攻防
バリケード前での両陣営の衝突は勢いを増し、じっちゃんの率いる秋葉原陣営は少しばかり後退を余儀なくされた。しかし、機動隊に負けず劣らず、秋葉原陣営の健闘で敷地の境界線は確かに守られていた。両陣営の群衆は波のように畝り、ラグビーのスクラムにも似た激しい盾と盾のぶつかり合いが続く。
その最中、機動隊の背後で待機していた放水車が前進を始めた。
「放水車です!」
機動隊の軍団に紛れながら、ヘルメットを被ったリポーターはカメラに向かって大声で状況を伝えた。機動隊員たちは、放水車と場所を入れ替わるように後ろへ後退し、頭をかがめた。
「今、機動隊が放水を開始しました!」
車輌の屋根に取り付けられた放水銃からバリケード前めがけて、高圧の水が放出された。リポーターとそれを撮影するカメラマンも、風で流れてくる霧状の雨を受けてずぶ濡れになった。それは、機動隊が秋葉原陣営に対して、最後の警告を伝えているかのようだった。
放水を受け、秋葉原陣営は頭から水を被った。最前列にいる人々は、盾の中に体を隠しながら踏ん張ってその場を凌ぐ。霧状の水があちこちに舞って地面が水浸しになる。バリケードの周りは、夕立の後のアスファルトみたいな匂いが漂った。
「怪我はないか!」
口々に皆が声を掛け合う。
放水が止むと、機動隊はまた前進を始めた。両陣営が睨み合うような形になる。その足音は、バリケードへとゆっくり近づいてくる。
「伏せろ!」
その場にいた誰かが叫んだ。次の瞬間、目を開けていられないほどの光と、耳を劈くような高い音が辺りを覆う。機動隊によって、閃光弾がバリケード前中央を狙って投げ込まれたのだった。人々のざわめきとともに状況は一変した。
「これ以上は危険だ! 撤退、撤退だ!」
バリケード後方にいるじっちゃんが声を張り上げた。音と光の衝撃を受けて、横一列に並んだ盾の壁の中央が大きく窪んだ。
その隙を逃さず、機動隊は、盾を持った秋葉原陣営を中央からかき分け、力強い足音を響かせながらバリケードへと突入していった。見物に来ていた人々のざわめきはさらに大きくなり、取材をしていたカメラマンたちは一斉にシャッターを切る。
「状況に動きがありました。たった今機動隊がバリケードを突破しました! 機動隊が筑波宇宙センターに入っていきます!」
慌ただしく移動していく機動隊を背に、リポーターはカメラに向かって興奮気味に伝えた。
「管制室は奥の運用管制棟だ!」
トランシーバー片手に南原が叫ぶ。
敷地内部へと走っていく機動隊を横目に見ながら、じっちゃんはその場にへたり込んだ。
「時間稼ぎにはなっただろう」
宇宙センターの正面ゲートは、嵐が過ぎ去った後のようになった。バリケードが破壊され、あちこちにトタンの残骸や金属の破片、それにガードフェンス、盾が散乱している。秋葉原陣営は皆、道の縁石に座りこんで肩を落としていた。疲労が顔に滲み出ていたが、一抹の清々しさもあった。辺りはすっかり静まり返って、ヒグラシの鳴声が響いている。西に沈む太陽が空を美しい橙色に染めていた。
南原と機動隊は、敷地の一番奥、筑波宇宙センターの運用管制棟へと足を踏み入れた。銃を構えた南原は機動隊を先導して、電気の消えた暗い建物内を進む。銃口の下に取り付けられたフラッシュライトが、通路の白い壁をスポットライトのように丸く照らした。
南原と機動隊長は、管制室のドア前まで来ると、横の壁に背中をつけて一呼吸おいた。南原は機動隊長に目で合図する。そして、拳銃を片手にドアを勢いよく引いた。
突入した南原は、体の前で拳銃を構えて辺りを見回す。管制室の電気は消えていて、そこには誰一人の姿もなかった。
物音もなく、もぬけの殻となった室内を見て、南原は激昂した。
「やられた!」
そして、苛立ちにまかせてコンソールを蹴り飛ばした。
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