#023 だから帝都ラ・マルタに立ち寄りたくなかった
たくさんの馬が駆ける蹄鉄の音で目が覚めた。
空はすっかり晴れていた。体を起こしてから、何だか不思議にじいんと首の後ろの方が痺れるような感覚がした。寝違えたのかな。
馬に乗って近づいてきていたのは完全武装した一団だった。
「ギル、ギル、起きて。いっぱい、人が来てるよ」
「んあ……。人ぉ?」
揺すってギルを起こすと、頭をがりがりかきながらギルが起き上がって腰を上げる。そうして近づいてきた一団の方へと歩いていく。僕もギルの後ろへくっついて歩いていく。
「これは——どういうことだ!?」
戦闘にいた金属鎧で全身を固めたおじさんが驚愕の声を上げる。
「どういうことだ、ってえのは、あれか? ドラゴンがどうしてすでに死んでるのか、って?」
「何者だ? 事情を知っているならば話せ!」
「遅参にもほどがあるだろうによ。このドラゴンなら俺らが昨夜殺したぜ」
「な、んだと……?」
おじさんと同じように後ろに続いてきていた人達にも動揺が広がっていく。こっちは寝起きであんまり観察している様子がない。欠伸が漏れる。一晩経って、お日様の下でドラゴンの亡骸を見ると――というか、周囲の地形込みで眺めていると、昨日のことが夢のようにも思えてきた。
地平線が見える。
大地はクレーターができている。
夜の間は地面が赤く発光して少し暑苦しいほどだった。今は冷えているけれど地面の一部が焼き物みたいに硬くカチカチになってしまっている。
「言っておくがドラゴンは一発でここにあった町を消し炭にしてたぞ。んで、俺らに襲いかかってきたから正当防衛で返り討ちだ」
「ど、どうやった? たった2人だけでドラゴン討伐など……!」
「どうもこうも精霊器よ。お前らどうせ帝都から来たとかだろ? だったら知らねえか? ビンガム商会のエルと、その兄貴」
「まさか――サルヴァス古代遺跡の探索をした、あの!」
「放っておきゃあ町1つじゃ済まなかったんだぜ。当然、帝国から褒美なり謝礼金なり出るんだろうな? もらってやるから寄越せや」
完璧にもらう側の態度ではない。
そして僕はまた嫌な予感を感じ取ってしまった。
「ギル、ギル……」
「ん?」
小声で呼びながらギルを引っ張って、ドラゴン討伐隊だと思う人達に背を向けてちょっと距離を取る。
「何だよ?」
「このままじゃラ・マルタに行くことになっちゃうよ」
「いいだろ、別に。寄り道してなんぼだ、旅なんざ」
「僕は嫌なの。あそこにいたら、やれ縁談だ、やれ商談だ、やれ取材だってひっきりなしでろくに外にも出歩けないんだから」
「堂々としてりゃいいんだっての。いいか、竜殺しなんざ、万に一つの可能性もねえって言われるくらいの偉業だぞ? ドラゴンの怒りを買えば国が亡ぶなんざ、自明の理だ。それを食い止めたってえなりゃよ、一生遊んで暮らせるぞ。いや、一生どころじゃあねえな。てめえの孫の孫の代まで金を湯水のように使えるに決まってら」
「そんな財産、どうせどこかのタイミングで消えちゃうの。余分にお金なんか持っててもあの世に持っていけないんだからいらないし、別にお金に困ってもいないでしょ。古代遺跡の財宝も換金したし、僕は高給取りなんだから」
「それでも俺は湯水のごとく金を使って遊んで暮らしたい。毎日最高の酒飲んで、最高の美女侍らせたい」
「そんなのいらないよ。人間、ほどほどがいいの」
「お前はジジイか」
「ギルが俗物すぎるんだよ」
言い合っていたら背後の方で咳払いをする音が聞こえた。
ゆっくり顔だけ振り返る。
「ともかく、事情をうかがいたい。ご同行願う」
「おう」
「もぉぉー……やだよぉ……」
「お前は牛かっちゅうに」
「じゃあギルの奢りでビフテキね、ビフテキ」
「へいへい、たまにゃあ食わしてやんよ。まったく、これだからガキんちょってえのは甘えてばっかでしょうがねえのな」
