時々見つける論文の一文
なかなかに緊張する場面となりましたが、ここで少し寄り道をしましょう。
まず申し上げておきますが、私は別段不安を煽ろうとしてこういったお話を書いているわけではありません。
なので緊張で体のこわばってしまっている方がいるならば、どうぞストレッチと深呼吸をしてください。
ではなぜ書くと訊かれますと、「あり得ないということは無い」という現象をより深く理解したいが為であります。ほぼほぼ知識欲を満たすための行為と思ってください。
一応そういった状況に直面した場合の為の予備知識とも捉えていますが、まぁ、近々山に行く気もないのに遭難の対処法を勉強しているようなものです。いつか役に立つかもという程度の脳の栄養です。
それに私になぜ書くかと問うのであれば、読者にではなぜ読むかと問い返さねばなりません。
それはさておき、寄り道の本題である一つの論文の一文について話しましょう。
まず、例外はあるものの、研究において感情といったあやふやなものが論文に含まれるのは、基本的には良しとはされないと考えてください。ですが、時折それらが思いもしないようなところから滲みだすことがあるのです。
とある論文では八十五歳の男性の病状を記録していたものが残っています[17]。男性は高齢に加え、いくつもの基礎疾患を抱えており、四月初めに一週間熱が下がらないと緊急で運び込まれました[17]。血中酸素濃度が低く、酸素ボンベを使っていても八十九パーセントと低いまま[17]。緊急病棟でも呼吸は改善されず、とうとう喉を切り開き気管挿入が行われました[17]。そしてPCR検査で新型コロナウィルスの陽性反応が出ました[17]。そのまま男性は集中治療室に気管挿入された状態で二十八日間過ごしました[17]。
幸い、この男性は長期入院の末、回復し、五月初めに二度の陰性結果が出た為、退院となりました[17]。
しかしその十日後、再び病院へと舞い戻ってきます[17]。
論文は二度目の入院の際の男性のバイタルを淡々と述べていきます。再びPCR検査がコロナと陽性と判断した、という文の後こう続いていました[17]。
“His code status of do not resuscitate/do not intubate was confirmed with family”
「患者の家族が蘇生術、気管挿入を希望していない事が確認された」
覚悟が、うかがえます。
実際、論文を書いた研究者はそのような意図を込めて書いたとは限らないのですが、その前の健康を指し示す無機質な数値の羅列との対比が凄まじい。
研究論文というのは、こういった埋もれた一文というのがあったりします。
意外に面白いでしょう?
幸い男性は二度目の感染からも回復したそうです[17]。二度感染するというのはリスクの二乗ですから、よかったです。
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