2人の刑事

 停車した黒いセダンの車内で、2人の刑事が話している。一人はベテランで、もう一人は若かった。警視庁ハイテク犯罪対策課の南原と森田だ。2人の視線は斜め向かいのマンションに向けられていた。


「ICPOから依頼されて、もう2年ですか」

 運転席の森田が話す。


「足取りすら掴めないとはな」

 助手席の南原が言った。


「ヒューストンも、直近だとジュネーブも、どれも手口は似ているんですがね」


「来たぞ」

 南原はマンションの入り口を指差した。車のガラス越しに帰宅する女性の姿が見えた。




 南原がインターホンを押す。しばらくしてドアが開き、ウェーブのかかったブロンド髪の女性が顔を出した。年齢は20代後半から30代初めに見える。


「ケイト・ルーカスさんですね。警視庁の南原です。ちょっとよろしいですか?」

 南原は警察手帳を見せる。


「はい」

 困惑した様子で女性は頷いた。


 南原と森田は女性に案内され、ダイニングテーブルに座った。


「この人物をご存知ですね」

 森田はスマホを胸ポケットから取り出し、テーブルの真ん中に置いた。その画面には40代くらいの日本人男性の顔写真が表示されている。

 

「筑波が閉鎖されてからは、もう何年も」

 女性は首を横に振った。


「貴方は直属の部下でしたよね」

 南原はそう話すと、壁際の棚に飾られた写真に目を向けた。宇宙センターの管制室で撮影された記念写真だ。管制卓の前で、大勢の職員が肩を寄せ合って笑っている。写真の男と目の前にいる女性も写っていた。


「彼は姿を消しました。何も言わずに」

 女性は静かに言った。


 南原は前のめりになって話を続けた。

「彼には、不正アクセスの疑いがかかってる。あるデータセンターから情報を抜き取った」


 森田は、机の上に置かれたスマホを指でスワイプする。画像は建物の外観に切り替わった。


「ジョンソン宇宙センターですか」

 女性が呟いた。


 南原は、そうだ、と頷く。


 女性は続けた。

「でも、ISAの職員ですよ。宇宙センターのサーバーぐらい閲覧するんじゃないんですか」


 南原は答える。

「彼は元職員です。それに今、ジョンソン宇宙センターは民間企業の施設になっている。彼に権限はありません。詳しいことは言えませんが、不正な手段を使い、サーバーに侵入した。そこには、人々の安全に関わる重要な機密データが保存されていた」


「情報を悪用すればテロだって起こせるんです。居場所に心当たりはありませんか?」

 森田は感情に訴えかけるように言った。しかし、女性は知らないの一点張りだった。

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