一度あることは二度あることもある

 新型コロナウィルスに二度は感染しない、或いは感染したとしても二度目は他人に移すほど菌が増えないというのが集団免疫の大前提です。

 その前提が覆されるとしたら、それはつまり新型コロナウィルスの脅威が現在確認されているものよりも更に恐ろしいものだということになります。様々な面で対策が不十分であるとされるでしょう。


 それを確かめられる切り札となり得るもの、それが再感染者の有無なのです。


 なので新型コロナウィルスの再感染の有無は世界中の研究者達が最も知りたい事の一つでした。詳しい理由は何話後かの「なぜ再感染は注目されているのか」で取り上げるので、ひとまず置いておきましょう。


 再感染。


 つまり一度新型コロナウィルスに感染した人が完全回復した後に、改めてコロナにかかること。

 研究者の間では意見が揺れ動いていたようにも見受けられました。

 その揺れを実際皆様に体験していただこうかと思います。


 新型コロナウィルスが流行りだした当初は研究者の間でも集団免疫の効果を期待する声が多かったようです。何せ季節のインフルエンザのみならず、過去の事例からポリオ、天然痘、麻疹、風疹といった様々感染症で集団免疫は効果を発揮してきました[7]。

 そしてそれを否定する判断材料がない状況下、前例に倣うのが論理的です。


 しかしその考えに異を唱える人が出始めたのです。


 見つけた資料の中で最も古いものは、二〇二〇年二月二七日にとある学術雑誌の編集者への手紙として発表されたものでした[8]。


 「集団免疫と人口の割合」でも編集者への手紙を資料として使いましたが、このような手紙は編集長の目に留まりさえすれば発表されるので、専門家の査読を受けずに済みます。ですが審査された内容ではないので、追随する研究ではあまり引用されません。


 学術的に価値が低いのです。


 それでも訴えるべきことがある。


 つまり根拠はまだ集められるほどに至らないが他の研究者に知ってほしい事柄などが編集者への手紙として掲載されることがあります。

 俗にいうタイムリーなネタというやつです。


 こちらの手紙には武漢のとある病院で二〇二〇年一月一日から二月一五日の間に新型コロナウィルスにかかった四人の患者の事が記録されていました[8]。

 患者はいずれも三十から三十六歳と若い医療従事者であり、軽度から中程度の新型コロナウィルスと診断されました[8]。治療を受け、早い人では症状が見られてから十二日後、最も遅い人でも三十二日後に二日連続の陰性のPCR検査の結果が得られ退院となり、五日間自宅隔離をしていました[8]。


 しかし退院の五日から十三日後に再び四人にPCR検査を実施したところ、不可解な結果が出たのです。


 新型コロナウィルスの陽性反応[8]。

 それも四人全員。

 無症状であるにもかかわらず。


 何かの間違いだと思ったのでしょう。その後四、五日とかけて、各自三度のPCR検査が行われました。

 全部、陽性[8]。


 それでもおかしいと思ったのか、別の会社のPCR検査キットを使ってみるも、すべて陽性反応が返ってきたのです[8]。


 全ての始まりとなった武漢の病院ではきっとその当時、何百という患者が入院し、退院していったことでしょう。

 何百の中の、たったの四人の話です。


 されど、四人です。

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