#007 古代遺跡をなめてはいけないはずなのに
「おかえりなさい、ギル」
「おう。今日も下は大繁盛だが、いいのか? お前は手伝わねえでも」
「臨時で人を雇ったって。それでね、僕、ビンガム商会で雇ってもらえることになったの。この間は言いすぎちゃってごめんね、ギル。その……お詫びです」
エイワスさんに選んでもらったお酒を酔っ払って帰ってきたギルに差し出した。黙って受け取ると栓を抜いてそのままラッパ飲みする。
「ぷはっ……んん、ちょっとは良さそうなもんだが、酒の味は分かんねえやな。まあ俺も、お前のもんなのに勝手に質へ入れちまって悪かったな……」
「質入れしちゃったのは買い戻せたから、もういいよ」
酒瓶片手にギルはベッドに腰かけた。僕の横だ。他に座る場所なんてない小さな部屋だ。
「それでね、まとまったお金ももらえたからちゃんとしたところに引っ越したりした方がいいかなって。あと一等国民になるための納金も賄えるから、早く手続きもした方がいいよね。明日にでも一緒に役人さんのところに行こう?」
「ん、ああ……」
「とにかくお仕事も手に入れたし、一等国民になれたら色んな制限も解除されるようになって、一件落着だね」
「……なあ、エル」
おもむろにギルが僕の首へ腕を回してきた。寄せられた顔。お酒臭い息が鼻にかかっちゃう。
「どうしたの、ギル?」
「……んん、ま、うん。ちと、癪だ」
「しゃく……? 持病ですか?」
「んなわけあるかっ」
「タップタップタップ!」
軽く首をチョークされて叩いたら緩めてくれた。
ちょっとのジョークのつもりだったのにツッコミが激しい。
「癪って、癪に障るっていうこと? 気に入らないってことだよね……? 何が?」
「何したか知らねえが、お前が金稼いで、お前の金で一等国民になって、お前の金で別の家見繕うってのが」
「じゃあ、どうしたいの……?」
「俺も稼ぐ」
「稼ぐって……今日はお仕事探してたの?」
「いや飲んでたけど……」
「お仕事も探さないでそんなことを言うのは違うんじゃない?」
「だとしても、だ。……逆なら有りでも、それはちと、なしだろう」
「ええ……?」
「これきりだ。お前はさっさと一等国民になれ。俺は俺で稼ぐ」
「でも、ギル――」
「とっとと金持ち生活しとけってんだよ!」
不貞寝するようにギルがベッドで横になってしまった。
そんなことを言っても、ここはまだ僕の寝場所なわけで、他に行き場もないのに。
「……今夜の、一晩は、いいでしょ?」
「……しょうがねえなあ」
「ほんとに、バラバラになるの……? 一緒に来たのに」
「くどい」
「……うん……おやすみ……」
明日から一人暮らししなきゃいけないのか。
朝になってからもう一度、ギルと話してみようかな。でもくどいって言われちゃうかな。
折角、仲良くなれたと思ってたのに残念だ。
▼
「朗報があるぞ、エル」
「おはようございます、エイワスさん」
事務所へ出勤してお茶をもらってすぐにエイワスさんが来た。
「朗報って何ですか?」
「魔狩りの話をしていただろう? 丁度、その手の案件で持て余しているという話があったのだよ。古代遺跡の探索を商会の専門エージェントがしていたらしいのだが、誰も戻ってこないとかでな」
「遺跡の探索って、魔狩りの案件なんですか……?」
「ただの古びた骨董建築ならば別だが、魔物の棲み処になったりしている場所もあるのだよ。そういったところはとても素人では踏み入れん。そこで凄腕だというきみの友人の出番だ。場所はここだ。探索して手に入れたものは商会で買い取らせてもらいたい。頼むぞ」
地図を渡された。とりあえず開いてみる。