「すっごい腹立つ……」
日頃、お世話をしてあげているのは僕なのに。
ギルが持ってるお金だって僕が稼いだお金からお小遣いとして分けてあげているのに。もう知らない。どんなトラブルが起きても、このドラゴン関連だったら全部ギルのせいにしてやるんだから。
▼
「では、あの大地を穿ったような激しい焼け焦げた痕跡は全てドラゴンの仕業と? やはり、考えるだに怖ろしいほど強大な相手だったのだな……だが一体、それをどうやって下したというのだ?」
「精霊器だってえの。恐らく俺らのやり合ったのは天候を変えちまうってえ
「……しかし、そんな、ことが」
普通は信じられないよね、分かる。
ドラゴン退治のための兵糧なんかが詰め込まれていた馬車で事情聴取されている。可哀そうなことにこの場所へ詰められていた荷物は小分けにされて戦うこともなく撤収することとなった人々が持っていくようだった。馬車の中には僕とギル、それに今回のドラゴン討伐隊の隊長を担わされたクロムウェルおじさんと、その副官というおじさんの4人が乗っている。非常にむさ苦しい空間だったりする。
「疑おうが、疑うまいが、事実は変わりゃしねえよ」
「ううむ……。一体、どのような精霊器を?」
「これだな」
ギルが<黒轟>を出して、銃口をクロムウェルおじさんへ向ける。顎を引いて眉根を寄せながらクロムウェルおじさんは<黒轟>を見つめる。
「詳しくは教えねえ。どうせ俺以外にゃ使えねえだろうがてめえの手の内晒したとこでいいこたぁそうそうねえしな」
「ふ、うむ……そうか」
行き当たりばったりなようでいて、ギルはちゃんと隠すべきことは上手に隠している。しかも相手に突っ込ませないようにしつつ、突っ込まれてもどうとでも言い逃れができそうな表現だ。
そうして僕が魔術を使えることだとか、そのせいで地形がめちゃくちゃになってしまっただとかってことをオブラートに包むどころか、蚊帳の外へ置いてしまっている。やっぱりギルがそれくらいする程度にはヤバいんだろうか。
「……ところで、口ぶりでは弟御も共闘したというように聞こえていましたが」
「ん、まあな。こいつも精霊器持ってるし」
「ほう、商才だけでなく戦う心得まで……。実はわたしには今年21になる娘がおりましてな。親のひいき目もありますが器量よし、愛嬌よしでして――」
「おう、そういうのはこいつが一丁前にマスかくようになってからだ」
「ます?」
「ほんっと、しょうもねえことは知ってんのにどうしてこういうもんは分からねえかな……」
よく分からないけど断ってくれたっていうことでいいんだろうか。
そしてクロムウェルおじさんはもしかして、僕が前にラ・マルタにいたころから何かアプローチでもしようとしていたんだろうか。そしてまだ同じ考えを抱いている人がわんさかいるんだとしたらやっぱり帝都なんて近づきたくはない。
「ギル、やっぱりラ・マルタ行くのやめようよ……」
「だぁーから、堂々としてりゃいいんだて言ってんだろうが」
取りつく島はやっぱりなかった。
どうせならギルにだって縁談話がわんさか来ればいいんだ。そうだ、いっそのことギルが本当に結婚とかしちゃえばいいんじゃないだろうか。恋人とかでもいい。そうすればギルにも常識が生まれて、落ち着きができて、そして僕がラ・マルタに行きたがらない気持ちを理解してくれるのかも。
「おじさん、ギルはどう? フリーだよ」
「あ? お前、何言いやがる」
「……いや、けっこう」
「はあっ!? おい、どういうこった? エルには抜け目ねえのに、何で俺にはけっこうとか言いやがらァ!?」
「ラ・マルタまでは時間がかかります。狭いところで申し訳ないがごゆるりとお過ごしください」
「言い訳くらいしやがれ! てやんでいが!」
「どうどう、ギル」
