#025 誰かの策謀な気はするけれど真実には辿りつけなかった

「仕事が、終わらない……。どうして百貨店なんかまた提案しちゃったかなあ、僕は! もうっ!」

「お前、頭大丈夫か? てめえでてめえにキレだすとか末期だろ」

「その手使えるかなあ。頭パーになったので蒸発しますみたいな……」

「イッちゃってんな、やっぱ。仕事なんざ、人のするもんじゃねえや」

「ほんとだよ……。でもそんなこと言うなら、一丁前に働いてからにしてよね。毎日、毎日、遊び呆けてほっつき回って、お酒臭くして帰ってきてはぐうすかいびきかいて眠って……まったくもう」

「へいへい、遊んでばっかで悪うございますー。悪いついでに遊ぶ金くれよ」

「……いくら?」

「適当に。5000ロサとか」

「はあ……。ギルみたいのが文字通りの独身貴族とでもいうのかな……」

 金子を出してギルに投げると中からコインをより分けるようにして懐へしまいこんでいた。ベッドへ座って残っている仕事を頭の中でリストアップする。どんなに詰め込んでも5日はかかっちゃいそう。どんどん長引いてしまう気がする。

 適当に切り上げて丸投げしようとしたけれど、そうして僕の方ではクローズにしておいた案件について、現場からの判断を求められたりしちゃって結局は一から十まで細かく指示をするはめになったことがある。だから一発で完璧にプランを組み立ててリリースするようにしてはいるものの、そうなると今度はあちこちから色々と情報を汲み上げて精査して組み込んでとめちゃくちゃに工数が増えていってしまう。だから終わりが見えない。

「お前もたまにゃ遊べって」

「僕はそんな時間を切り捨ててでも、早くラ・マルタを立ち去りたいの」

「さいでっか……たく、生真面目っつうか……」

「効率って言ってもらいたいね。おやすみ!」

 ベッドへ潜り込む。

 断る勇気はちゃんと持っているはずなのに、それでも断りきれない事柄というもののせいでスケジュールをパーにされると何もかも総崩れになってしまいかねない。直近だと精霊器強盗事件だ。いや、まだあれは百歩譲れる。でもその後の事情聴取がもうやっていられなかった。何遍も何遍も同じことを話したのに解放してくれなかった。挙句に善意から情報提供に赴いていたのに、どこの誰かも忘れたお偉いさんがやって来たかと思ったら縁談話だもの。この王都にはどれだけ未婚女性がいるんだろうか。

 こんなことばかり続くと僕でも堪忍袋の緒が切れかねないとまで思ってきた。

 一秒でも早くラ・マルタからまた旅に再出発をしたかった。


 ▼


「よう、暇してんだけど何かねえか?」

 あまりに暇すぎてエルのとこに顔を出してみた。部屋へ入って声をかけるなり、羽根ペンを持ったまま顔を上げたエルがしかめっ面をする。

「僕は忙しいのでお引き取りください」

「そんな顔するなってえの」

 エルの机へ腰かけて、積まれてる書類を一枚つまんで眺めてみる。てめえの名前書けなかった小僧が小難しい言葉を仰山使った文章を読んだり書いたりってか。そう長い時間が経ったわけでもねえのにすーぐ何でも覚えられるのか。

「邪魔しないでよ」

 俺の手にしていた紙っぺらを取り返された。

 最近かなーり機嫌の悪い時が多い。よっぽど仕事に辟易としてるだろうに、どうして生真面目に毎日飽きずにこうもよく働いているのやら。

「そう邪見にするなってえの。お前も好きで勤労に努めてるわけじゃあねえんだろ? だったらたまにゃ、お兄様の顔を立てて――」

「ギルの顔なら散々立ててあげてますぅー」

「どこで?」

「……今朝、持ち込まれたんだけど、酒場の喧嘩での弁償とか」

「記憶にねえや」

「昨日は自慢の剣を安物呼ばわりされた上に叩き折られたのをどうするんだってクレームも」

「あーあーあー、なーんか、そういうのあったような?」

「さらに前には! 無銭飲食!」

「偶然、持ち合わせがなかったんだろうな。しゃあねえや。立て替えてくれたんだろ?」

「立て替えましたよ? 立て替えた上で、どうせ蒸し返しても反省の色なんてこれっぽっちも見せないだろうし? だからなーんにも言わずにおきましたけど? ご迷惑をかけた方々には弁償した上で誠意の印として贈答品用意したけど? 僕はギルの顔に泥を塗っていますか?」

