数理モデルの強み

 数理モデルを用いた解析だからこそできることもあります。

 例えば、感染者数がとある地域でどう変化していったのかということを予測することができます。


 ある研究では数理モデルを使って、世界各国で行われた比較的大きい抗体検査のデータを基に、最初の感染があった日や感染力の強さを表す再生産数をより正確に調査しようとした研究があります[20]。

 対象となった抗体検査のデータは人口0.02%以上をサンプルとされていたハイゼンベルク(ドイツ)、エーダキャウンティー(アイダホ州)、ニューヨーク市、サンタクララ(カルフォルニア州)、デンマーク、ジュネーヴ州(スイス)、オランダ、リオグランデ·ド·スウ州(ブラジル)、そしてベルギーと多岐にわたります[20]。


 この試みはかなり面白いものでして、シミュレーションを使って当時の感染者数、ひいては他人にウィルスを移せる状態の感染者の最高値がいつ頃起きたのか推察することができるのです[20]。

 例えば、ニューヨーク市の最高の感染者数は四月十三日と推定され、人口の5.99%から6.21%が他者にウィルスを移せる状態だったのではないかとしています[20]。


 このような情報がすぐ知れれば、それこそ緊急事態宣言を出すベストのタイミングや、緩めるべき時期やペースが読み解けるかもしれません。


 さて、数話にわたり新型コロナウィルス感染者の総数を把握する大切さ、難しさ、そして求める二つの方法についてお話してきました。


 実はこの把握の難しさは以前にも直面した問題でして、二〇〇九年のH1N1インフルエンザでも、報告された件数よりも十倍もの感染者数が実際いたのではないかと指摘する論文もあります[21]。

 今回との共通点としては重症化しない患者がたくさんいるというところでした。


 そこから一つの案として、もし新型コロナウィルスの感染が疑われている件数が検査数を上回ってしまった場合、疑わしい症状のうちランダムに一部を検査し、その中から出た新型コロナウィルス感染者の割合を使い、全体の新規感染者数を推算する手法が提示されています[6]。

 そこまでいかない事を願いつつ、感染者数が爆発的に増えても全体をある程度把握することに関しては無手ではないということです。

 新型コロナウィルスのパンデミックが上手く記録されれば、未来のパンデミックの際、大いに参考となることでしょう。


 さて、致死率を計算するうえで分母の話は取り敢えずここでお終いとしましょう。

 そうなると次は必然的に分子、つまり新型コロナウィルスの死亡数になります。


 死亡というのは、ある意味分かり易い結果ですから、無症状の感染者のように把握されずにいる人たちなどいない筈ですよね!


 ……ですよね?

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