もしかしてギルってお見合いには向かないタイプなんだろうか。
親御さんの方でNGを出されちゃうっていうことは、つまり素行不良系に見られてしまうのか。だとしたら一生、ギルに僕の気持ちは分からないかも。
「いい子の自分が悔しい……!」
「お前は何アホなこと言ってやがるんだよ」
「痛ったい!?」
デコピンされた。
痛かった。
▼
「気高き古き時代の支配者たる大災厄の化身、暴風と雷鳴の大竜討伐を成し遂げ、このアルソナ帝国を守ったことを称え、ギル、エル、汝ら兄弟に騎士爵とともに褒章とともに賞金を与える」
爵位と褒章と賞金をもらってしまった。
しかし形式張った感じで皇帝陛下に直々に賜るというのは大変だった。跪いたり、ポーズが決まっていたり、ははーと頭を下げなきゃいけなかったり。
そのせいでギルが直前になって逃亡して僕だけで下賜されることとなった。ギルめ。本当にもう、ギルめ。
それに騎士爵なんて単なる名誉で、一代限りの貴族ですよと認めてもらえるだけ。褒章なんて言ったって換金したらすぐ誰のものか分かっちゃって、皇帝から下肢されたものを金に換えるなんてと後ろ指を差されてしまうだけのお飾り宝石。さらに言えば賞金なんて僕の年収の半分以下。やっぱりラ・マルタへ来ることなんてなかった。
極めつけには。
「エル様、父からあなた様のお話を聞いて以来、ずっとわたしの胸が恋の炎で炙られ続けてしまっているのです」
「きみの才覚こそ、我が国の至宝となることでしょう。我が家系は代々、皇帝陛下より厚く信を寄せていただいており……」
「まずはわたくしどもと取引をいたしませんか。わたしより提供するものは伯爵としての地位と名誉であります。あなたには我が娘を差し出しましょうとも」
なーんて縁談話が勝手に開催されたパーティーで次から次へと持ち込まれて来てしまっている。そしてギルは帰ってこない。
「誰か助けて……」
人目を盗んでバルコニーへと非難して呟くくらいしか現実逃避ができない。
「エル様——」
「ひゃいっ!? 僕は心に決めた方がいるので縁談はけっこうです!」
「……あなたの縁談には興味がございません」
「え?」
声をかけられて反射的に言い返してから振り返ると見覚えのある人がいた。確か——そう、シャーロット皇女殿下の従者さんだった。
「ラ・マルタへお越しになったのであれば、まずはシャーロット様へのご挨拶が最優先かと。わたしにご一報下さる約束をお忘れですか?」
「ええと……そんなお約束、しましたっけ?」
「しました」
してないと思う。何かこう、社交辞令的にシャーロット様が喜びそうなものができたら教えてねってニュアンスだったと思う。
「……すみません」
「次回からお気をつけください」
「はい……」
僕って長いものにはあっさり巻かれちゃうタイプだ。
「では明日、正午にお迎えに上がります」
「……あの、特に今は準備がなくてですね……」
「では土産話でもなさってください。シャーロット様はあなたをお気に召していますので。これにて」
「あ、あの、すみません」
「はい。何でしょうか」
「……このパーティーから、さらーっと逃げる方法とかあったら教えてもらえません?」
「あなたは主役ですので大人しく時間を待つのが正攻法かと。あるいは……」
「あるいは?」
「今からでも、土産話をシャーロット様にご披露することはできますか?」
「……できます」
「よろしいでしょう」
従者さんはクライドさんということを初めて知った。そう言えば知らなかった。ちょっと慇懃無礼感を抱かせるのは、態度や言葉遣いは丁寧だけど何だかすごく冷たい印象を与えてくるからだろうか。ともかく、すごく事務的だ。
でも有能だった。
どこの誰か分からないけど、パーティーを取り仕切っている人と短い会話をするなり、会場を出ることができた。
