感じはある。ビンガム商会だって基本的には学があることが採用条件の1つになっている。僕は色々と別だけど。
「エルちゃん、エルちゃんなら何も言わせずにリアちゃんを学校へ入れてあげられるんだろう?」
「え? うーん、まあ、多分。貴族特権もあるし、お金もあるし。汚い話だと学校側も多分、僕に恩を売りたいとか、コネを作りたいとかあるだろうし……」
「それならね、こんなチャンスはないから。リアちゃん、学校に行きなさい」
「う、うん……」
ゴリ押しすぎる。リアも勢いに負けたのか、他に彼女の中で判断材料を見出せなかったからなのか頷いてしまった。
「ああ、良かった。それじゃあエルちゃん、ほら、早く学校の手続きとかあるだろう? やってきておくれよ。ね?」
「あ、はい。……でもあれだよ? 一応、最低限の学力みたいなのは入学までに必要だとは思うから、その辺はしっかり勉強しなくちゃだからね?」
「え……」
「大丈夫、大丈夫。リアちゃんは若いんだから何でもすぐ覚えられるのよ? おばさんくらいの年になるとね、もう新しいことなんててんでダメ。いつもエルちゃんに教わってばっかりなの。だからね、リアちゃんもおばさん達にいっぱい、色んなこと教えてちょうだいね?」
「……うん」
おばちゃんのこのパワフルさには頭が上がらないものの、何だかんだでおばちゃんにほとんど間違いなんてないんじゃないかと思ってしまう。
きっと、リアもおばちゃんから色んなことを教えてもらって、失くしてしまったものを取り戻していけるようになると思う。
世の中にはやさしい人だって、ちゃんといっぱいいると体感でリアも分かってくれるだろうか。そうしたらリアも誰かにやさしい人になって、そのやさしさで、またやさしい人が増えていくはずだと信じたい。
ちっぽけな僕ができる、ちっぽけな願いだけれど、世の中を変える一歩にはきっと変わりないと僕は思う。
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