うーんと、多分、この国境沿いの街がヘイネルだろう。で、赤い丸印をつけられている場所は北西方面。地図で見るとそう遠くはなさそうだ。
「……でも、ギルはこういうの面白くないのかなあ」
頼れないかなあ。頼れないよね。
でもエイワスさんは昨日の今日で僕のためにこの話を持ってきてくれたわけだし、事情が変わったから何もできませんっていうのも申し訳ない。
「素人では踏み入れないかあ……」
だけど、やるだけやってみないと分からないよね。
「よぉーし、そうと決まったら準備しなくっちゃ」
ちょっとわくわくしちゃうよね。古代遺跡の探索だなんて。
何がいるかな。明かり、食料、身を守るもの。怪我した時の医薬品。使うタイミングがあるか分からないけどロープとかもあった方がいいのかな。僕だって炭坑労働で多少は穴蔵に抵抗感がないし、案外やれるかも。
まずは保存食の支度をしよう。
▼
「あら、おかえりなさい、ギルさん」
「おう、ただいまだ。繁盛してんなあ、今日も」
「エルちゃんのお陰でね。……だけどエルちゃんがいなくなっちゃってから、お客さんがちょっと寂しがってるみたいで。働き者で愛想も良くって、可愛がってもらえてたからねえ。
ああそうだ。一杯やっていくかい、ギルさん。サービスしておくよ」
「サービスたって、金はかかんだろう? 貧乏人からもらおうとしてくれるなや」
「タダでいいさ。エルちゃんがこんなに儲けさせてくれたんだからね、あんたはエルちゃんのお友達だろう? だったら儲けは気にしないよ」
「そうか? ま、そんならもらうかね」
女将の気が変わらない内にもらえるもんはもらうことにしてカウンターの端へ腰を下ろしたら、セルフサービスとやらに方式を変えたらしいのにちゃんと女将が酒と肴を持ってきた。
「焼き鳥は焼くのがまだ間に合ってないから、煮込みでいいかい? これもエルちゃんが考えてくれたんだよ」
「ほおう……。やたらに、煮込んでやがるな」
「でもねえ、これがまたおいしいのさ」
「どれ、もらうか」
煮込みのスープはどろどろで、肉の欠片もとろけて筋っぽいところだけが残っているという有様だ。残飯と見た目は大差ないが、口に入れてみると思ったよりもずっとうまい。塩気はあるがさっぱりしていて、だが鶏の味がよく出ている。
これとエールがまた合う。
濃いめの煮込みの味をエールの苦味で流し込むことでうまさが増える。
「どうだい? うまいだろう? エルちゃんは天才だあねえ……」
「ほんと、ちっぽけなガキんちょだと思ってたのによ……。天下のビンガム商会だしよう……」
ビンガム商会と言えば国境さえ超えて、世界中に出張所を構える商人どもの憧れだ。
ありとあらゆることに首を突っ込み、口を挟み、てめえらの利益に変える。
連中を前にしちゃあ国の主であろうが言葉を選ぶなんて話までありやがるほどの財力を持ち、各国の中枢にまで深く食い込もうとしている。
だがそれだけに連中は狡猾だとも聞く。
エルがその仲間に本当の意味で迎え入れられたなら安泰だろうが、利用されているだけだったとしたら骨の髄までしゃぶられるだけだ。お人好しの世間知らずだから分かっちゃねえんだろうな。
「ああ、そう言えばね、ギルさん」
「はい?」
「エルちゃんが昼に来て、ちょっと手伝ってくれた時に言ってたんだけど……何でも北西に古代遺跡の探検に行くんだって。いっぱい荷物揃えてたけどエルちゃん、1人で行ったのかねえ……?」
「古代遺跡ねえ……。1人で行くならそう危険な場所でもないんだろ?」
「でも北西の遺跡って言ったら、昔から入っちまったら最後、
「……その手の話は、昔のことじゃねえかも知れねえ」
「そうなのかい?」