そして城内の別棟にあるシャーロット様への部屋と、クライドさんの顔パスで行くことができたのだった。やったね。
「それで、逃げていらしたの?」
「はい……」
「ふふっ、エルったら、社交界での振る舞いなんて5歳で覚えることよ? しっかりしてるように見えたのに、意外とそういうところはできなかったのね」
「お恥ずかしい限りです……」
「それで? ドラゴンを退治したのでしょう? 聞かせてくれるのかしら?」
「あんまり、面白く話せるかどうか――」
部屋の片隅で何故かクライドさんの眼光がギラリとしたのを見てしまった。
「がんばります」
「ええ、がんばってちょうだいね、エル」
「……僕らがドラゴンと遭遇してしまったのは本当に偶然で、海を小舟で漂ってた時に――」
「どうして漂っていたの?」
「……マリシアという街にいた時――」
「どうしてマリシア? ヘイネルにお家があるんじゃなかったかしら?」
「実は旅を始めまして」
「旅? 何の旅?」
ヤバいこれ、一晩程度じゃ済まない。
▼
「――おうおう、朝帰りを通り越して、夜帰りか。いいご身分になったじゃあねえの、エル様よう?」
「ほんっと、いい身分だよね、ギル兄様はさ……。僕は知らないって言ったのに面倒ごとぜぇーんぶ結局は押しつけてきてさ。寝るから。起こさないで」
何だこいつ、とんでもなく不機嫌だ。
いつになく、ふんっと鼻を鳴らしてベッドへ飛び込むなり丸まって横になる。そしてすぐ寝息を立て始めた。
まあだが、何だかんだで合流はできたから良しとしよう。特に落ち合う場所を決めたいなかったが、やっぱビンガム商会にエルは戻ってきた。
「失礼します」
「おう。――ああーっと、えー、メリッサ」
「はい。エル様がお戻りになられたと聞きまして」
「そんなら今、寝ちまったよ」
「そうでしたか……。ボスが是非、エル様と夕食を食べたいと仰られていたのですが……」
「ボス?」
確かビンガム商会の親玉だよな。
ちらっとエルが言ってたが、ボスって呼ばなきゃならないって心底から思わされる存在感だとか、商人よか別の仕事の方がよっぽど似合いそうやら、憧れるやら、そんなことのたまってた気がする。
「よう、代わりに俺が行くか?」
「しかし——」
「ま、たまには兄貴らしいことしねえとな。世話になってんだ、俺からひとつ、挨拶でもしねえと」
「……しょ、承知しました。ボスにお尋ねいたしますので、少しお待ちください」
「よろしくな」
さあって、どんな野郎だか。
商人の癖をしてボス呼びさせるたァ、どんな野郎だかなあ。
「――なるほど、ボスだな」
「貴殿が竜殺しの英雄か。風格がある」
「そっちこそ、竜の一匹や二匹は葬ってんじゃあねえのか?」
「ハハハ、巡り合ってさえいればできたかも知れんが、せいぜいが古代遺跡の探索程度しか武勇の誉れはない」
こいつは強えな。あのクロムウェルとかいう野郎なんざよりもよっぽどだ。それくらいの風格は溢れ返ってやがる。
「秘蔵の精霊器や何かを持ってたりすんのかい?」
「うむ。……しばし、精霊器というものは持ち主の人生を変える物品だと言われるが、わたしもその例には漏れなかったようだ」
「どんな精霊器でい?」
「<アルゼンタム>——。万能の精霊器と自負をしている」
そう言ってビンガムが胸へつけていた銀細工を外して手の中で握ると、勝手に形が変わってナイフになる。
「ほおーん……?」
万能というか、こいつは千変万化の意味合いだろう。
元の質量とは明らかに違う。武器として使うのであれば刃毀れなんざしたところですぐにまた刃をつけられる。刃の通じねえ相手なら、こん棒にだって変えられるだろう。あるいは銃にもなるだろう。
「なるほど、万能の精霊器……。便利だろうな」
「して、エイワスからは長期休暇の旅と聞いているが、何のための旅だね」
「エルのお勉強さ。ガキは目で見て、体験するのが一番覚えが早えだろう?」
