第3話 カクしてクエストは始まった。

 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

 ヒュルルルル〜


 ここはオンラインR P Gゲーム『フロレンス魔戦記』のダンジョンへの入り口。ゴツゴツ岩で出来たゴーレムが行く手をはばんでいるわ。アイツをなんとか倒さなくっちゃ、これからのクエストは始まらない。さあ、行くわよ『ブルバレル』の仲間達! 


「フフフフフ」

「何を薄気味悪い笑い方してるの、ルドルフ?」

「なぁにブロッサム。あんなヤツ、このオレ様のM134型ガトリング砲『サマンサ』のグレイト・バースト・ショットで粉々にしてやらぁ」

「アンタね、いつもそんな事ばかり言ってるけどさ、一度たりともうまく行った試しが無いじゃない」

「ナニを!?」

「ナニさ!?」

「ケンカはおやめ、二人とも。今はアタイの言う事を聞くの! あのゴーレムを倒すのが先決だよ!!」

「ピーチップの言う通りよ。皆でダンジョンの入り口を開こう!」

「りょーかい、オレンジパイ。 オメェの言う事はいつも正しいぜ」

「またこのオンナ、良い子ぶっちゃってさ」

「何か言った、ブロッサム?」

「空耳じゃ無いの、オレンジパイ? 大体アンタはね・・・」

「シッ、お黙り! 何か来る!」


 ガサガサガサ・・・

 キキキキキッ!


「あれはモナキーの大群よ!」

「くっ、これでも喰らえってのよ!」


 ビっ! ヒュウっ!


 ブロッサムがお得意のコンパウンドボウ『スレイヤー』の矢を放つ! コウモリ型モンスターのモナキーにブロッサムの矢が接近するのを見計って、ピーチップが叫ぶ!!


「今だ唱えよオレンジパイ!」

「ガテンショー!」


 私はとっておきの呪文を唱える。


「エロイ夢・アッサイ夢、エロイ夢・アッサイ夢・・・バレたっ!」

「・・・・・」

「何も起こらないじゃないのよ?」

「おーい、ちょっとゲームにポーズをカケるぜ」

「ん、そうオシ」

「ちょっとオレンジパイ、呪文の字面が違ってるわよ」

「んあ?」

「全部カタカナで唱えるんだよ。それと最後の一言も違うよ」

「ごめんなさい、もうしません」

「さあ、もう一度ヤリ直シだよ」

「ガテンショー!」

「んじゃ、ポーズ解除スルわね」


 ビっ! ヒュウっ!


「エロイム・アッサイム、エロイム・アッサイム・・・バレイっ!」


 ブロッサムの矢尻が閃光と共に爆発する。モナキーの大群はその炎に焼かれて蒸発する。


「ルドルフ! おやり!!」

「ガテンショー!!」


 ズドドドドォ〜ン!


 ルドルフが両手で抱えたM134型ガトリング砲『サマンサ』がオレンジ色のマズル・フラッシュの連射を吹く。


「ブルズアイ!」


 ピーチップがゲームA Iより先に当たり宣告を出す。


 バリバリバリッ!

 ブワッ!!


 ゴーレムの周りに噴煙が巻き起こり、飛び散る岩石と粉塵、そして静寂。


「やったぜ! どーだ、ブロッサム?」

「どれどれ? ふむふむ。今回は珍しく上手く行ったみたいねぇ」

「今日のオレ様は一味違うだろ?」

「はいはい。さー、ちゃっちゃとダンジョンに入るわよ」


 さあ、これからがオ・タ・ノ・シ・ミ。


 私、オレンジパイとブロッサムの連携攻撃、ピーチップの観察力と統率力、そしてルドルフの必殺ショット。いつもながらブルバレルの仲間たちは頼りになるわ。ちょっと私はドジ踏んじゃったけど、まあコレはいつものコト。


 って、アレ?