「その手の古代遺跡ってえのは世界中に点在してるが、中にはお宝が眠ってるのが相場だ。それを持って帰って来られたとなりゃあよ、その地域じゃ絶対に広く伝わっちまうもんだ。なのにおばちゃんは知らねえんだろう? そんな話は」
「知らないね、聞いたことがないよ。生まれてからずぅっとこの街にはいるけど」
「……ごっそさん。あのバカ、世間知らずにも程があらあな」
「お迎えに行ってくれんのかい?」
「しょうがねえだろ? 兄貴なんだ」
「兄貴? 兄弟だったのかい?」
「ま、書類上はよ」
「書類上……?」
部屋へ戻って久々の荷物を開いて身につける。
革鎧。手甲。鉄ブーツ。<黒轟>。<黒迅>。<黒威>。とりあえずこれで荒事には余裕で対応ができる。
そう言えば部屋賃を滞納してた。でも手持ちはねえしな。滞納を理由に戻ってきた時、別の野郎がここを使ってたらまずいし、おばちゃんにちと声だけかけとくべきか。
「おう、おばちゃん。今からエルんとこ行くがよ、ちとまだ金はねえんだ。近い内に払うから待っててくんな」
「部屋賃? エルちゃんから聞いてないのかい? まとまったお金をくれてね、お世話になった分ですって。でも受け取れないよって返そうとしたらギルさんが滞納したら充ててくれってね、置いていったのさ」
「は……?」
あの野郎、また余計なことをしやがって。
「やさしい子だね、エルちゃんは……。兄貴ならちゃんと報いてやっとくれよ、ギルさん」
「うるせえやい。戻ってきたら耳ィ揃えて払うからよ、エルからもらったってえ金は取っときな」
あのへっぽこめ、仕掛けの生きてる遺跡の怖さってのをまるで分かっちゃねえんだろうな。
▼
遺跡に入って、けっこうがらんどうで何もないなーと思って歩き回っていたら、いきなり足元が抜けて水なしウォータースライダーみたいなもので滑り落ちてしまい、尻餅に悶絶すること数分で、お尻が4つに割れたり、骨がどうにかしちゃったりはしてないらしいと思って起き上がったら、魔物っていうのかなあ、っていうものに取り囲まれてしまっていた。
骸骨だ。肉も皮もない、人体の骨だけ。なのに剣や盾や槍や弓矢を持っている。筋肉もないのに動いているし、関節の継ぎ目にあるはずの軟骨みたいなものも見て取れない。不思議すぎる。何で動けているんだろう。
「あのう……一応、ご確認なんですけれど、言葉は通じますか?」
念のために質問してみた。
でもカタカタとどうやって繋がって稼働しているか分からない、謎現象で上顎と下顎を打ち鳴らす返事しかもらえなかった。
とりあえず好意的な解釈をしておこう。
「あ、ありがとうございます……。それじゃあ、僕はこれで。皆さんもどうぞ、解散してください……」
ぺこぺこして歩きだそうとしたら、僕の前へ彼らは寄り集まるように移動する。
「もしかして、歓待してくれるとかでしょうか……? ご馳走とか、用意してくれたりするのかな……?」
カタカタとまた鳴らしてくる。
「それとももしかして、僕がご馳走にされちゃうとか……そういうオチ――」
ガタガタガタとその場の骸骨さん達が同時に顎を鳴らしまくった。そして武器を振り上げる。
「ひえええええっ!? 見逃してくださーい!」
叫びながら反対へ走り出した。それでも武器がぶんぶん僕目掛けて振られてくる。僕ってもしかしてすごいんじゃないかと思えた。避けられた。そのまま骸骨の群れから逃げるために走りまくる。追いかけてくる。
「助けてえー!」
広い空間を抜けて通路に入ってそのまま走っていたら、何かを踏んだ気がした。構わず走り抜けたら、後ろでズンズンズンと音がして走りながら振り返ってみる。——と、走り抜けた壁から槍みたいなものが突き出て反対側の壁に刺さる。
これって、足を止めてしまったら串刺し?
