性別なんて関係ない

 ある日。家に帰ると、お父さんとお母さんが深刻そうな顔でリビングにいた。

「·····ただいま。お父さんお母さんどうしたの?」

「·····夏糸。話があるから向かいの席に座りなさい」

 荷物をおろし、お父さんとお母さんの向かい側に座る。

「単刀直入に聞くが、お前は·····ゲイ、なのか?」

「·····ねえ、夏糸。嘘よね?ねえ、嘘って言ってちょうだい」

 カミングアウトしようか考えてなかったから、まさかこんな形でカミングアウトすることになるとは。

 ··········お父さんとお母さんの表情や言い方からすると、ボクがゲイであることは嬉しくないこと·····なのだと思う。

「··········なんで?ゲイでいちゃダメなの?·····ただ、ボクは同性を好きになっただけなのに、それの何がいけないの?なんで?彼氏が出来たのに、それは祝福されるべきことなのに、なんで誰も祝福してくれないの?」

「【ガチャ】たっだいまー!」

 タイミングが良いのか悪いのか、就活生のお姉ちゃんが帰ってきた。

「え、なになに。父さんたちどうしたの?·····え、ねえ夏糸。母さんたちどうしたの?」

「·····秋香しゅうか。お前も席につきなさい」

 お父さんがそう言うと、お姉ちゃんは、ボクの隣の席へついた。

「·····で、何?みんな深刻そうな顔して」

「秋香。夏糸はな、ゲイかもしれないんだ。」

 そう聞いた途端、お姉ちゃんは爆笑した。

「··········何を言うかと思ったら·····ゲイ、なんて·····ああ、おかしすぎて涙が出る!·····夏糸、アンタはこんな父さんたちのこと気にしないで好きな人と幸せになんなさい」

「え、でも·····秋香。あなたも今、おかしいって笑ってたじゃない。」

 お母さんは、明らかに動揺しながらお姉ちゃんに訴えかけた。

「私が、おかしくて笑ったのは。父さん。母さん。あなた達よ。今さらねえ、男が女を好きになるとか、女は男を好きになるとか古臭いの!今ドキはね、社会や保健、家庭科とか授業の一環で学ぶものよ。そうやって!十代の内から理解を深め、知識を得ようと学校はしてるの!·····何なのよ。息子が誰を好きになろうが勝手じゃない。どうして、アンタ達は息子の幸せを願えないの?喜べないの?」

 こんなに、お姉ちゃんがボクを思ってお父さんたちに訴えてくれるとは思ってなかったので、驚きと嬉しさで目が点になる。

「·····お姉ちゃん。いいよ、そんな言わなくても。ボクがじゃないからいけないんだよ」

「·····私、就職先、アンタ達のおかげで今、決まったわ」

 と言うと、お姉ちゃんは、ある一冊のパンフレットをテーブルに突きつけた。

「「「JobRainbowジョブ レインボウ?」」」

 ボクらは、口を揃えて冊子のタイトルを読み上げた。

「そう。LGBTフレンドリーな企業とかを紹介する運営会社のこと。私、言ってなかったけど、バイだから。前からこの企業に興味はあったけど、目の前にこんな頭でっかち見たら、ここに就いてやろうって思った」

「バイってなんなの?」

 お母さんが、おそるおそる聞いた。

「男性も女性も愛せる人のことよ。実際、半年前まで私、彼女いたし」

「·····秋香。お前のせいで夏糸もこうなったんじゃないのか」

 お父さんは、少し怒っているように見えた。

「は?私が悪影響だったって言うの?それは違うわ!私も、夏糸も、ただ人を好きになっただけよ。そこに性別なんて関係ないじゃない!どうしてそんなに性別を重視するのよ。」

 まさか、こんなに家族内で対立するとは思ってなかった。

 ·····それに、お姉ちゃんがバイセクシャルだとは知らなかったな。


 それからと言うもの、両親との間には壁を感じ、居心地が悪くなってしまった。

 お姉ちゃんとは、以前よりも話す機会が増えていた。

「で?今は、付き合ってる人いるの?」

「·····うん。」

「え、どんな人なの!出会いは!どっちから告白したの!え、もう今度、彼氏連れてきなさいよ!写真ないの?」

 と言った質問攻めを受けることも、しばしば。


 今は、お姉ちゃんがいるから心強い。

 ボクは、ひとりじゃないんだと思わせてくれるから。

 あの時、自分のセクシャリティーをあんな形になっちゃったけど·····きっと予定ないカミングアウトだっただろうけど、あの時、言ってくれてありがとう。お姉ちゃん。

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