「んあっ?」

「何やってるのよ、オレンジパイ?」

「なんだか身体がビリビリするわ」

「アンタの気のせいじゃない? ん?」

「アタイも・・・」

「ッ! あれを見て!!」

「うぉっ、俺様が倒したゴレームが!」

「小岩が集まって合体してるわ!?」

「あれは復活魔術だよ!」

「なんでスって? そんなの私でも封じ込められナイ!」


 ゴーレムは両腕を高々と振り上げると拳を握り、私たちめがけて振り下ろして来るっ!


「みんな、伏せるんだよ!!」

「間に合わないわよ!!」

「くっ、これまでかっ!?」


 シャキーン、ズサっ。


 稲妻みたいに目にも止まらぬ早さでゴーレムの両腕が切り落とされ、地面に落ちていく。


「アレは! じょ、ジョッシュ様ぁっ!!」

「やれやれ、キミたちは本当に無用心だね。このボクの伝説のソード、『妖刀ムラマサ』が無ければ今頃どうなっていた事やら」

「アンタ、いつも出て来るのが遅いのよ。チローはオンナに嫌われるわよ」

「すまないねぇ。ちょっとリアル世界で残業しててさ」

「ジョッシュ様ったらぁ、もう来られないかと思っていましたわっ!!」

「ごめんよ、オレンジパイ。さあ、行こうか?」

「ハイっ、ジョッシュ様!」

「ジョッシュ、アタイにも何か一言あってもいいんじゃない?」

「リーダー様の仰せの通りに、ピーチップ様」


 こうして私たちのパーティ『ブルバレル』はダンジョンの中に入っていく。なんだかワクワクするじゃない? だって今日は日曜日。憧れのジョッシュ様と一緒に思いっきりこのオンラインRPGを楽しむわよっ!



 そうしてゲームは盛り上がりながらステージをクリアして、みんなログアウトシタわ。


「んあ? もうこんな時間だわ。明日もハヤいしハヤくネましょ」

「あ、もうこんな時間っす。明日もアリだからハヤく寝るっす」

「お、もうこんな時間だ。明日も早いから早く寝よう」

「あら、もうこんな時間なのね。明日もはやいから早く寝る事にするわ」

「ナニっ、もうこんな時間だぜ。明日もハヤイからハヤくネルぜ」





 月曜日の朝は一週間で一番ユーウツな時間なの。起きてからカラダがとてもダルいわ。昨日オンラインR P Gゲーム『フロレンス魔戦記』をヤリ過ぎたかな。同じパーティにいるソード使いのジョッシュ君がツヨくてカッコ良いから、彼と一緒に魔道士オレンジパイとしてモンスター退治するのが楽し過ぎるのよね。だってカレのアレ、スゴく大きいんだモノ。アレが現実だったら、いつか私の・・・。


 えへへぇ♡

 だらぁ


「すぴー」


 通勤電車に揺られながらウトウト夢を見ていたら、職場の後輩が声をかけて来た。


「みかんパイセン! グモンっす!!」

「んあっ!? ああ、モモちゃんおはよう」

「パイセン、今そっち行くっすー!」


 モモちゃんが乗客をかき分けながらこちらにやって来るわ。ちなみに『グモン』って言うのはね、モモちゃん言葉で『グッド・モーニング』って意味らしいの。カノジョ、帰国子女らしいんだけどなんだかヘンな響きよね。モモ語は多分これからもイッパイ出て来るから、次回のお話の最後に解説をイレテおくわね。


 モモちゃんは私の横の吊革を掴むと、私に話しカケた。


「パイセン、なんか眠そうっすね」

「ち、ちょっとね。夜更かしシちゃって」

「モモもっす。今ハマってるゲームがあって。パイセン、『フロレンス魔戦記』って知ってるすか?」

「えっ? し、知らないわ」


 私が『フロレンス魔戦記』にハマってるってコトは、会社の誰にもシられてナイし、後輩のモモちゃんと同類なんて思われたら先輩としての示しがつかないわ。コレは最後までカクシテおかなきゃイケない案件よっ!

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