25.帰還

 俺は夢渡りの力を使って妖精女王の城へ戻る事になった。手元に残った硬貨と金子は彼らに前金として渡す事にした。

 彼らはジャンドゥハの兵が通った道を魔力探査で辿って来ると云う。つまりジャンドゥハの兵が出て来た辺りに彼らも出て来ると云う事だ。

 俺はそこ、ケット・シーの国近くの湖の畔で彼らと合流する約束をし、金のドアを通って妖精女王の城へ戻った。

 ベッドの上で起き上がるなり俺は客間を出た。その勢いに驚いてコナーががしゃん、と甲冑を鳴らす程だった。

「ダイチ! どうだった」

「成功だ。国王様を攫った奴らと敵対する大国の兵が二十人来てくれる。奴らが来たケット・シーの国の近にある湖の畔に出て来るって云うから、迎えに行かないと」

「ダイチはまだルートに不案内だろ。エミリーを呼んで来る。彼女にもついて行ってもらうと良い」

 俺はそれに頷いて、部屋に戻ってエミリーが来るのを待った。彼女はコナーから聞いたのだろう、俺を見るなり涙目になって抱き着いて来た。

「ありがとうございます、ダイチ様。おかげで皆の仇が取れます。妖精界の平和を守れます」

「お礼はあとだ。先ずは助けてくれる人達と合流しないと」

「ええ……ええ、そうですわね」

「ダイチ。女王様が、先ずこの城に客人達を招く様に仰せだ」

 コナーに云われて、俺は頷く。

「ああ、そうだ。女王に、路銀は彼らへの報酬の前金として渡した事と、最低でもそれと同額の報酬が必要だと伝えてくれるか」

 俺に云われて、今度はコナーが頷く。任せてくれよと甲冑の胸を叩いて、彼は女王の元へ走った。

「俺達も行こう」

「はい」

 俺とエミリーは、城の裏口へ走り、木の洞から地下道へ入りケット・シーの国へ戻った。そして湖の畔へ向かう。

「すぐに向かうと云っていたから、もう来ても良いと思うんだけど……」

 周囲を見回す。陽は高く、彼らの影が見えれば見逃しようが無かった。暫くして、雷が落ちる様な光と音がした。吃驚してエミリーとそちらを見遣る。するとそこには、ローブを着た二十人の人影があった。

「隊長さん! ミシャ!」

 俺は彼らに駆け寄った。エミリーもついて来る。オンとミシャも俺に気付き、フードを取った。

「ダイチ、出迎えご苦労。……そちらは」

「お初にお目にかかります。ケット・シーのエミリーと申します」

 エミリーが丁寧にお辞儀をすると、オンを筆頭に皆が頭を下げた。

「この度は我々の世界の者が迷惑をかけて申し訳無い。すぐに捕らえて連れて帰ります」

「宜しくお願い致します」

「隊長さん。妖精女王から、城へお連れする様申し付かっています。付いて来て下さい。……少し通路が狭いですが」

 オンが頷いて、後ろに控えている隊員達について来る様指示をする。俺とエミリーはまた木の洞を通って女王の城へ向かった。

 城の裏口に着くとそこにはコナーが待っていて、彼らを見て敬礼をした。彼らも敬礼を返す。こちらです、と案内をするコナーについて、俺達は謁見の間へ向かった。

 謁見の間へ行くと既に女王は玉座に座っており、俺達を見るなり立ち上がった。そして頭を下げる。

「異世界の兵士達よ、此度は我々の頼みを聞き入れてくれて礼を云う」

「あなたが妖精の女王ですか」

 オンが一歩前へ出て云う。

「ああ、そうだ。……ダイチから報酬については聞いている。前金として支払った金の、十倍を支払うと約束しよう」

 つまり一人当たりが百万。前金と合わせて百十万。それでも命を賭けるには安過ぎる気がするが、兵士達はわっと沸いた。オンがそれを静める。

「ありがとうございます」

 オンは頭を下げると、真っ直ぐに妖精女王を見た。

「早速討伐に向かおうと思います。案内をダイチに任せても構いませんか」

「ダイチ、彼はこう云っているが」

 女王と、オン、そして隊員達の目が一斉に俺を見る。

 どうして俺が、と思わないでもなかったが、あくまでも彼らが信用してくれたのは俺、と云う事なのだろう。彼らが百万と少しで命を賭けてくれるのなら、俺だって多少の危険は顧みない。

「分かりました。俺が彼らを案内します」

「頼むぞ、ダイチ。そして異世界の兵士達よ」

 とは云え俺は決まった順路を知らないのだった。

 間違えない為、そして俺の護衛の為に、またクー・シーについて来てもらう事になった。

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