5.再会
「今日は随分早寝だったんだな」
「今日は随分早く来たんだな」
こちらへ駆け寄りながら二匹は云う。
「時間に余裕を持ってって、お前らが云ったんじゃないか」
俺がそう云うと、二匹はそれもそうだと笑った。
「でも、昨日の今日ですぐ来るとは思わなかった」
「でも、もしかしたらと思って来て良かった」
「俺も来れるとは思ってなかったよ。……あれ、もしかして迎えに来てくれたのか」
そう云うと二匹は顔を見合わせ、それから俺を見てにっと笑った。
「お客様を我が国へ案内しないといけないからな!」
「お客様を我らが国王様に会わせないといけないからな!」
そう云うと二匹は昨日の様に俺の腕を取り、歩き出した。今日の俺は素直に従う。
昨日は感じた得体の知れなさが、いつの間にか無くなっていた。それよりも今は、好奇心で胸がいっぱいだった。
暫く歩いて辿り着いたのは煉瓦造りの街だった。門番のケット・シーが二匹。
「そいつが昨日云っていたニンゲンか」
門番の一匹が云う。黒猫だ。
「そうだよ。国王様に会わせるんだ」
グレーの方が答える。
「そうか、そいつはご苦労様」
もう一匹の門番が云う。白猫だ。
「二人もご苦労様」
茶トラが云って、俺は二匹に引きずられる様に門を潜った。
街の建物はケット・シーサイズで俺には小さい。屈めば何とか入れそうな大きさである。あちこちに二足歩行で服を着た猫が居て、物珍しげに俺を見ては、ひそひそと話していた。何だか居心地が悪い。だが、悪意は感じなかった。
「なあ、国王様に会うのに、俺はどういたら良い? 礼儀とか、俺、分かんねえぞ」
遠くに城らしき大きく豪奢な建物が見えて、俺は少しびびっていた。俺の腕を引く二匹におろおろと話しかける。すると二匹は歩きながら俺を振り返って、にひひと笑った。
「大丈夫だぞ、国王様は寛大だから」
「大丈夫だよ、国王様は寛容だから」
「でも……」
「ニンゲンはお客様だから大丈夫!」
「敬語使って、許可があるまで顔を上げなきゃ大丈夫!」
「ほんとに、それだけで良いのか?」
二匹は頷く。俺は少し安堵して、彼らに手を引かれて城へと歩いた。
城の前にも門番が居たが、先程と同じ様な短い遣り取りだけで俺達は通される。この国のセキュリティは大丈夫か。
城の中に居るケット・シー達は街中で見たケット・シー達とは違った格好をしていた。外のケット・シー達はザ・村人と云う雰囲気の服を着ていたが、城の中のケット・シー達は西洋の法衣風の服を着ていた。
城の中は随分広く、俺でも普通に直立して歩く事が出来た。俺の身長は平均くらい。それで、天井まで少し余裕があるくらいだった。道の横幅は学校の廊下より少し広いくらいだろうか。俺達は他のケット・シー達と擦れ違える様に、前に二匹、後ろに俺と云う並びで歩く事になった。
緊張が高まる中、不意に二匹が足を止める。俺も立ち止まり、二匹の前へと視線を向けるとそこには両開きの扉があった。恐らくここに国王様が居るのだろう。じわじわと脂汗が滲む。
気を落ち着けようと深呼吸をした所で、扉が開いた。
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