12.次の約束
その日はマーケットを案内してもらった。街の中でも一番活気のある場所らしい。
見て回りながら聞いたところでは、門の外もこの辺りはケット・シーの縄張りだそうで、養蜂なんかもしているそうだ。門に囲まれたのは街だけで、その外では農業も行われていると云う。国土の一部でしかない街も随分と広く、ざっくり分けて王城と使用人の住む区域、国民が暮らす住宅街、先のマーケット、工場(こうば)の並ぶ地区、それから中央の広場があるのだと云う。
俺が国賓として扱われる夢渡りだと既に知られている様で、行く先々で歓迎され味見だお試しだと色々な食べ物や小物を渡された。ちょっとした置物なんかは旅行土産の様で嬉しいが、家族に見られたら何と云い訳しよう。まあ、両親は先ず俺の部屋には入らないから、大丈夫か。
俺の両腕が物でいっぱいになった頃(食べ物は胃の中に納まっている)、俺達はマーケットをあとにして中央の広場で噴水の縁に腰かけていた。
「ダイチと居ると俺達まで美味い物が当たる」
「ダイチと居ると俺達まで歓迎される」
嬉しそうな二人を見ていると俺まで嬉しくなってくる。
「それは、二人が良い奴だからだよ」
そう云うと、二人は照れ臭そうに笑った。
「それにしても疲れたなあ」
「そうだなあ。あっ、ダイチに貰ったお菓子を食べよう」
「あっそれは良い考え!」
ダヒに云われて、オーエンは腰の巾着からがさごそと紙袋を引っ張り出した。そして膝の上に菓子を広げる。同じ物を二つずつ買って来ておいたので、ダヒが各菓子を一つずつ取って自分の膝に置いた。
「茶色い物が多いな」
「柔らかい物が多いな」
「どれから食べる?」
「どれから食べよう?」
二人は少しの間うんうん唸ったあと、揃って胡桃餅を手に取った。
「ダイチが自慢の商品だって云ってたこれにしよう」
「ダイチが云うんだから、きっとすごーく美味しいよ」
「あんまり期待されると……口に合うと良いんだが」
「いっただきまーす」
「いただっきまーす」
包みを開けて、口に放り込む。もにゅもにゅと咀嚼する姿が可愛らしい。可愛いは正義。つまり猫は正義である。
なんて事を考えていると、ごくん、と飲み込む音が聞こえた。
「美味い! クルミモチって、胡桃の餅かあ!」
「美味しい! 甘くてもちもちで柔らかくって胡桃の香り!」
どうやら気に入ってもらえたらしい。二人は胡桃餅を完食すると、次はどら焼き、次は……と順に菓子を平らげていった。
どれを食べても美味しいと云って貰えて、嬉しくなる。次に来る時は何を土産にしようかと自然と考えていた。
「ダイチ、美味しいお菓子をありがとう」
「ダイチ、素敵なお菓子をありがとう」
ぺこりと頭を下げられて、俺はいやいやと首を左右に緩く振った。
「こちらこそ、世話になりっ放しで。何か持って来て欲しい物とかあったら云ってくれよ。次来る時持って来るから」
そう云うと二人の瞳が輝く。
「ほんとか! じゃあ、また何か日本の物を持って来てくれ」
「オーエン! ちょっと図々しいぞ」
「えー、だってダイチが云ってくれって」
「だからってすぐ催促しちゃ駄目だろ」
「良いんだ。ただの高校生だから、何でもは持って来れないけど。日本の物なら……何が良いかな。漆器とか木工品、竹細工とかかな……」
「俺、玩具が良い!」
「オーエン……」
「こう云うのは遠慮する方が失礼なんだって」
「……俺も、玩具が良い」
もじもじしながらダヒが云うので、俺とオーエンは顔を見合わせて笑った。
「それなら竹とんぼでも持って来ようか。正確には確か中国から伝わった物だけど、あれならネット通販で手に入るだろうし」
「楽しみだな、ダヒ」
「楽しみだな、オーエン」
何だか弟が二人出来たみたいな気持ちだった。
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