3.猫の正体
「じゃあ、ニンゲンはお客様なんだな」
「つまり、ニンゲンは侵入者じゃないんだな」
二匹は俺の説明を聞いて、何やら納得した様だった。
二匹は戸惑う俺を見て、にやりと笑った。得体の知れない彼らに、薄っすらと恐怖を感じる。
「ま、詳しくは俺達の国に戻ってからだな」
「ああ、難しい話は国王様にしてもらおう」
二匹は顔を見合わせて頷き合うと、俺を挟んでそれぞれに俺の腕を取り、歩き出そうとした。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。どこに行くって?」
「俺達の国だよ」
「ケット・シーの国だよ」
二匹が俺を見上げて答える。
ケット・シー?
「待て、聞いた事があるぞ。確かアイルランドの伝説に登場する、猫の妖精……」
「おっ、ニンゲン意外と博識だな!」
「そう、俺達は誇り高きケット・シー!」
二匹はとても嬉しそうに笑って、俺の腕をぐいぐい引く。
「なあに、取って食いやしないから」
「そうそ、何も心配要らないから」
ぐいと両腕を引かれる。ケット・シーは意外と力持ちの様で、俺の足はとうとう堪え切れず前へと踏み出していた。
「あ、待て、火、火を消した方が……」
何とか足を止めてもらおうとして云うが、二匹は立ち止まらない。
「ニンゲンを追う前にちゃんと消したよ」
「大丈夫、大丈夫」
池の畔を見ると、確かに火は消えていた。
俺は何とか二匹を止めようと考えを巡らせる。
「待ってくれって。もうここに来て結構な時間が経つ。もうそろそろ戻らないと……朝になっちまう」
そう云うと、二匹は漸く立ち止まった。そして俺を振り返る。それから二匹で顔を見合わせて、また俺を見上げた。
「そうか、ニンゲンにとってはここは夢なんだったな」
「そうだ、夢からは覚めなきゃいけないんだったな」
「ニンゲンには俺達同様社会的生活ってもんがあるんだったな」
「人間社会から急にニンゲンが消えると騒ぎになっちまうんだったな」
「どうする」
「どうしよっか」
そう云って、二匹はまた顔を見合わせた。少し困った顔をしている。
「でも、客人は国王様に会わせなきゃ」
「でも、客人は起きる時間だ」
二匹は少しの間、うーんうーんと唸ったのち、
「国王様には、報告だけしておこうか」
「国王様には、次来た時に会わせようか」
と云って、二匹は俺を見上げた。ぱっと手が放される。
「ニンゲン、また来いよ」
「ニンゲン、次はもっと時間に余裕を持ってな」
「あ、ああ……」
俺は混乱しながらも、兎に角解放された事に気付き、二匹に背を向けて木々の間を抜け、陽の傾き始めた草原を渡り、金のドアを潜って最初の部屋に戻った。
暫くするとアラーム音が響いて、次の瞬間俺は自室のベッドの上で目を覚ました。
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