再感染の確率が低い根拠

 四匹の猿の実験では再感染は見られず、新型コロナウィルスと言えども再感染の確率は非常に低いのではという声が上がります[11]。


 その意見には猿の実験結果以外にも根拠がありました。


 まず第一に挙げられるのが、検査自体の精度の問題ですが……これはこれでなかなか長い議題となりますので、またの機会に取り上げます。

 取り敢えず、検査の精度が望むほど高くはないということだけ念頭に入れておいてください。


 そうなるとどうなるのか。

 二回連続の陰性反応がそもそも検査キットの精度が低かったゆえだとすれば、完治していない感染者がその二つの誤った結果の後からも陽性反応を出したとしても、なんら不思議ではありません。


 逆にこれら二つの陰性反応は正しいと仮定しましょう。

 完治した後でも陽性反応が出ることがあるのか。

 端的に言いますと、あります。


 なにせウィルスはウィルスとして効力を持っていなくても検査に引っ掛かることがあります。

 ご説明しましょう。


 近頃よく耳にするPCR検査などは、採取されたサンプルにウィルスの遺伝子が検出されるほど含まれているかどうかによって陰陽の判断をします。それは他人に感染できる状態のウィルスでも、感染できないウィルスの遺伝子のみがフヨフヨ体液浮かんでいる状態でも、同じく陽性と出るということです。

 そこから実際未だ活発である新型コロナウィルスであるかどうかは、採取したサンプルからのウィルスを使い新たな細胞を感染させて、改めてその中に新型コロナウィルスが含まれているかどうかを判断する必要があります。


 つまり、絶対の検査結果には時間もお金も必要であり、実際にはこれ以上感染はできないウィルスの残骸だけが検出されている可能性もあるのです。


 とある論文では地域で行った検査で鼻の奥から採取されたサンプルからウィルスの遺伝子が検出できる期間を調べたものがあります[12]。延べ一万二千四百四十六人の参加者の中から二度にわたり陽性反応が出たのは百八人[12]。彼らを引き続き調査すると、最初の陽性反応から十四から六十五日間にわたりウィルスの遺伝子が鼻奥から検出されました[12]。

 中間日数に直すと丁度三十日間[12]。その間ずっと他人を感染できる状態なのか、或いは完治した後の期間も含まれているのかはまだ分かっていません。


 しかも別の研究によると、ウィルスの遺伝子が検出される期間は症状の有無によって違うのではないかという意見もあります。


 例えば、三十七人の無症状感染者と三十七人の軽症者の鼻奥のサンプルから検出されるウィルスの遺伝子の検出期間を比較した研究があります[13]。それによりますと軽症者は大体十四日間の陽性反応が出たのに対し、無症状者は十九日とやや長めでした[13]。最長期間の者たちを比べると軽症者は二十二日、無症状者は四十五日[13]。

 統計的にも解析されていますが、無視できない差です。


 ですがウィルスの遺伝子が無症状の患者ではより長期間検出されることが、ウィルスを他者に移せる期間の長さと直結しているかどうかはまだ分かっていません。


 要研究、であります。


 では仮定として、感染者は実際他者に移せる状態のウィルスを持っており、検査をするも陰性が出たとしましょう。検査の精度以外にこの状況を説明できるのでしょうか。


 研究によると、そういうこともあり得るのではないかとされています。


 検査用のサンプルは採取方法によって結果が異なることが分かってきたのです。


 とある研究では六十九人の新型コロナウィルス感染者を症状の出た日から、喉の奥から採取したサンプルと、便からのものとを連日に陰性反応が出るまでPCR検査で追いました[14]。すると便検査の方からウィルスの遺伝子が喉のサンプルよりも長期間検出されるのが分かったのです[14]。日数にして喉は大体症状が出てから十六日間陽性が出た一方、便からは二十五日間陽性が続きました[14]。

 最も長期の患者では便検査からの陽性反応が五十日間ほど続き、最も二つの検査方法で違いが出た人では三十三日間の差が出たそうです[14]。


 つまり、喉からのサンプルからは陰性と判断された患者でも、ウィルスはまだ体内に残っている可能性があるということになります。


 しつこいようですが、ここでも検出される期間が感染できる期間と直結するとは限りません。希望的観測では、どちらのサンプルも陰性になる前に患者は完治していることですが、もし違うとすれば、退院基準の見直しが必要となるかもしれません。


 検査自体の精度の問題。

 検査して陽性と出ても、検出しているのはウィルスの残骸である可能性。

 サンプルの採取方法によって検査結果が変わること。

 そして動物実験では再感染が見られなかったこと。


 再度陽性反応が出ている患者もほぼ無症状のようですし、それら全てを考慮するとなるほど、再感染は確率として低いように思えます。


 しかし同様に、再感染は無視できない可能性だという声も上がっていました[15]。


 二度にわたり症状が見られる患者が出てきたのです。

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