11.三度目の
多少やんちゃな奴らが教員に怒られたりと云った事はあったが、概ね恙無く授業が終わり、俺は早々に学校をあとにした。思い付いた事があって、帰り道から少し外れて菓子屋に寄る。それから帰宅すると家族は居らず、俺はシャワーを浴びて部屋着に着替えると机に向かった。ケット・シーの国へ行く前に宿題を終わらせねばならないのである。
宿題が終わっても母は帰宅しておらず、そう云えば今朝帰りが遅くなると云っていた様な気がする。考え事に夢中で良く聞いていなかった。父もまだ帰らないだろう。俺は冷蔵庫にあった物で適当に夕食を済ませた。
「寝るにはまだ早いな」
居間の時計を眺めて呟く。食事中から点けっ放しにしていたテレビではバラエティ番組を放送しており、興味は無いが何もしないのも暇なので暫くそれを見る事にした。
そうしている内に母が帰宅し、父も帰宅し、俺は自室へ引き上げた。少し早いがそろそろ寝る事にしよう。早くケット・シーの国へ行きたい。オーエンとダヒに会いたい。子供の為に作られた様なサイズ感のあの街を見て歩きたい。
帰宅途中で買って来た小包を胸に抱いてベッドに横になる。興奮の為か、中々寝つけなかった。まだ少し早い時間だと思っていたのに、寝つく頃には予定通り夜中になっていた。
いつも通りの白い部屋。恒例になりつつある金のドア。手の中には件の小包。
やっぱり、持って来られた。肉体ごと来ていると思えば良い、と云っていたから、手に持っていれば夢に持ち込めるのではと思ったのだ。
俺は逸る気持ちを抑えてドアノブを捻った。
さあっと爽やかな風が吹く。日本より少し涼しい気候の様に思えた。ケット・シーについて調べた時にアイルランドについても調べたが、日本より穏やかな気候ながら四季があり、夏は比較的涼しく、冬は東京より冷える程度らしい。北海道に住んでいる俺にとっては、寧ろ暖かいくらいだろう。
きょろ、と辺りを見回すと、ケット・シーの国の門の近くだった。門へ向かおうとするとその門が開いて、丁度オーエンとダヒが出て来るところだった。
「ダイチだ!」
「ほんとだ!」
二人が駆け寄って来てくれる。
「こんばんは……あ、いや、こんにちは、か。オーエン、ダヒ」
「こんにちは」
「こんにちは」
くふふ、と二人は笑って応えてくれた。
「今日はお土産があるんだ」
そう云って手に持っていた小包を差し出す。二人は箱を見て、顔を見合わせ、もう一度小包を見てから俺を見上げた。
「何だ、これ」
「なあに、これ」
「開けてみろよ」
二人はもう一度顔を見合わせると、オーエンがそっと小包を手に取った。小包は紙袋で、オーエンは折られた口を伸ばして開ける。中に手を突っ込んで取り出されたのは、幾つかの和菓子だった。
「……何だ、これ」
「……なあに、これ」
「お菓子だよ。日本の」
これはどら焼き、これは、これは……と一つ一つ指差して名前を教えていく。
「で、これが胡桃餅。これ買って来た店の自慢の商品なんだ」
「へえ! 日本のお菓子か」
「わあ! 甘い匂いがする」
鼻をひくひくさせながら、二人は目を輝かせた。
「大事に食べるよ」
「美味しく食べるよ」
「あんまり日持ちしないからなるべく早く食べてくれな」
「はーい」
「はーい」
二人は菓子を袋にしまうとオーエンの腰に下がっている巾着袋に大事そうにしまい、それから左右から俺を挟んで腕を取った。
「今日は街を案内するよ」
「て云っても広いから、一部だけだけど」
「楽しみだよ」
俺達は並んで歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます