実験をして一歩前進
この病院で当時使われていた新型コロナウィルス患者の退院条件が明記されていました[8]。
三日以上の平熱が記録されること。
呼吸や気管の問題がないこと。
CT画像でも影があれば、大きな改善が見られること。
そして二十四時間以上の間隔を空けたPCR検査で連続して陰性反応が出ること。
それらの条件を満たしていて退院できたにもかかわらず、四人から再び陽性反応が出たということになります。
ウィルスは体内に残っていたのか? まだ他人に移せる状態だったのか? 検査の陰性反応がそもそも間違っていたのか?
様々な憶測が飛びます。
一ヵ月後に公表された別の論文では新型コロナウィルスに感染し、二〇二〇年一月二十三日から二月二十五日の間に退院するまで回復した二百六十二人の患者を、三月十日まで検査してみたものがあります[9]。こちらの退院条件も上記のものと同じ。そして退院患者二百六十二人の中からも、やはり三十八人が再び新型コロナウィルス陽性となりました[9]。
全体の実に14.5パーセントとなるこの三十八人は一人を除いて皆六十歳以下、特に十四歳以下の患者が目立ち、再び陽性とならなかった患者に比べ一度目の症状が軽い人が多かったそうです[9]。
一度検査で陰性と判断されたにも関わらす再び陽性反応が出るという現象に対し、研究者たちは独自の方法で検証したり、納得のいく仮説を構築していきました。
例えば、検査の精度。
検査キットの精度が低く、二度の陰性結果が間違いだとすると、話は簡単です。そもそも患者は退院時に完治していなかったということになります。
或いは、ウィルスの残骸が体内に残っており、それらが自宅で隔離していた時の陽性反応につながったということも考えられます。その場合は完治しているので、他人に移すことはないでしょう。
仮説が挙げられる中、二〇二〇年五月になると猿を使った実験で、ウィルスの再感染を検討した論文が発表されました[10]。一度目の感染から二十八日後に同じ系統の新型コロナウィルスで感染を試み、その数日後に細胞を解析したところ、どの猿からもウィルスの遺伝子やウィルスに感染した細胞は検出されませんでした[10]。
つまり再感染は確認されなかったのです。
この実験で再感染のグループに含まれていた猿は四匹[10]。再感染が一度目の感染からあまり日を空けずに起きることが想定されていました[10]。
獲得免疫は時間とともに弱くなることもあるのですが、残念ながら一度目と二度目の間をもっと長期間空けての動物実験はタイムマシンを所持していない限り、現時点(二〇二〇年九月六日)では無理な話です。
しかしそれらの短所を考慮してもなお、この研究が大きな前進であったということは事実なのです。詳細を説明すると長くなるので止しておきますが、簡潔に述べるよう努力しましょう。
今までの再感染と思しき症例は人間で見られ、彼ら彼女らには当たり前ですがそれぞれ生活があり勿論人権もあります。行動を制限することも、ましてや再び新型コロナウィルスの感染を促したり、解剖して解析することなどできません。
ただ観察することが許されている人間での研究よりも、実際にウィルスの接触回数などをしっかり管理できる動物実験は、それだけ余計な要因が入り込む隙が小さくなるのです。
つまりより信用できる結果を出せるのです。
そして学術的価値が高いとされます。
その為、この猿を使った研究は良く引用されており、二〇二〇年九月六日日現在でも百十一以上の論文等に先行研究として使われています。
再感染が確認されなかったこの猿の研究の結果に内心胸をなでおろした研究者もいたことでしょう。なにせ実験の詳細な結果では[10]再感染の確率が低いという意見の心強い味方となります。
勿論再感染を否定する根拠は他にもありました。
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