「死んじゃうーっ!!」
さらに走るけど足がもつれそうになる。それでも必死に駆け抜けようとしたけど、足が、滑って、しまった。
あかん死ぬ――何故か関西弁が出かけた。
ああ、こんなつまらない死に方しちゃうんだろうか。
「終わった何もかも――」
すっ転ぶ。
串刺しにされちゃう。
グッバイ、二度目の人生。
「…………痛い」
肘と膝を擦りむいてしまって痛みが奔る。
「あれ?」
でも生きてる。
他に痛いところはない。
恐る恐る振り返ったら、串刺し通路が終わっていたらしかった。踵のすぐ上を槍が通過してしまっている。アキレス腱、無事。
「生きてた……。良かったあ……」
それにしてもトラップが凶悪だ。何なのさ、槍って。ギリギリ駆け抜けられたけどもう息が上がっちゃって休憩したい。ちょっと休もうか。
カタカタカタと音が聞こえてきてしまった。
恐る恐る振り返ると、槍がゆっくり戻っていく。そして、その向こうからさっきの骸骨の群れが押し寄せてきていた。
「助かってなかったあー! いーやー!」
逃げるしかなかった。
神様仏様、助けてください。
そう言えば僕の知ってる神仏はこの異世界にいるんだろうか。——いないよねえ、多分。
▼
「ここはどこ……? 僕はアルソナ国民……?
ああいや、違った。ここは遺跡の柱の上……登ったはいいけど下りられなくなった木の上の子猫現象中だった……」
ようやく休めそうと気が抜けてしまって、ちょっと寝落ちしてた。でも柱の下を見たらスケルトンが群がっている。どうやら彼らに直径2メートルはありそうな柱を壊したり、登るということはできないらしいけど寝ちゃう前より数が増えてしまっている。
「我ながらよく登れたなあ……」
彫刻の浅い溝に足を引っかけて必死で登った。
でもこの柱の上に避難を試みた先達はいたらしい。けど降りられないまま生涯を全うしてしまったようで、魔物化していない、動かない骸骨さんがおひとり様だけいらっしゃっていた。
「降りられなくなった子猫現象って、何か名前とかついてるのかなあ……? うーん、ないなら僕がつけちゃうのも有り? じゃあ僕が直面しているこの状況から……柱の上の骸現象。語呂も悪いし、何だか物騒だなあ……。柱の上のエル。違うなあ……。骸達の柱の上。いやいや、そういう方向性じゃないなあ……」
現実逃避をするしか僕にはなかった。
骸骨達は増える一方で、僕のお腹は生きている限り減り続けちゃう。飢え死にが末路か、骸骨にもみくちゃにされるのが末路か。
どうしようもないくらい未来しか見えないんじゃあ、現実から目を逸らすしか方法はなかった。
心残りがたくさんありすぎる。
遺書くらい書こうか。それくらいしかもう、やることがないし……。
▼
「——エルぅっ! どこにいやがる! ……ちっ、とっくにくたばったか?」
古代遺跡とやらはつまらねえトラップが次から次へと発動されたが、どうってことはなかった。が、ここへ来るまでに道に迷って随分と時間を無駄にした。エルがここへ来てからもう3、4日は経過していそうなもんだ。
「ったく、くたばってやがったら、書類上の兄貴として全部、俺がもらっちまうからな……?」
カタカタうるせえスケルトンに<黒轟>を一発見舞って骨の欠片へ変えてやる。仕掛けと仕掛けの間にスケルトン。どんだけ細かく磨り潰してやろうが、元通りにくっついて直っちまう無限の軍勢ときた。この手の魔物にバカ正直に対応してたら体力が削られ続けて弱っていずれ死ぬ。だからろくすっぽ相手にしねえのが正解だが、<黒轟>が便利すぎてまったくもって手応えがねえ。引き金を一度絞るだけで全員ぶっ壊せてしまう。
