二人目の再感染者

 世界初の確認された再感染者の論文が発表されてからわずか二日後。新発見の熱が冷める暇もない二〇二〇年八月二十七日。暗たんたる未来を示唆するように、アメリカで確認された再感染者についての研究論文が発表されました[23]。


 しかも今回は香港のものと違い、再感染の時の方が重い症状が確認されたのです[23]。


 患者はネバダ州の男性。

 二十五歳と香港の男性より更に若い。


 彼の最初の感染が確認されたのは二〇二〇年四月[23]。地域で新型コロナウィルスの検査をしているところに参加していたそうです。サンプルが採られたのは四月十八日ではあったものの、三月二十五日から男性は喉の痛み、咳、頭痛、気持ち悪さ、下痢といった症状があったそうです[23]。

 三週間近く放置されていることを考えると、症状の度合いも一度目の感染の時は重いものではなかったのでしょう。

 男性はこの検査で新型コロナウィルスの陽性反応が確認され、入院しますが、四月二十七日には症状もなくなり、五月九日と五月二十六日の再検査で二度にわたり陰性と出ました[23]。


 しかしその数日後の五月三十一日。男性は再び熱、頭痛、眩暈、咳、気持ち悪さ、下痢といった症状で病院に行きます[23]。しかし、胸のX線画像をとるとすぐに帰されてしまいました[23]。


 症状が改善されずに六月五日に掛かりつけの医師を男性は訪ねます[23]。そこで医師は男性の血中酸素濃度が低いことを懸念し、あれよあれよと再入院という運びになりました[23]。


 再度新型コロナウィルスの検査を受け、胸のX線をとり、五月三十一日のものと比べると以前は見られなかった肺炎らしき影がちらほらとあります[23]。実際男性は咳に加え息苦しさを訴えており、医療用酸素を常に必要としている状態でした[23]。


 そして検査の結果は陽性[23]。

 追加の血液検査からも陽性反応が出ました[23]。


 ウィルスの遺伝子解析をしたところ、どちらもネバダ州で確認されている新型コロナウィルスでありながら、進化的には別の経路をたどっているものと判定されました[23]。随所に特徴的な違いが見られます。


 しかし香港の男性の時とは違い、ウィルスはどちらもネバダ州で多く見られます。何らかの手違いで別の人の物と取り違われた可能性を考慮し、その観点からも二つのサンプルは解析されました[23]。


 結果、二つのサンプルが別人から採取された確率は53.48×10の24乗に一つ[23]。

 同一人物のものだと考えて、差し支えない数字です。


 こうして二人目の再感染者が見つかったのです。

 そして今回は明らかに一度目の感染より二度目の方は重症化していました。


 獲得免疫はどうなっているのか。集団免疫は。


 まだ、誰にも分かりません。


 さて、暗い話は一旦置くとして、今回の二つの論文の患者が再感染者として認められ、今までの症例は再感染と断言できなかったのか。


 今までの疑わしい症例報告と今回の二本の論文が一線を画すこととなった要因は、一度目の感染の際も、二度目の感染の際にも、検査から検出された新型コロナウィルスのゲノムが解析されていたことが大きいです。


 通常、PCR検査をする場合、新型コロナウィルスに感染しているかどうかは分かったとしても、遺伝子の並びまでは解析しません。「余計な」お金も時間がかかるからです。


 しかし、その一歩先の「余計」をあえて行くのが研究であり、そしてそういった手間暇をかけたこそ、今回のような価値のある情報を手に入れることができたのです。


 研究はいわば先行投資。


 直接何に成るかと訊かれても、多くの場合は何に成るのかは、なってみないと分かりません。

 空振り三振に終わるかもしれません。

 でも、逆転満塁ホームランを夢見てもよいではないですか。

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