14.惨事
食堂は酷い有様だった。たっぷりと用意されたであろう料理はぐちゃぐちゃで床に引っ繰り返っている物もあり、白かったテーブルクロスは酷く汚れており、俺がもてなされた時に国王様が座っていた椅子は倒れ、天井から吊るされた照明器具は付け根が壊れて傾き今にも落下しそうである。倒れたケット・シーが何人か居て、食事中に何かあった事が容易に察せられた。
「国王様は……」
見当たらない。他の場所を探そう、と思った時、恐らくキッチンだろう奥の扉の向こうから、がたりと物音がした。
「……誰か居るのか」
声をかける。しんとしていた。
気の所為だろうか? まさか敵か。
俺はどきどきしながら奥の扉までそっと歩き、もう一度声をかけた。
「誰か居るのか」
「……ダイチ?」
聞き覚えのある声だった。
「ダイチなの……?」
もう一人、俺の名を呼ぶ声にやはり聞き覚えがある。
「……オーエン? ダヒ?」
がちゃっと鍵を開ける音がして、すぐさま扉が開いて二匹のケット・シーが飛び出して来た。
「ダイチ! ダイチ!」
「怖かったよお、ダイチ……!」
俺は二人の勢いに尻もちをつきながら抱き留めた。
「二人共ここに居たのか。無事で良かった」
ぎゅっと二人を抱き締める。それからはっとして二人の顔を見た。
「どうして二人はここに? 国王様は? 一体何があったんだ」
「俺達、池で魚を釣ってたんだ」
「ダイチに初めて会った場所で、あの時みたいに」
「そしたら甲冑を着て剣を持ったニンゲン達が二十人くらいやって来て、国王様にお目通り願いたいって云うんだ」
「俺達はどこから来たのか訊いた。そしたら別の世界から来たって云うんだ」
「それで、ダヒにはそのニンゲン達と待っててもらって、俺が一っ走り王城に行ってどうするか訊いたんだ」
「戻って来たオーエンと俺は、国王様の指示でニンゲン達の代表一人を案内する事にしたんだ。代表の腰にある剣は残る奴らに預けてもらって」
二匹はそこまで云うと、怯えた様にぶるりと身を震わせた。
「ニンゲンの代表は国王様に謁見すると、ダイチと同じ様に少し客間で待たされた」
「俺達も一緒に待って、ダイチの時と同じ様に食事が振る舞われる事になった」
「外で待っているニンゲン達にも料理が振る舞われる事になった」
「侍女達が運ぶ事になって、手が足りなくて街の者の手も借りる事になった」
「食堂で食事を食べようとした時……」
「ニンゲンの代表が……」
二人が声を揃える。
『国王様に隠し持っていた短剣で襲いかかったんだ!』
二人は恐ろしい光景を見た、と云わんばかりに両手で目を覆った。
俺は二人を宥める為に抱き締める。二人も俺にしがみついた。
「すぐに控えていた兵士達がそいつを取り押さえようとした」
「でも駄目だった。そいつは本当に強かった」
「国王様は俺達をキッチンに押し込めると鍵をかけてじっとしている様に云ったんだ」
「だから国王様がどうなったかまでは見ていないんだ……」
「俺達が守らなきゃいけなかったのに!」
「俺達が守られてちゃ駄目だったのに!」
わああああ、と二人が声を上げて泣く。俺はかける言葉が見当たらず、ただ二人を抱き締め続けた。
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