カプセル
「今宇宙から来ましたって感じだな」
レンは戸惑いながら言った。
「完全に再突入カプセルだよね」
コースケが言った。
3人がトラックを降りると、そこには地面に張り付いた大きなパラシュートと丸みのある円錐台の形をした再突入カプセルが横たわっていた。その下部は黒く焦げていて、樹脂の焼けたような匂いを発している。大きさは腰の高さより上ぐらいで、人が乗れるような大きさではなかった。どこかの星か小惑星で採取した物質が入っているのだろうか、とコースケは不思議に思った。突然、空から降って来たカプセルを前に、3人はまだ状況が飲み込めないでいる。
涼しい風が吹き始め、空は濃い紫色に変化していった。遠くにポツポツと街の光が灯り始める。発射場周辺は灯りがないため、陽が落ちるとみるみるうちに闇に包まれていく。
レンがトラックの屋根に備え付けてある投光器の電源を入れた。トラックは、研究室の先代が使っていたもので、年季が入ったボロい見た目をしていたが、投光器やクレーンが搭載され、ロケットの打ち上げ用にあちこち改造が施されている。投光器は強い光を放って、カプセルを明るく照らした。
「と、とりあえず、録画はしとく」
エリは気を利かせて、持ってきたビデオカメラで撮影を始めた。ぐるりとカプセルの周りを一周して全体を記録する。
「でも、一体どこから?なんで今?」
コースケは疑問に思った。
「昔の探査機が帰ってきたとか?」
レンが言った。
「確かに。帰還プログラムがセットされてれば、あり得る」
コースケは答えた。
「最後の探査機は?」
ビデオカメラのファインダーを覗きながら、エリが言った。
「少なくとも15年以上前、これはもっと古いかもしれない」
コースケは考えを巡らす。少なくとも、もう15年近くサンプルリターンをする探査機は打ち上げられていない。ということは、それより前の探査機が、大昔にセットされたプログラムで地球に戻ってきたのかもしれない。
エリは、カプセルの側まで行って腰を落とした。
「まあ、戻ってきたところで忘れ去られてるだろうけど……」
持っていたビデオカメラを地面に下ろし、お疲れ様と労うように、カプセルにそっと手を添える。ISAが解体されたことで、すでに宇宙を飛ぶ探査機の運用も停止になっている。地球に無事帰還したとしても、祝福されることはない。回収班が来るはずもなく、カプセルの周りに3人以外の人影はなかった。
「これ、どうしよっか〜」
レンがコースケの顔を見て言う。エリもコースケの方を見ている。
僕が決めるの?、宇宙からカプセルが降ってきたときの対処法なんて知らないし、教わったこともない、あるわけがない、とコースケは戸惑った。ダンボールに入った捨て猫を見つけたときとはわけが違っていた。
「……持って帰る?研究室に」
暫しの沈黙の後で、コースケは頭に浮かんだ言葉を言った。そろそろもう研究室へ戻らないと、という時間だ。しかし、だからといってこのままカプセルを放置するのは、なんだか勿体無いと思った。
それを聞いたレンとエリは、いいんじゃない?、と納得の表情をした。コースケがそう言うのを待っていたかのようだった。他にいいアイデアが出てくるわけでもなく、自動的にその案が採用された。
3人は、トラックに搭載された小型のクレーンでカプセルを釣り上げ、荷台に乗せた。その他に、ロケットの発射台兼台車。発電機やレーダーなどの各種機材も持ち帰る必要があったため、真っ暗闇の中、大学と射場を往復することになった。
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