13.異変

 オーエンとダヒに、七日後に来る事を約束して俺は現実へと帰った。目が覚めたるなりパソコンでネットに繋いで竹とんぼを二つ注文する。少し考えて、ついでにけん玉も二つ注文した。それから身支度をして、朝食を食べる。

 今日は土曜日なので学校は無い。宿題をしたリ、バイトをしている内に終わり、日曜日も似たり寄ったりな時間が過ぎた。

 月曜日は注文した竹とんぼとけん玉を受け取ると云う重要な任務があった。うっかり両親に見られたら、何でそんな物をと詮索されかねない。それはとても面倒だ。勿論日時指定をして両親の居ない時間に受け取り、さっさと部屋に持って行って中身を確認した。うん、問題無く遊べる。

 平日は学校、宿題、バイト、あとはたまに友達と遊んで過ごした。特筆すべき事は無い。

 そしてとうとう金曜日の放課後がやって来た。近隣の市から通っている友達に遊びに行かないかと誘われたが、行き先が隣街だと云うので交通費や帰宅する時間などを考え断った。遅くなるとケット・シーの国へ着くのも遅くなってしまう。それは嫌だった。オーエンとダヒを待たせるのも悪いしな。

 急いで帰宅すると宿題を超特急で終わらせて、晩飯を食い、風呂を済ませて床に就いた。勿論、数日前に届いた竹とんぼとけん玉を持つのを忘れない。

 いつもの白い部屋に金色のドア。それに焦げ臭さ……焦げ臭さ?

 俺は嫌な予感を覚え、戸惑いながらドアを開けると、酷い光景が待っていた。

 国の入り口の側で、ドアの前で呆然とする。

 門は打ち破られ、塀は崩れ、内側からは黒煙が上がっていた。思わず手の中の物を落す。

「何だ、これ……」

 崩れ落ちそうな気分だった。それでもドアをこのままにはしておけないと思い、しかしドアの消し方など分からない俺は、俺以外には開けられない事を祈ってドアを閉めるしか無かった。

 震える脚を拳で叩き、歩き出す。門の脇には門番が二人倒れていた。白猫は一目で分かる程血に塗れて赤い斑模様になっている。駆け寄ると、黒猫も酷く血で汚れていた。

「大丈夫か!?」

「……ダイチ、だったか」

 二匹の間でおろおろしていたら、黒猫の方が薄っすらと目を開いて声を発した。俺はそちらの側に膝をつき、助け起こそうとする。だが、黒猫がそれを手で制した。

「私達の事は良い。王城は……国王様は、」

 げほ、と血を吐く黒猫に、俺は真っ青になった。

「分からない、俺も今来たところで……」

「頼む、ダイチ。国王様を……」

 消え入りそうな声。俺は彼の手を取り、

「分かった、分かったから、あんたの手当てもしないと……」

 黒猫がニヒルに笑う。

「私はもう駄目だ、それくらい分かる……私なんかに構う暇があったら、早く、国王様の元に……」

「でも!」

「早く!」

 力を振り絞る様に黒猫が叫んだ。俺は泣きそうになりながら、黒猫の手を離した。彼の目元が穏やかになる。

「そうだ、それで良い……」

 俺は一瞬だけ白猫の方を見遣り、もう一度黒猫と目を合わせてから、頷いた。そして歩き出す。門の中を覗き込むと、想像以上に酷い有様だった。

 煉瓦造りの建物は打ち壊され、木製の物は燃やされていた。火はもう殆ど消えてぶすぶすと燻っている。あちこちにケット・シーが倒れており、俺は全員に駆け寄りたい気持ちを抑えて王城に向かって走った。走って、走って、気管が灼ける様に感じても走って、俺は王城の門前で膝に手をついて荒い呼吸を繰り返した。見上げると城のあちこちから煙が上がっている。俺は恐ろしい想像を振り払う様に首を左右に振ってから歩き出した。

 ここに来るまで、この国を襲った者は見なかった。襲撃からはそこそこ時間が経っている様に思えた。だが、国王様が無事なら。国王様を探したり、捕らえようとしていたりと、誰かしら残っている可能性がある。そいつに見付からない様に、俺は声を上げず、焦る気持ちを堪えて足音を殺し、城内を見て回った。

 ただ、俺はどこが国王様の部屋か分からない。その事に途中で気付き、一度足を止め、考え至ったのが謁見の間からそう遠くないのではないか、と云う事だ。それにこの国をこんな風にした奴が、国王様を狙ったのなら謁見している可能性はある。謁見して、油断している国王様や臣下のみんなを……そしてそのタイミングで仲間が街を、国を制圧した。あり得る。この規模だ、少なくとも単独犯ではないだろう。

 一先ず俺は場所の分かる謁見の間へ向かう事にした。道中ある扉も一つ一つ確認していく。時折倒れている侍女や兵士が居たが、ぴくりとも動かない様子を見て、国王様を優先する事にした。

 辿り着いた謁見の間はがらんとしていた。ここでは何も無かったと見える。一瞬ほっとして、しかし何も安心出来ないのだと気付いて首を左右に振り、頬を叩いた。

 兎に角ここではないのなら、と、次に場所の分かる食堂へ向かう事にした。

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