6.謁見
広い部屋だった。体育館くらいあるだろうか。両サイドの高い位置に窓がずらりと並びそこから明るい光が入り込んでいる。
奥は少し高くなっており、そこに豪奢な椅子があった。王座だ。
俺を先導してくれた二匹が室内へ入る。俺は慌ててあとを追った。奥の、壇上の少し手前で二匹は人一人分のスペースを空け、片膝をついて首を垂れる。一拍遅れて、俺は二匹の間で同じ様に片膝をついて下を向いた。
「国王陛下がお出でになります」
王座の側に控えたケット・シーが声を張る。足音は無いが、布の擦れる音がした。それからぎ、と椅子の軋む様な音。
「顔をお上げ」
渋く優しい声だった。左右のケット・シーがゆっくりと顔を上げる気配につられ、俺も顔を上げる。白い長毛種が居た。座っているので正確なサイズは分からないが、他のケット・シーより大きい。ああ、あのもふもふに埋もれたい。
「良く来てくれたね。私がケット・シーの王だ」
にこやかで、王様と云うよりおじいちゃんと云う印象だ。左右で色の違う目が、じっと俺を見詰める。またどきどきしてきた。
「二人も、案内ご苦労様」
国王様の視線が、俺の左右へ順に移る。
「お安い御用です!」
「大した事じゃないです!」
二匹が元気に答える。本当に気安い感じで、俺は安堵した。
「ニンゲンよ。お前さんの名は何と云う」
「ワカミヤダイチと云います」
「と云う事は日本人だな。どんな字を書く」
「ええと……老若の若いに宮殿の宮、ダイチは大きいと、矢口に日です」
これで伝わるだろうか。
「大いなる知恵……良き名だ」
伝わったらしい。うんうんと国王様は頷いている。
「ダイチよ、お前さんを国賓として扱おう。ゆるりとしていくが良い」
「あ……ありがとうございます」
先までとは別のどきどきが胸を満たした。
「色々と訊きたい事もあるだろうが、それは昼食でも食べながらゆっくりしようではないか。すぐに準備させる故、先ずは休まれるが良い。これ、三人を案内せよ」
国王様が声をかけると、俺達の後ろに控えていたケット・シーの一匹が「はっ!」と元気に返事をした。俺の両脇に居た二匹が立ち上がり、国王様に礼をする。俺も慌てて二匹に倣って礼をした。
二匹と一緒に部屋を出た所で、深く息を吐く。
「なっ、大丈夫だっただろ」
「ねっ、優しかったでしょ」
「ああ……でも緊張したよ」
二匹は楽しそうに笑う。猫とは良く笑うものだなあと思った。
「さあ、どうぞこちらに」
一緒に謁見の間を出て来たケット・シーに促されついて行く。彼はちょび髭の様な模様がチャーミングな、腹が白く背が黒い猫だった。頭部はハチワレだ。
「そう云えば、に……二人の名前は何て云うんだ」
「俺はオーエン」
グレーの方が答える。
「俺はダヒ」
茶トラの方が答える。
「オーエンにダヒか。日本人の俺には馴染みの無い発音だな」
「覚え難い?」
「覚えられる?」
「頑張るよ」
二匹……二人は嬉しそうに笑った。
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