7.幼馴染
通されたのは二十四畳くらいの部屋だった。右手奥には天蓋付きの大きなベッドやドレッサーがある。手前にはテーブルとソファ。左手にはドアがあるのでまだ部屋が続いているらしい。多分、トイレとか風呂なんじゃないかと思った。
「どうぞお寛ぎください」
俺達を案内してくれたケット・シーが頭を下げて部屋を出る。入れ替わりにメスのケット・シーが二人(どちらもシャム猫っぽかった)、ワゴンを押しながら入って来た。そして丁寧に頭を下げてくれる。
「只今昼食の用意をしております。お茶を飲んでお待ちください」
「ありがとうございます」
応えると、二人はふふっと上品に笑った。何だか照れ臭くなる。
お茶を入れてくれた二人が去ったあと、俺はオーエンとダヒに話しかけた。
「国王様の口ぶりだと、一緒に食事を摂るみたいだったけど。大丈夫かな、俺、食事のマナーなんて分からないぞ」
精々フォークとナイフの使い方が分かるくらいだ。フォークとナイフは外側から使う……あれ、内側からだったか?
「大丈夫、普通に食べれば良いよ」
「大丈夫、何なら箸を用意してもらうと良いよ」
ダイチは日本人だもんな、と二人声を揃えて云った。
「……最初に会った時から思ってたけど、二人って仲が良いよな。息ぴったしって感じ」
そう云うと二人は顔を見合わせて、にししと笑った。
「俺達生まれた時から一緒だもんな」
「俺達同じ日に生まれた兄弟みたいなもんだもんな」
「へえ、じゃあ幼馴染なのか」
「まあ、そんな様なもんだ」
「ああ、そう云う様なもんだ」
俺にも幼馴染は居た。家が隣なのだ。だが、幼稚園の時に既に疎遠になってしまい、今では殆ど顔も合わせない。理由は大した事じゃない。そいつの遅刻癖に、俺が幼稚園生ながら辟易してしまったと云うだけの話だ。一緒に登園する度に俺まで遅刻してしまって、もう嫌になってしまったのだった。その事を思い出して、少し寂しくなる。
「どうした、ダイチ」
「お茶が口に合わなかったか、ダイチ」
二人に声をかけられはっとする。二人は心配そうにこちらを見ていた。
「違うよ。お茶は美味しい。大丈夫」
ふっと笑って答える。
「そうか」
「なら良かった」
三人で笑い合った。
そうして談笑している内にコンコンコン、と部屋のドアがノックされた。
「はーい」
オーエンが応じると、ここまで案内してくれたケット・シーが居て一礼した。
「昼食の用意が整いました。どうぞこちらへ」
案内されたのは食堂だった。先程待たされた部屋より少し広いだろうか。長いテーブルが中央にあり、その上には湯気の立つ料理が並んでいた。何故か椅子は無い。
「立食の方が気が楽だろう。好きに取ってお食べ」
国王様の声だ。見ると上座に唯一ある椅子に彼は座っていた。
「私は歳で立っているのがつらいので座らせてもらうがな」
「はい、国王様」
「頂きます、国王様」
オーエンとダヒが云う。
「あ、ありがとうございます。頂きます」
俺も慌ててそう云うと、二人に続いてテーブルに進み、取り皿とトングを手に取った。
料理はどれもケット・シーサイズで俺には少し小さかった。しかし量はたっぷりと用意されており、空腹は充分に満たせそうだった。そこではたと気付く。俺は今空腹を感じている。今までも夢の中で飲食した事はあったが、それは空腹からではなかった。夢の中で空腹を感じるのはこれが初めてだ。やはりこれはただの夢ではない。
ここでの飲食に少し不安を抱いたが、見た事も無い料理と、美味そうに食う二人につられて、俺は料理を口へ運んだ。
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