「……お、おう、悪い」

 何かもう、何も言えねえ。

 はあ、と呆れ返っているとばかりのこれみよがしのため息をしてからエルはまた机に向き直って羽根ペンをカリカリさせる。このカリカリ音はこいつの虫のいどろこみたいなものなんだろうか。

「……余計な世話かも知れねえけどよ、カリカリしてっと禿げるぞ」

「誰のせいさ! んもうっ! お邪魔虫はたいさーん! 出てってー!」

 怒られついでにとうとう椅子を立ったエルに部屋を押し出された。みみっちい腕力じゃあったが、腕を突っ張ってからかってやったらもう数日は口を利いてくれなくなりそうな気がしてされるがままに出ていった。

「はぁーあ……大して時間も潰せなんだな……」

 廊下でひとりごちる。

 まったくもってせちがらい。

 どうしてこう邪見にされにゃあならんのか。

「――む、エルに用事かね」

「ん? おう、しばらくぶり」

 暇だから建物の玄関ロビーにある立派なソファーを陣取ってとりあえず座っていたらビンガムが奥から出てきた。

「暇して冷やかしに行ったらキレられちまってよ。追い出されちまった」

「ふむ。彼は今、3件の新規事業と2件の事業改善提案をしているところだったか。本来ならば時間をかけて1つずつ取り組むべき案件を同時並行しているのだ。よほど早く終わらせたいのだろう。順番にやれば5年以上はかかってもしかるべき案件だ」

「マァジでか。あいつ、その内、頭パーになっちまうんじゃねえの……?」

「確かにやや働きづめで心配ではあるな」

「よう、ボスなんて呼ばせてるくれえなんだ。部下に休みくれえやれって」

「現在、彼は休暇中で自主出勤をしている状況だ。つまり休みは与えている」

「そらどーにもなんねえわ……。だったらボス命令でもくれてやれよ」

「どのようなかね?」

「1日外で遊べとか」

「ふむ……。他ならぬ貴殿の頼みだ。そのように命じてみよう」

「おお、話が分かるじゃねえの。さすがだな、ビンガムのオッサン」

 肩を叩くとビンガムからも背を叩かれた。そのまま少し屈むようにして俺の耳元へ口を近づけてくる。

「だがわたしも商売人だ。きみの望みを受け入れる対価として、わたしの望みもきみに」

「言ってみろよ。タダであんたに何かされたってエルが聞いちゃあよ、また叱られちまう」

「知人が明日ラ・マルタへ訪れることとなっている。彼女は精霊器を所持しているが戦うためのものではない。護衛を頼めるかね」

「期間は?」

「3日」

「乗った。そんならエルも1日以上は休ませてやってくれや」

「うむ。互いに上々の成果となることを願おう。客人の名はフェロメナという。明日、エルと同じ時間に来てくれたまえ。彼女と引き合わせよう」

「あいよ――ってエルの休みはどうなる?」

「明日の朝に命じるつもりだ」

「……ならいいやな。よっしゃ、いい暇潰しができた。ぼちぼち酒場も開くし、そいじゃあな、ビンガムのオッサンよ」

 商会を出ていく。フェロメナとかいう女が美人だったら猶更にいい。

 今日も馴染みになってしまった酒場へ足取り軽く向かう。エールをピクルスでやりながら、酒に酔いしれた。いやはや、虚しくも充実した日々である。


 ▼


 出勤して、メリッサさんがお茶を淹れてくれて、それを飲みながら1日の仕事の段取りを考えていた、そのタイミングでボスがいきなり来た。ビビッていたら市場調査をしてほしいとか意味不明なことを頼まれた。

