22.エディラの兵

「なあ、ジャンドゥハの兵の特徴みたいのってあるか。あとエディラの兵も。なるべく近付かない様にしたいからさ」

 バーテンに問うと、彼はそうさなあ、と首を傾けた。それから、ああ、と呟いて首を正常な位置に戻す。

「ジャンドゥハの兵は甲冑を着ているよ。腰に剣を携えていて、大抵の者が魔法と剣技を巧みに操る。エディラの兵は割と軽装で白いローブを着て杖を持っている。彼らは魔法と体術で戦うんだ」

 やはり。ジャンドゥハの遠征先がケット・シーの国だったのだ。小国で、他国に比べ財力で劣るから、レプラコーンの知る宝の在処が知りたいのだ。

 むかむかした。自分達の利益の為に、戦争なんかに勝ちたいが為に、罪の無い平和に暮らすケット・シーの国を荒し、国王を襲い、兵達を殺したのだと思うと、腸が煮えくり返る思いだった。

 しかしどうやって来たのだろう。そしてどうしてレプラコーンの知る宝の事や、ケット・シーの国の事を知ったのだろう。いや、これについては俺が今考えた所で分かる事ではない。分からない事は考えないに限る。

「成程なあ。ありがとう、参考になったよ」

 俺はそう云うとちびちびと舐めていたウイスキーの残りを呷り、顔を顰めたくなるのを我慢して銅貨六枚と金貨を一枚バーテンに渡し、

「またどうぞ」

 と、バーテンとミランダの元気な声に見送られて、店をあとにした。

 街を練り歩きながら考える。エディラの兵とコンタクトを取れないだろうか。雑な考えだが、それが出来ればジャンドゥハのしている事を教え、宝を手にする前に奴らを止めた方が良いぞと煽れば、彼らが妖精の丘へ来てジャンドゥハの兵を何とかしてくれるのでは、と思ったのだ。

 願ってこの辺りに来たと云う事は、この辺りでエディラの兵に会えるのではと思った。例えば詰所の様な場所があったり……そう思って歩いていると、白いローブを着た人物とぶつかった。ウイスキーの酔いが回っていたのか、避けようと思ってふらついて、避け切れなかったのだ。転ばなかっただけマシかもしれない。

「っと……すみません。不注意でした」

 杖も持っているから、その特徴からしてエディラの兵だろう。かなり体格が良い様だ。この人に何とか情報を渡せないかと無い頭を巡らせて必死に考えた。

「ああいや、こちらこそ考え事をしていて……大丈夫かい」

「はい。……あの、エディラの兵の方ですよね」

「ああ、君は……ニンゲン属だね。この国では珍しい」

「旅人なんです。……それで、ちょっと、エディラの兵の方の耳に入れたい話があるのですが」

 エディラの兵はフードを外すと俺の顔をまじまじと見て来た。彼は彫りの深い西洋風の顔立ちをしており、金色の髪に秘色の瞳をしていた。同じ男だが見惚れる様な容姿である。だが、額に見慣れない物があった。角だ。左右に一本ずつ、長さ十センチはありそうに見える。良く見れば犬歯と云うより牙だろう歯もあった。少し怖いとさえ思ってしまう。だが、それを表に出してはいけない。

「まだ子供に見えるが、一人で旅をしているのかね」

「ええ、まあ。色々事情がありまして」

「ふむ……それで、話と云うのは」

「……ジャンドゥハの動向についてです」

 声を潜めて云うと、彼は眉を跳ね上げて値踏みする様に俺を見た。それからぶつぶつと独り言を云って一つ頷くと、

「ついておいで」

 と云ってローブを翻し歩き始めた。俺は慌てて、なるべく真っ直ぐ歩く様にして彼のあとを追った。そして彼に促され入った建物は、恐らく兵の詰め所なのだろう、同じローブを着てそれぞれの杖を持った人々が大小様々居た。

「隊長、そのニンゲンが?」

「ああ、ジャンドゥハの情報を持っているそうだ」

 フードを外しながら現れたのは、頭の高い位置に三角の獣耳が生えたピンクの髪の少女だった。膝丈のローブの裾からピンク色の尻尾がゆらゆらとはみ出ている。瞳は綺麗なアーモンド型で、とても愛らしかった。

 しかし、『その人間が?』とは……それは、隊長とやらが誰かを連れて来る事を知らなければ出て来ない言葉だ。そう云えば先程隊長とやらが何やら独り言を云っていた。もしかして、遠方の人間と会話出来る力があるのだろうか。

「彼女はミシャ。……そう云えば名乗ってなかったな。俺はオン。君は?」

「ダイチと云います」

「ダイチ。俺とミシャで話を聞く。ミシャ、第一会議室にお茶を運んでくれ」

「あいさー隊長」

「行こうか」

「はい」

 俺は彼に案内されるまま建物の奥へ進み、十二畳くらいの部屋へ入った。そこは四角く机が並べられており、それを囲む様に椅子が八脚並んでいた。

「好きに座ってくれ」

 俺は一番近くの椅子に腰を下ろした。

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