15.レプラコーン
「ダイチ様!」
唐突に後ろから聞こえた声に、オーエンとダヒを庇う様にして振り返る。二人が震えているのが分かった。
「……あんたか」
俺が初めて王城に来た時に客間に案内してくれた、ハチワレのちょび髭だった。
「そう云えば名乗ってませんでしたね。ダニエルと云います」
「ダニエルさん?」
「ダニエルさんだ」
二人が俺の肩越しにダニエルを見て、ほっとした様子を見せる。俺は二人を腕の中から解放した。ダニエルがこちらに歩み寄って来る。怪我をしているのか左足を庇っていた。
「ダニエル。何があったんだ。国王様は?」
「……連れて行かれました」
「どこに?」
「恐らくは、レプラコーンの元に」
「レプラコーン?」
耳慣れない言葉に首を傾げる。いや、何かで聞いた事はあった気がする。そうだ、確かハリー・ポッターに出て来た。偽金貨を配る小人妖精だった気がする。
「緑色の服を着た森に棲む小人です。妖精の靴屋と呼ばれる働き者の妖精で、……宝の壷が隠されている場所の全てを知っていると云われています」
ダニエルは少し躊躇いながら、他に聞いている者も居ないと云うのに声を潜めて云った。
「まさか、その宝が目当てで」
「その様でした。何故ケット・シーの国に来て、国王様を連れて行ったのかは分かりませんが……国王様なら他の妖精の住処を知っていると思ったのかもしれません」
「実際、国王様はレプラコーンの住処を知っているのか」
「はい。他の妖精達との交流がありますから。彼らは良い靴を作ってくれます」
「国王様しか知らないのか」
「いいえ……大人なら皆知っています。でも、彼らはそんな事知らないでしょう」
俺は考え込んだ。あの国王様が、レプラコーンを売るとは思えない。例え殺されようとも。急がなければいけない。
「生き残っているケット・シーはどれくらい居る」
「分かりません……全員を殺す気は無い様でした。追って来れられない程度に痛めつけるのが目的だったのだと思います。私も左足だけで済みました」
「殺されたのは強く抵抗したケット・シー達って事か……手分けして生き残りを探そう。まずは城内。生存者は……謁見の間が広くて良いな、そこに集めよう。軽傷者には手伝ってもらって外のケット・シー達の安否も確認しないと」
国の入り口を守っていた黒猫と白猫の門番を思い出して歯を食いしばった。
ダニエルには俺と来てもらう事にした。俺は城内に不案内だし、サイズ的に彼を抱えて運ぶ事が出来るからだ。三人にどう手分けするかを相談してもらい、別れ、ダニエルの案内で俺は城内を駆けずり回って生存者を探した。
幸い殆どが気絶しているだけだったので、頭を強く打っていないかだけを確認し、意識がはっきりしているケット・シーには自力で謁見の間に向かってもらった。足を怪我しているなどして自力では難しいケット・シーは軽傷のケット・シーに頼んだり、俺が抱えて運んだりした。
俺達は夜までかかって生き残ったケット・シーを謁見の間に集めた。崩れた家屋の中に取り残されたケット・シーも居て、俺達はぼろぼろになりながらみんなを集め、手分けして手当てをした。
一段落したところで、俺は急にトイレに行きたくなった。もう、現実では漏らしているかも……などと云う考えは頭からすっぽり抜けていて、オーエンとダヒに案内してもらって小用を足した。二足歩行だから普通のトイレを使うのか、それとも客用なのか、便器は良くあるもので、サイズも人間サイズだった。
「ダイチ、帰らなくて良いのか?」
「ダイチ、起きなくて良いのか?」
トイレから戻る道中、二人に心配されたが、俺は二人の頭を撫でて微笑んで見せた。
「それどころじゃないだろ。肉体ごとこっちに来てるって事は、まあ……家出扱いくらいはされるかもしれないが。騒ぎになってたら戻ってから謝れば良いさ」
「ありがとう、ダイチ」
「頼りにしてるよ、ダイチ」
謁見の間に戻った俺達は、ダニエルと今後の話をする事にした。
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