「おかしいよ、どうして今さら市場調査を僕がしなきゃいけないのか……。しかも別に何かの物品についての調査ってわけでもなくてラ・マルタ広範における調査とか」

「何か深いお考えがあるのだと思いますが……」

「それにしたって、僕はちゃんとマーケティングは欠かしてないもの。特に最近なんか百貨店のために調査してもらって、その資料ぜぇーんぶにきっちり目を通したばかりなんだから」

「エル様の目で調査をしてもらうことが目的であるとか?」

「うーん……。むしろ僕ってデータ以外じゃああんまり知らないんだけれどなあ」

「では息抜きのつもりでお買い物を楽しまれては?」

「……どうせ休暇中だものね。そうだよね……。意図が不明だし。……でもどこに行こう」

「欲しいものなどはないのですか?」

「欲しいもの?」

 何かあったっけかなあ。

 靴はこの前直したからまだまだ使えるし、服も足りているし。ハンカチもしみを落として綺麗に洗った。

「……何もない」

「えっ」

 メリッサさんに疑われた。

「な、何かないのですか? 新しいお洋服ですとか、おいしいものを食べたいですとか……」

「それがさっぱり。物は足りてますし、ご飯はお腹が膨れればある程度は満足できちゃうというか、3食いただける身分というだけでいいというか」

「……本当に何も必要ないのですか?」

「ないんだなあ、これが……」

 衣食足りて礼節を知って、あとは人間は何をすればいいものなのやら。

 物欲が薄いって我ながらけっこう困った類の人間なのではなかろうか。

「しかしそれでは、市場調査をどうされるのです……?」

「どうしましょう……。歩き回っても疲れちゃうだけだし、のんびりゆっくりくつろげるところでもあればいいんですけど」

「くつろげるところ、ですか……。わたしの家などにお招きしても困ってしまわれます、よね?」

「メリッサさんのお家?」

「小さな商家でしかないのですが……」

「是非行きましょう。市場調査の名目にもなるので」


 持つべきものはやはり、ビンガム商会のアシスタントのお姉さんだ。

 メリッサさんのお家はラ・マルタでも円周部の小さなお店だった。周りは集合住宅ばかり。そんな中で営む雑貨屋さん。

「いつも娘がお世話になっています」

「いいえ、僕の方こそメリッサさんには何から何までお世話していただいていて」

 お店の奥の住居スペースへ案内されるとメリッサさんのお母さんにお茶を出してもらえた。メリッサさんはお店で、お父さんがしていた帳簿仕事を手伝っているっぽい。

「ちょっと、お店を見せていただいてもいいですか?」

「ええ。あなたにはつまらないものしかないと思いますが」

「いえいえ。そんなことは」

 カップを持ったままお客さんのいないお店に戻る。

 庶民向けの安価なアクセサリーや置物。食器類やテーブルクロスであったりもある。上等な高級品というわけではないが、粗悪品ではない。価格帯を考えれば良質だと思う。

「ふむふむ……」

「何か、エル様のお目に留まるものはございますか?」

「値段の割には質の良い商品ばかりだね」

「ええ。そのせいで経営は苦しくて、潰さないようにするのが精一杯です」

「でも客層を考えるとお値段も下げられないですよね……」

「はい。安価でもたくさん仕入れて売れるものがあれば良いのですが」

「安価に仕入れて、大量に売れるもの……」

「あ、いえ、失礼しました。まったくもって商会とは関係のないことですので、今くらいは商売のことはお考えになさらないでください」

 そんなことを言われても考えてしまう。

 安価でも爆発的なヒット商品を生み出せればメリッサさんのお家が潤って助かるというものなのだから。しかし問題はコストだ。それでいて消耗品が好ましい。1つと言わずして、2つ、3つと買い込みたくなるような魅力的な商品。消えものという考え方からすると食品がいいのかな。でもここは雑貨屋さんだし。

