2.二足歩行の

「すっげ……」

 思わず声が漏れる。奥には陽にきらきらと光る池が見えた。水面を風が撫でていく。

 ぴーひょろろ、と、どこかから鳶の鳴き声が聞こえる。

 いっそ感動する程の美しい夢だった。花の香りすら感じられる。現実と見紛う程だ。

「ニンゲンだ! ニンゲンが居る!」

 呆然としていると、甲高い声が叫んだ。

 吃驚して周囲を見回す。すると池の向こう側から煙が立っており、その側に背の低い人影が二つ見えた。

 まずい。夢の主に見付かった! 心臓が跳ねる。

 今まで俺は誰の夢でもこっそり覗き見て、夢の主は勿論登場人物達にも見付からない様にしてきた。どの様に影響するか分からないからだ。もし夢の主に見付かり、その人が起きた時に俺を覚えていたら。それが知り合いだったら。一人や二人、一度や二度なら、「俺を夢で見た」で済むが、それが頻発したら? 面倒な事になるかもしれない。

 俺は慌てて木々の中に身を隠した。そこそこ距離があったから、走ってドアを抜ければ逃げ切れるかもしれない。こちらからは向こうが影にしか見えなかったから、向こうも俺が誰かまでは分かっていないかもしれない。今走れば間に合う。しかし。

「……人間って、云った?」

 それでは……それでは、まるで声の主が人間ではないみたいではないか。

 心臓がばくばくと音を立てる。しかし、声の主の姿を見たいと云う好奇心は強く、俺は恐る恐る木の影から花畑の方を覗いた。

「……アイルー?」

 服を着た、二足歩行の猫が二匹、そこに居た。正しくモンスターハンターのお供、アイルーだ。

 ぽかんと間抜けに口を開けた俺を、アイルー(仮)達の目が捕らえる。

「ほら見ろ! やっぱりニンゲンだ!」

「ほんとだ! ニンゲンだ!」

 身長百センチくらいのグレーの猫と茶トラの猫が、顔を見合わせてわあわあ云う。俺はと云うと、ほっとしていた。何故なら、少なくとも夢の主に見付かった訳ではないと思ったからである。

 二匹は一頻り騒いだのち、きゅるんとした二対の瞳で俺を見上げた。

「ニンゲンはどうしてここに?」

「ニンゲンはどうやってここに?」

「え……っと、」

 何と答えたものか。それ以前に、このまま話をしていて良いのだろうか。

 周囲を見回す。人影は無い。俯瞰で見ている夢なのだろうか。だとしたら夢の主がここに居なくても、俺が見られている可能性は高い。夢の主の印象に強く残る前に、ドアから出た方が良いのではなかろうか。

「答えろニンゲン!」

「答えてニンゲン!」

 二匹のアイルー(仮)に詰め寄られてたじろぐ。何を隠そう俺は猫が大好きなのだ。正直云って抱き締めたい衝動に駆られている。だがそれに蓋をして、兎に角今どうすべきかを考えていた。

 考えている間にも、アイルー(仮)達はなあなあねえねえ騒いでいる。俺は考え事に集中出来なくなって、

「ああ! もう!」

 と頭を掻き毟った。

「……どうした? ニンゲン」

「……大丈夫? ニンゲン」

 アイルー(仮)達に心配される。俺は一つ溜息を吐くと、自分で乱した髪を手櫛で整えてから二匹を見た。

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