槍の出てくる通路なんかもあったが、これも槍が出てくる前に壁を丸ごと抉るようにぶっ壊してやれば作動しなくなる。巨大な丸岩がごろごろ転がってくる傾斜通路も岩をぶっ壊せば済む。天井がせり下がってくるフロアもぶっ壊して立ってられるだけの高さを確保して、あとはそのまま壊して進めばそれだけだった。
「はああ、誰もクリアできねえ遺跡だなんて言うから期待していたらこの程度かよ……。この分ならエルも余裕で生きてられるんだろうな……」
にしては失敗した連中の屍もごろごろ転がってるが——どんだけ雑魚だったんだ、こいつら。
しかしエルはもっと前にくたばったりしてねえだろうな。屍の装備をそのまま放置して通り過ぎるなんざ、エルらしいとも思うが、つくづく甘ちゃんだ。もらえるもんはもらってくのが鉄則だろうに。
「お、このナイフ、宝石ついてんじゃん。もーらいっと」
けっこうこの分だと儲けそうだ。
遺跡の最奥には宝物ってのが様式美だが、何が眠っているのやら。
「さって、次、次。ちょろすぎて、ほんとに古代遺跡なのか疑わしくなるぜ……」
また骸骨どもがやって来て<黒轟>で一層してから次へと向かった。
「今度は……何だ? 広間に、柱に……」
こういうのは踏んで発動するのがお約束。
その前に通路からよくよく観察しておけば嵌められることは少ない。さて、床には正方形の大きめ石板が敷き詰められている、と。ざっと見渡した感じだと不審なところはないか。
床に仕掛けがないとしたらどういう感知をして罠を動かすのか。
ぱっと見で分からねえし、こういうのはやってみてからだな。
「何でも来やがれ、どうせぬるい罠だ――」
中へ入った瞬間、入ってきた通路が塞がれた。上から板が落ちて塞いできた。微かな音がして右を見れば何かが飛んできている。右手側の壁一面に穴、穴、穴――柱の高さくらいまでずっと穴の開いた壁になっている。なるほど。矢なり何なり、あそこからガンガン撃つってえやつか。
柱の陰へ駆け込むと、広間の壁がぐるりと回転した。柱の陰で射出物を防げていたのに、壁が動くもんだから俺も動かないといけない。ぐるぐるぐるぐる、面倒臭えやな。それにだんだんと壁の回転する速さが早くなってくる。
「しゃあねえな、こういう時は頼むぜ。——<黒威>」
長筒の<黒威>を抜いて引き金を絞る。
反動が肩にかかり、自分の体が持って行かれそうになったが踏ん張った。壁へ直撃した<黒威>の榴弾が爆ぜるとともに黒い稲妻が迸って壁どころか、床も天井もぶっ壊れる。
<黒威>は黒雷による超破壊の精霊器。威力は抜群だがちと、壊しすぎる。破壊が連鎖されるもんで、何もかもが崩壊していく。とっととずらかるに限る。
「——何今のっ!?」
「おっ? 生きてたか、エル!」
「え、えっ? ギル!?」
奥の方の柱の上にエルがいた。
柱まで走っていくが<黒威>の破壊が遺跡全体に広がろうとしている。
どんどんどんどん、崩れていく。丸ごとこりゃあ壊れるかも知れん。破壊の連鎖を止められないのが問題なんだよなあ、<黒威>って。
「飛び降りろ、この遺跡は全部ぶっ壊れるぞ!」
「飛び――でもこの高さ!」
「受け止めてやる!」
「じゃ、じゃあ、飛ぶよ!」
柱の下まで行くとエルが高さを怖がりながらも飛んだ。落ちてきたのを軽く受け止めてやってから、そのまま背負って奥の出口へと走る。
「どうしてギルがいるの!? 骸骨は!?」
「スケルトンどもなら<黒轟>で蹴散らした! 念入りに磨り潰してやりゃあ、復活も遅くなる!」