「うーん……いや、そうか、各家庭に1つでもいいか」

「各家庭に1つ?」

「簡単な工作でできるから、発注してもそうコストもかからないと思うんだ。ちょっとメリッサさんもやりましょう」

「一体、何をされるのです?」

「盤ゲームさ。8×8のマス目を作って、駒はマス目と同じ数だけ。駒は同じ形。平たくていいけど、2つの色で表と裏を塗り分けるんだ。さ、工作しましょ。楽しいよ。面白いんだよ、オセロ」

「おせろ?」

「そう。大人も子どもも、大人と子どもでも楽しめるから。売り出せば多少の稼ぎにはなると思うんだ」

 簡単な工作でオセロセットを作り出してメリッサさんや、ご両親と遊んだ。ルールを覚えてくるとなかなか白熱していた。

 オセロを作って遊んでいた内にメリッサさんのお母さんがご飯を作ってくれて、ランチをご馳走してもらった。午後になるとちらほらお客さんが来て、ここぞとばかりにオセロを試して遊んでもらっていたら近所の子ども達がわいわいと押しかけてきた。

「いいかい、このチラシを持ってきたら普通より安く売るからって、お母さんやお父さんやお兄さんやお姉さんやおじいさんやおばあさんにおねだりしてね。あ、こら、そこ、まだ一箇所置けるところあるからパスじゃないよ! ちゃんと見てね!」

 小売店ってこれはこれで楽しいかも。

 お客さんのお会計を捌いて、お店の中でオセロに夢中になっている子ども達を眺めてたまに口を挟んで、それでいてデスクワークと違って体を動かせる。酒場は酒場で楽しかったけれど平和さという意味で小売店の方が天職なのかも知れない。

「あの、エル様……ごゆっくりされては?」

「えっ? だって楽しくなっちゃって……」

「それならば、良いのですが……。連日の激務もありますでしょうし」

「あのねえ? メリッサさん?」

「はい?」

「子どもの体力って侮れないんだって、昔、大人が言ってたよ?」

「…………そ、そうですか。ともあれ、じきに店を閉める時間ですので」

「あれ、もう? もっと長くて良かったのになあ……」

 閉店してしまった。最後のお客さんが出ていってドアベルがカランと鳴る。何だか人が入ってくる時は陽気に聞こえるのに、人が出ていってしまうと寂しい感じだ。

「エル様がお店へ出られると、繁盛するのですね……」

「売り子かあ。我ながら多才なのか、器用貧乏なのか」

「何でもできるなんてすごいことです」

「えっへんなのだ。――なんてね」

「良ければご夕食もお召しになられますか? つまらない家庭料理ではありますが」

「家庭料理こそ食べたいよね。いただきます」

 何だか普通の家庭ってこういうことを言うんだろうかと食卓に混ぜてもらって感じる。そう言えば僕って普段は外食ばかりというか、外食以外にしたことがないかも知れない。

 いや、奴隷のころの食事は外食とはまた別ものかな? でもそれはそれで家庭料理とは言えないよね。あれはそもそもが食事じゃなかったし。餌だったし。

「今日はお世話になりました」

「こちらこそ、おもてなしをするどころか、働いていただいてしまって……何と申し上げれば良いのか」

「いえいえ。メリッサさんのお陰で気分転換になったので。明日もよろしくお願いします。ではこれで」

「一緒に宿まで参りますか? 先日も襲われてしまっていますし」

「そうそう狙ってなんか来ませんって。それにやっつけることも想定して考えましたから。おやすみなさい、メリッサさん」

 気分良くメリッサさんのお家を後にする。

 これで残っている仕事というものがなかったらどれだけ気分は早かっただろう。

「…………」

 そして、そんなことを思い出さなかったら、どれだけ気分の良い時間が続いていただろう。

 ヤなこと思い出しちゃった。

 このまま商会の方へ帰ってから仕事をしてしまおうか。それも有りかなあ。

 メリッサさんに休めばいいじゃん的な心配されちゃっていたけど、余計な思いつきさえなければ早く仕事は片づけられていたのだ。なのに、思いついちゃったことが連鎖して仕事量はガンガンに増えていってしまっている。

