9.起床
オーエンやダヒ、そして国王様と談笑しながらデザートまでたらふく食べた。
言葉が通じる不思議を訊いたら、ここはそう云うものだから、と云われた。他にも色々訊いたが、殆どは「ここはそう云うものだから」で返されてしまって、分からない事ばかりのままだった。多分、突き詰めれば理由があるのかもしれない。だが、彼らはそれを気にしていないのだ。そして俺も、気にしない事にした。空が青い理由を気にする人間の方が、多分少ないだろう。そう云う事なのだ。
「さて、ダイチは夢渡りでここに来ているんだったね」
国王の言葉に、はいと頷く。
「そろそろ起きなくて大丈夫かい」
俺は窓の外を見た。陽が傾くと云う程は時間が経った様子ではない。しかしもう十四時は過ぎているだろう。十五時になっているかもしれない。日本はアイルランドより八時間進んでいるから、今が十五時だとしたら日本は二十三時。もうすぐ日付が変わる頃だ。
そう云えば夕飯を食べる様なメモを残して来てしまった事を思い出した。仕方無い、それは朝ご飯にしよう。ともあれ一度起きておいた方が良いかもしれない。
尿意も感じている。肉体ごと来ているらしいが、ここで小用を足して現実では漏らしていた、なんて高三にもなってあってはならない。戻った方が良いだろう。
「そうですね、今日はそろそろ戻ります。……また明日、来ても良いですか」
「勿論。歓迎するよ。明日は二人に街を案内してもらうと良い」
俺はオーエンとダヒに見送られて、街の外にあるドアへ向かった。
「明日は何時に来る?」
「明日も今日と同じ時間に来る?」
「うーん、寝るのが夜中だと思うから……十六時頃かな」
「俺達に細かい時間の概念は無いぞ」
「精々朝、昼、夕方、夜、夜中、くらいだぞ」
「そう云えば時計が無かったな」
俺は少し考え込んだ。アイルランドの日の入り時間が分からない。うーんと唸って、一つ閃いた。
「昨日と同じくらいの時間だと思ってくれれば良いよ」
「成程、分かり易い」
「成程、分かった」
昨日は普段寝る二十四時頃に寝ている。明日もその時間に寝れば良いだろう。あまりゆっくり出来ないが、毎日夕方から寝る訳にもいかない。何故なら宿題があるから……そう、宿題だ。勿論今日もある。
思わず溜息を吐いた。
「どうした、ダイチ」
「何かあったか、ダイチ」
「ニンゲンにはな、色んなしがらみってもんがあるんだよ」
「ふーん」
「へー」
俺はここに来て初めて、目を覚ましたくないと思ってしまった。そうこうしている内にドアに辿り着く。俺はドアの前で二人を振り返った。
「今日はありがとう。明日も宜しくな、オーエン、ダヒ」
「こちらこそ今日はありがとう、ダイチ」
「おかげでご馳走にありつけたよ、ダイチ」
俺達は笑い合って、手を振って分かれた。最初の部屋に戻ると、俺はじきに目を覚ました。部屋は真っ暗だった。
居間に降りると母がまだ起きていた。俺を振り返る。
「こんな時間までお昼寝?」
「うっかりな。晩飯は何」
「生姜焼き」
「じゃあ、それは明日の朝食うよ。今は腹減ってないから」
「また寝るの?」
「宿題やって、寝る時間があればな」
俺は再び部屋に引き上げた。
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