「僕、寝る前はここにいっぱいいたよ!?」
「そんなら寝てる間にスケルトンどもは俺の方へ来たんだろうよ!」
奥の通路へ駆け込むころにはフロア全体が砂状にまでなっていた。足を取られながらも通路へ駆け込んで階段を駆け上がる。
「ギル、ギルっ、後ろ!」
「いちいち振り返っていられるか!」
「一面ずっと砂みたいになってる! でもってスケルトン? 骸骨が砂の中泳いでる!!」
「ハッハッハ、砂を泳ぐなんざ大した芸を身につけてるじゃねえか!」
そうか、あれは芸と思い込んで笑っちゃえばいいのか。それなら確かに怖くない。
「さあって、今度は——うおっとと」
「うわっ」
いきなりギルがしゃがんでしまって驚く。真正面から何か、レーザー光みたいなものが照射されていて、ゆっくり後ろを見たらレーザー光が当たった壁が溶けてしまっていた。
「とりあえず避けといて正解だが、こりゃ、弓や弾よか厄介だな。残り続けるとは」
「ピカピカの鏡面なら反射はできるかも」
「きょうめん?」
「鏡みたいなさ」
「ああ、なるほど――そいつぁいい。頭に入れとくが、タイミングだな」
またギルが動き出した。次々とレーザー光が照射されてくる。いつの間にか剣を抜いていて、避けきれないと判断した分のレーザー光を剣で反射して躱してしまっている。
「このまま奥まで行けばいいんなら簡単だが——」
ガンガン、レーザー光は照射されて消えてくれないからその合間を縫って行かなきゃいけなくて、さらにまた色んな角度からレーザー光は注がれてくる。そしてゴールまでの距離が目測で50メーターはあるんじゃなかろうか。その距離を迷いなくギルは駆け抜けるのだから恐ろしい。
そして、そんな芸当を簡単とあっさり言い捨てているのが信じられない。でも実際に危うげがないのだ。本当に簡単に思えてきてしまうけど僕だったら余裕でレーザーの餌食になっているとしか思えない。
「もうちょっとだな」
折り返し地点も過ぎ、本当にあと少しといったところでギルは迂回を余儀なくされた。レーザー光に追い込まれるようにして壁際の方まで迂回し、そして壁を蹴って高く飛び上がる。下を見れば足の踏み場がないほどにレーザーが密集してしまっている。しかし奥からレーザー光は放たれてきているから、進むほどにレーザー光が収束して密になってしまっている。
さらに、一度照射されてそのまま固定されていたレーザー光が動き出した。そういうアート作品であるかのように整然とした動きでレーザー光は照射口ごと動いてギルと追い詰めようとする。できるだけ体積を減らすように僕もギルにしっかりくっついておく。
しかしこれさえも、ギルを焦らせることはできなかった。
「本気出すのが遅えんだってえの」
ぼそりとつまらなそうな呟きの直後に抜いていた剣でレーザー光を反射させた。反射されたレーザー光がぐりんぐりんと、ギルの手元で操作されて壁や天井を抉り、レーザー光の照射口そのものをピンポイントでなぞって潰してしまう。
「終ーわり、っと」
とん、と軽くギルが通路の入口を踏む。
「ちゃちな仕掛けばっかだな。ほんとにここって誰も最奥まで辿り着いたことねえのか? や、最初に落とされたから奥ってのもおかしいだろうが……」
「いや……ギルが特別なんだと、思うよ……」
「それは当然だが、それにしてもってえ話だろ」
生活力はからきしの癖に生存能力に長けすぎてるギルだった。
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