 それもこれも人と会話して発想が膨らんでしまうからかも知れない。

 だったら、夜中に1人でコツコツしていたら集中して取り組めるのではなかろうか。きっとそうだ。そうに違いない。

「よーし、お仕事、お仕事」

 リフレッシュ完了しちゃっているんだからきっと捗るだろうな。

 もしかしたら今日の市場調査命令は強制的に僕を休ませるためのものだったりしたのかな。普通に仕事としての依頼っていうことだったら、もっと意図を明確にしてくれているはずだというのにそうではなかったし。

 つまりワーカホリックな働きぶりと思われてしまって、休めと命じるためには休日出勤の自主出勤で止めきれない部分があったから意味不明業務命令をした――とか。でもボスがそんなことをわざわざ命じる理由が分からないんだよなあ。だってボスには何の得もないことで、ボスはどんなに偉かろうが商人のはずなのだから何も利益がないことをするとは思えない。

 だからやっぱり、理由は分からないなあ。


 あんまり人通りの多いところを歩くと、何かと声をかけられやすい。

 かと言って人通りの少ないところを歩くと、精霊器強盗に狙ってくださいと言っていそうなものでもある。

 そこで僕は考えた。まずは魔術で光を屈折させる光学迷彩魔術。それからお行儀の良し悪しなんていうものでは済まないレベルの、本来は僕がしちゃいけない行為――屋根の上を歩くという選択肢を取ることで誰に見咎められることもなく安全に移動ができてしまうのである。

 このやみつきになりそうな移動法を見つけた時の僕のストレス開放度ったら。うきうきで深夜徘徊を計画しては睡魔に負けて挫折ということも何度もあった。夜風を浴びるってサイコーだ。

「どうして早くこの画期的なお散歩法を考えつかなかったかなあ……」

 もっと早く着想すべきだったのだ。

 せめて海賊のアジトで殺されかけた、あの精霊器を見て思いつくべきだった。だというのにラ・マルタで逃げられてしまった時のことを後から思い出して発想しちゃうとか、本当に僕って発想が貧困で仕方がない。

 ま、過ぎたことは仕方がないけど。

 あと高いところって嫌いじゃないなってことも気がついた。下を見た時、足が軽く竦んじゃうことはあるけど、それが何だか癖になるというか、ひゅってするのがやみつきになる。転落しないように気をつけた方がいいことには変わらない。

 通りを歩く人達は夕方になると活気づいて見える。帰途を急ぐ人であったり、仕事帰りの一杯を楽しみに足早に歩く人だったり、誰かと約束をして待ち合わせ場所へ急ぐ人なんていうのもいるんだろうか。でも人通りは増えてそれだけで活気づくものだ。

 ちょっと嫌がってるというか、戸惑っている感じの女性の肩へ腕を回してデレデレしながら歩いてるお兄さんなんかもいたりして——あれ。

 あの金髪に。背丈。腰の二挺の銃。

 往来でまた女の人をナンパだなんていい身分だなあ。

 見かけてしまったのだからしょうがない。よそ様にご迷惑をかけちゃいけないと思って渋々、屋根を降りてから魔術を解除して人混みの中へ入っていった。すぐにその背中を見つけて、腰へ後ろから体当たりするようにしがみついてみる。

「ギール!」

「うおっと、んだよ? エル?」

「何またナンパなんかしてるの。人に迷惑かけちゃダメって言ってるでしょ?」

「はあっ? だぁーれがナンパなんざするか!」

「ふぎゅっ!?」

 ほっぺをつねられて引っ張られた。

「お前が働けってうるせえから、働いてやってる最中だろうがってんでい」

「はあっ? ギルが、働いてる? ……うさんくさい、仕事?」

「はっ倒すぞ」

「だってギルだし」

「お前の中で俺はどうなってやがんでい……。そんな今日の働きっぷりをちゃんと聞いてみろ。よう、俺はきちんと仕事に徹してたよなあ、フェロメナ?」

 フェロメナと呼ばれた女性がすごく複雑そうに、困ったような笑みを浮かべてしまう。

「……困ってるよ?」

「……あれ?」

 ギルまでこんなはずじゃなかったとばかりに片方の眉を吊り上げていた。

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