「うむ、確かに。――が、そんな理由如きで聡い彼が長期休暇などというものを取ろうとは思えぬ」
「ま、他にも事情はあるがよ、別にボスだからって何もかもを打ち明けにゃあならん理由はねえだろう? ビンガムさんよ」
「……確かに」
精霊器を元のアクセサリーへ戻して胸へつけ直してからビンガムは料理を口に運ぶ。体もでけえし、かなり鍛えられてる癖をして作法もしっかりしてるとは。
「俺ァよ、あんたがどうして商人なんぞをしてるのかが気にならぁな。教えてくれよ」
「昔は貴殿のように腕にものを言わせたことしかできんチンピラも同然の輩であった。だが——ある時、腕試しに古代遺跡へ挑み、半死半生でかろうじて逃げ延びられた。無論、その時は古代遺跡の最奥まで辿り着くことも適わなかった。
傷を癒す日々を送りながら、わたしは己の無知を憎んだ。知恵がなければとてもクリアできぬ場所であった。まずは人並みの知恵をつけることから再起を図り、また古代遺跡へ挑もうと決めたのだ。腕力だけで生きてきたわたしには知恵をつけることで、さらに分からぬことが増えるなどとは想像もできていなかった。書物を漁り、より深いことまで知りたいと願い、そのためには金が入用だと途中で気が付いたのだ。最初は田舎の村とラ・マルタを往復する行商をした。御者台で何冊も本を読み、そして昔の己を見るような愚かな賊には知恵の鉄槌を下したものだ」
なるほど、ビンガムの根っこは戦士のそれだ。
基盤になっているのは人より恵まれた肉体で散々に暴れてきたという自負。それが古代遺跡で砕け散り、負けず嫌いな性分が知恵という武器を求めた。そいつを磨く内の経過でただ商人になって、そいつがいつの間にか本職になっちまっていたってえことだ。
「今でも体は鍛えてんのかい?」
「全盛期には遠く及ぶまいがな。しかし衰えは多少であろう」
「ほおう、そりゃあ面白そうだ」
きっと、こいつは強え。きっと楽しいんだろうな。
「だが竜殺しの英雄殿と正面切って喧嘩ができるほどのフットワークは失われてしまった。背負うべきものが増えすぎたがゆえにな」
「……そうかい」
「ご理解を願おう。わたしに何かがあれば、ビンガム商会全500人以上もの人間が仕事を失い、その家族までもが路頭に迷いかねないのだ」
「んなこと言われちゃ、どうにもしねえよ。俺もそういう意味じゃ世話になってるしな。実に惜しい」
「うむ。互いに」
「そんじゃ、せいぜい、酒盛りでも楽しむとしようや」
お高い店らしい、お高そうなデキャンタから杯へ酒を注ぎ入れてのど越しで味わう。
「それもいいが」
「うん?」
「貴殿がわたしに興味を抱いたように、わたしもまた貴殿に強い興味を抱いている。どうだろうか。ビンガム商会では貴殿のように腕が立つ者に特別な報酬を用意して仕事を依頼する準備がある」
「そいつぁ生憎、お断りだな」
「その理由は?」
「仕事なんてえもんはまともな人間しかできねえよ」
「なるほど。……ふふ、ならば仕方がなかろうな。ではこれからも、エルの良き兄君として見守っていただきたいものだな」
「任しとけ。今んとこ、それくれえしかやるこたねえんだ」
随分と話の分かる人間だった。
散々に飲み食いしたってえのに全部払いを持ってくれた上に話も意外と合った。やっぱ金持ちの知り合いってのはいいもんだ。できることなら一生、おんぶにだっこしてもらいてえ。
――と、思ったものの。
「はあ!? ボスと2人きりで食事したの!? 失礼なことしなかった? ていうかどうして僕に何も言わずにそういうことしちゃうかなあ! もうっ、ギル!」
エルがうるさかった。
犬でも叱ってるような言い草に聞こえてきて腹が立ったからヘッドロックしてやった。
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