再発、それとも再感染

 再感染の可能性は低いだろうと言われる中、一度は回復したと思われる患者に再び症状が見られるケースが出てきました。


 そしてその報告の多くが編集者への手紙という形をとっていることを考えると、医療現場はかなり切羽詰まっていたのではないかと推測できます。


 一つの記録では、十一人の新型コロナウィルスの患者さんについて書かれています[16]。うち七名は基礎疾患がある高齢の患者であり、一度目感染するも回復し、数日から数週間後にまたも感染が疑われ入院しています[16]。

 基礎疾患があるからなのか、一度目も二度目も発熱、咳、息苦しさや疲労感などといった症状が見られ、七人のうち三人は最終的に亡くなりました[16]。


 別の論文では八十二歳の高齢の基礎疾患がある男性が二度にわたり重症化した様子を詳細に記録したものもありました[17]。二度目の発病の際は新型コロナウィルス以外に別のウィルスの仕業ではないかという声もありましたが、だとすると新型コロナウィルスと同時に感染しているという新たなる可能性も捨てきれません[17]。


 八月にもなると痺れを切らしたかのように、いっそこれら再感染らしき症例を統一するための条件を定めてしまおうという意見も出ています[18]。

 無視できないだけの症例があるのだから、いい加減認めてくれぃ! という叫びのようにも思えます。


 一度目も二度目も症状が出ている。


 それは少なくとも体内に残っているウィルスの遺伝子の断片だけでは説明がつかない現象です。

 つまり何かしら体に支障をきたすような原因があるのであって、それが新型コロナウィルスである可能性も陽性反応が出てしまうと、十分にあり得るということになります。


 とうとう、再感染か? 


 そうとは限りません。

 ウィルスの再発という可能性もあります。


 再発とは一度目の感染でウィルスが完璧に駆除されずに人体に潜み続け、何かの拍子に再び増えて病状が悪化するという現象です。


 俗にいう風邪のぶり返し。


 基本的には良くなりかけたところに体に負担をかけた為、免疫力が低下し、体内で生き残っていたウィルスが増えて悪さをしている状態です。


 対する再感染は免疫力があるとされており、しかもそのウィルスに特化したものであるはずなのにもかかわらず、再びウィルスの餌食となることです。


 例えるならば、ボクサーが相手の猛攻を凌ぎ、少し油断してガードを下ろして一発食らうのが再発で、ボクサーがガードを上げているはずなのに一発もらってしまう状態が再感染です。


 個としては結局どちらでも一発殴られ、症状が出るので、どうでも良いと思うかもしれませんが、集団として考えた場合再発と再感染はかなり意味合いが違います。

 以前感染し、今は健康な人には基本移らないのが再発のウィルスであり、再感染の場合は移る確率が十分にあるということになります。つまり、対策が異なるということです。


 そんなこんなで様々な「かもしれない」という説が上がります。

 検査の精度が原因かもしれない。体内に残っているウィルスの残骸が検出されているのかもしれない。ウィルスの再発なのかもしれない。

 

 それでも否定しきれない。再感染かもしれない。


 二度にわたり症状が出たという症例が報告される度に研究者達は厳しい目で論文を読み、問うのです。


 これは再発なのか。それとも再感染なのか。


 他のウィルスでは獲得免疫は時間とともに弱まることが分かっています[19], [20]。

 理論上、この新型コロナウィルスも同じ傾向が見られるということは十分にあり得ることです。


 だが、決定的な証拠がない。


 そうして白とも黒ともつかぬままの状態が長らく続きました。

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