キーワードランキング
Gooplex社の会議室では、重役たちや技術責任者が集められていた。広々とした空間に縦長の真っ白なテーブルが配置されている。廊下に面した一方の壁は全面がガラス張りになっていたが、ガラス内部の液晶フィルムが点灯し、一面が乳白色のスモークに変わっている。
「社名はGooplexだ!Goopleじゃない!!!」
ホログラムで表示された会議室正面のスクリーンを指差し、鬼の形相でアドマイナーは叫んでいた。スクリーンには『Gooplex Keyword Ranking』というタイトルの資料が表示されている。Gooplex社を指す関連語句を検索回数順に並べると、『Goople』が圧倒的な差で1位に輝いていた。
アドマイナーはスーツのポケットからスマートフォンを取り出すと、Gooplexの検索エンジンに『Gooplex』と入力した。検索エンジンは正直で、検索結果の最上部には『もしかして:Goople?』と提案される有様だった。
アドマイナーはスマートフォンを机の上に放り投げ、椅子に深く腰掛けた。顔を歪ませ、不快感をあらわにしている。
「そう言われましても、Goopleという愛称の方が定着しているので」
秘書が落ち着いた声色で答える。
「すぐできる対応策としては、ユーザーの画面に、あらかじめ用意した別の検索ワードランキングを表示するという方法があるかと。前例も多いですし」
技術責任者の1人が提案した。スクリーンには『Real』と『Fake』と題された2つの検索ワードランキングが表示された。
それを聞いたアドマイナーはさらに機嫌を損ねた。その意見が却下されたことはCEOの表情から誰もがすぐに分かった。提案した技術責任者はすみません、と小声で呟いて小さくなった。
会議室がしんと静まり返る中、今度はマーケティングの責任者が口を開いた。
「大した問題ではないと考える方法もあります。だいたいGoopleでもGooplexでも同……」
その発言は机を叩く音と大声によって、途中でかき消された。
「今すぐ大規模な広告を打て!キャッチコピーはこうだ!」
アドマイナーは、テーブル中央のペン立てからマジックを取り出すと、白いテーブルに直接殴り書きをした。
『I am Gooplex , Not Goople!!!』
その後、ニューヨークのタイムズスクエア、ロンドンのピカデリー・サーカス、上海タワー、渋谷のスクランブル交差点など世界各地の名所にGooplexの巨大広告が掲げられた。
巨大広告は、ペンで殴り書きされた白色のキャッチコピーをそのまま黒地の背景に重ねたシンプルなデザインをしていた。会議室のテーブルを撮影し、色を反転させた画像がそのまま採用されたため、広告の黒い背景には、微かにテーブルの質感が残っている。その広告は秋葉原にも設置され、総武線ガードのすぐ脇、中央通りに面したホノデンのネオンサイン下を占拠した。
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