なぜ再感染は注目されているのか

 そもそも最初から感染しないことが理想とも言えますが、再感染の論文がこんなにも世界の注目の的になるのにはそれ相応の理由があるのです。


 ご存知でしょうか。

 二〇二〇年初めの時点では感染は一概に悪いことばかりではないかもしれない、という話が出回っていました。死亡率も低く、無事回復する人たちが増える中、ワクチンからではなくとも自然に発生した集団免疫が期待できるではないかということだったのです。


 二〇二〇年三月十一日のメルケル首相の「ドイツの人口の六十から七十パーセントが感染するだろう」という発言なども、当初はこれを見越しての事だったことでしょう[24]。この一言には、実は「六十から七十パーセントが感染するのが、ワクチン開発よりも先ではないか」という意味も含まれているので、もろ手を上げて喜べないのですが。


 前に述べた通り、ワクチンで得た免疫は疑似的な感染のようなものです。つまり、本当の新型コロナウィルス感染からも免疫力の強化は図れます。


 とはいえ、ウィルスが無力化されたワクチンとは違い、実際の感染では重症化や死亡する確率が上がるので、おすすめの方法とは言えません。新型コロナウィルスのあまりの感染力の強さにメルケル首相も最悪の事態を予想しての発言だったことでしょう。


 耳に挟んだことがあるかもしれませんが、関連したもので免疫パスポートという考えがあります。獲得免疫が無事機能していて、集団免疫、つまり人口の七十から九十パーセント以上が掛からない状態であれば、社会全体として守られる[7]。よって一度感染した人が出歩く分にはウィルスは彼らを媒介として広がることがないということでした。

 ならば、一度感染した者の渡航を許可する免疫パスポートというものを作ろう! ということだったのです。

 

 たのですが……


 まぁ、再感染の事例が出てしまったわけですよ。

 当然集団免疫に対する期待は低くなり、免疫パスポートも当分はお蔵入りとなるでしょう。


 他に再感染が注目される理由として、ワクチンが有効であるか、また何年毎に予防接種が必要かという質問に対して、これらの研究が大きな意味を持つということが挙げられます。


 例えば人間に感染できる七種類のコロナウィルスの中でも、四種類は皆さんもお馴染みの風邪菌の仲間です。


 ある研究では十人の被験者を一九八五年から二〇二〇年まで数ヶ月おきに血液検査を行うことで、この四種類の風邪にどのくらいの頻度でかかっているのかを調べてみました[20]。観測が続いている三十五年のうち五年の空白の時期があるものの、長期間の感染を観察できる、非常に貴重な研究です。

 それによりますと、風邪の再感染は六ヵ月でも可能だとされています[20]。


 別の資料には、この中でもHCoV-NL63と呼ばれるコロナウィルスの一種では最短で八十日後の再感染が確認されたとのことでした[19]。


 勿論これらのコロナウィルスは今回の新型コロナウィルスとは別物なので、一概に数ヵ月後の再感染が一般的だとは結論付けることはできません。

 ですが季節のインフルエンザのように一年に一回は予防接種を受ける必要があるのかもしれないという根拠にはなります。

 まぁ、それらはワクチンができたらの話になりますが。


 今回の香港の男性は四ヵ月半、アメリカの男性に至っては二ヵ月弱しか感染から再感染の期間が空いていませんが、この再感染の事例が特に早いものだということは十分あり得ます。何せ新型コロナウィルスが流行りだして一年と経っていないのですから。


 同時にこれから再感染者数が増えるという予想もつきます。どれくらい増えるかは、起きてみないと分からないですが、増えるは増えるでしょう。 


 余談ですが、ネットニュースを漁っていたところ、研究者たちが再感染を重要視してたのが良くうかがえる言葉が見つかりました。

 二〇二〇年七月二十四日に書かれたものであり、まだ香港とアメリカの再感染者が報告される前のものです。ある専門家が新型コロナウィルスの再感染の可能性について訊かれたところ、こう答えています[25]。


 “This is one of those things I really don’t want to be true.But a lot of us are starting to say, 'I'm willing to entertain it as a possibility. Let’s keep our eyes out and start watching’”

 「再感染するということは、本当に違っていてほしいことの一つだ。でも皆こうも囁きだしている。『可能性としてあり得なくはない』のだと。目を光らせて待つしかない」


 時には腰を据えて待つことも大事な事です。

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