26.捕縛
妖精の丘の袂の側の林を俺達は進んでいた。道中、テントが六つある事、その中の大きなテントに連中のボスが居るらしい事、全員甲冑を着て剣を持っている事などを伝えた。
林の出口に着く。国王様を助けに来た時と同様、六つのテントが張られていた。見張りらしい甲冑姿がちらほら見える。
「ダイチとクー・シーはここに居てくれ」
オンに云われて俺とクー・シーは頷く。オンは隊員を見回して口を開いた。
「スピード勝負だ。なるべく音を立てずに先ず見張りを制圧し、スリーマンセルで各テントを制圧する。俺とミシャは念の為外の見張りをする。討ち漏らしがあって逃げられるのが一番まずいからな」
全員が無言で頷いた。そして足音を立てずに林を出る。
俺とクー・シーは姿勢をなるべく低くして、彼らの戦闘を見守った。
音も無く見張りの背後から近付き、首へ手を回しぐっと力をかけている様子が見て取れる。十秒か二十秒くらいで、もがいていたジャンドゥハの兵は腕をぶらんとさせて脱力した。それをエディラの兵は音を立てずに地面に寝かせ、魔法で縛り上げているらしい。あっと云う間に見張り達六名が気絶させられ拘束される。プロの仕事と云う感じだ。
先程オンが云っていた通り、オンとミシャを残した十八名が三名ずつに分かれて各テントへ入って行く。殆ど物音無く制圧され、十分もせずにテントの中に居た者達は外に転がされた。
戦える者が居ないと油断していたのだろう。まさかエディラの兵が来るとは思っていなかったのだろう。エディラへの被害は皆無で、俺への危険も全く無かった。驚きの速さと強さだ。
「ダイチ」
オンが俺の名を呼ぶ。俺はちょっと呆然としていたがそれで我に返って、クー・シーと共にオン達の元へ向かった。
「何故ニンゲンが妖精の世界に居る!」
ジャンドゥハの兵の一人が声を上げた。魔法で縛り上げられ、甲冑の兜は取られ、年嵩の男がこちらを地面から睨み上げていた。彼も人間に見えるが、亜人なのだろうか。俺には区別がつかない。
「こっちの妖精達には戦う準備は無いと聞いていたのに! 我々の世界との繋がりも無いと聞いていたのに! これでは詐欺ではないか!」
がしゃん、オンが喋っていた男の腹を甲冑越しに蹴った。うっと呻く声が聞こえる。恐らくオンの足には強化系の魔法でもかかっているのだろう。
「彼は単身我々の元へやって来て、妖精達を救って欲しいと嘆願して来たのだ。貴様ら卑怯者とは大違いの勇敢な少年だよ」
そう云うオンの声は冷たかった。オンはしゃがんで男の髪を掴むと強引に頭を上げさせて、怒りの籠った目で睨みつけた。
「それで? 誰から『聞いた』? 宝についてもそいつから聞いたのか」
「はっ、誰が云うか」
オンが男と地面とに熱烈なキスをさせる。鈍い音がして、再度持ち上げられた男の鼻は歪み、鼻血がぼたぼたと落ちた。
「がっ……はな゙が……っ」
「だったら話したくなる様にするまでだ。丁度良い事に馬もある。お前らをエディラへ連れ帰って、拷問でも何でもしてやろう」
オンに最初会った時、怖いと感じた。しかしそれは自分より大きく、がっしりとしていて、更に角に牙まであったから、当然感じる怖さだった。だが今は、それよりずっと強烈な恐怖を俺は抱いている。畏怖とも云うべき感情。これが兵士と云う者なのか。
オンは俺を振り返る。多分、プレッシャーを抑えてくれているのだろう。けれどその顔は未だ怒りに染まっていた。
「ダイチ。こいつらは俺達に預けてくれないか。もう二度と、この世界に足を踏み入れさせはしない」
多分、こいつらは、死ぬより恐ろしい目に遭う。けれど、それも仕方が無いと俺は思った。だから俺は、こっくりと頷いて云った。
「宜しくお願いします」
オンも頷いて、俺はオンとクー・シーと共に城へ戻る事になった。他の者達はジャンドゥハの兵と共に一足先に戻ると云う。
「怖がらせたな」
歩いていると、不意にオンが口を開いた。
「それは……まあ、俺はただの子供なので……」
ごにょごにょと言葉を濁す。流石に、はい怖かったですとは云い難かった。
オンはそれを聞いてははっと笑う。
「怖がらせて悪かったな。だが、あとは俺達に任せておけ。必ず首謀者を明らかにし、後悔させてやる」
「ありがとうございます」
オンは優しい顔で微笑んで、俺の頭をわしゃわしゃと撫でた。
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