八月生まれのあなたは
今日は、待ちに待った、慧桜さんと水族館に行く日!!
日付がまたぐまでずっと着ていく服を頭フル回転して考えたせいで、なかなか眠れなかった。
少し時間に余裕があったので、テレビでやっている占いを見ることにした。
「八月生まれのあなたは、今日は絶好調!何をしても上手くいくので、何かしたいことがあれば今日のうちにやろう!ラッキーアイテムはシルバーの指輪だよ!」
天気に恵まれ、占いにも恵まれ、本当に今日は良いことがありそう!!
早速、部屋に戻りお気に入りの指輪をはめてみた。
んー、位置はどこが良いだろうと考える。
占いで、言われたからには位置も良い位置につけたいな。
スマホで【指輪 位置】と調べると、左手薬指が一番良かった。
【愛や絆を深める】と書かれている。
慧桜さんともっと仲良くなれたらなという願いを込め、左手薬指にはめなおした。
【ピンポーン】
あ!慧桜さん来たかな?全身鏡で最終確認。·····よし。大丈夫!
「【ガチャ】慧桜さん!!」
「おはよう。」
「おはようございます!本日は、よろしくお願いします!!」
「おう。夏糸は、朝から元気だなあ·····そろそろ電車来そうだし行くか」
「はい!·····あ、荷物とってきます!三十秒待ってください!」
「了解」
電車に乗ると、慧桜さんの左側に座った。
こんな近いこと、なかなかないから新鮮だなあ。
「なあ、そう言えば何で夏糸はクラゲが一番好きなんだ?」
「変だと思うんですけど、海月の生命の終わり方が好きなんです。生きてる時も、もちろん好きなんですけど、死に方がすごく素敵だなあって。海月ってゼラチン質で、九六パーセント前後が水分で出来てるんです。その体質上、海月は、死骸が残らないんです。水に溶けて死んでしまうその姿が、自然へと
「·····何か、想像の斜め上の答えが返ってきたから驚いた·····でも、確かにいいな。クラゲってそんな終わり方をするんだな。」
「何か、暗くなってすみません·····あ、慧桜さんは水族館にいる中だったら何が好きですか?」
「んー、俺はベルーガ、かな。」
「ベルーガ·····?」
「白イルカの別名だったかな、確か。」
「白イルカより、ベルーガの方が響き良いですね!慧桜さんはベルーガのどこが好きなんですか?」
「小学生の頃、サマーキャンプでベルーガの触れ合い体験ができたんだ。その時の感触が忘れられなかった。しかも、触る距離だから、かなりベルーガの顔が近くて。めちゃくちゃ可愛かったなあ」
「ええ!良いなあ!ボクもベルーガ触ってみたいなあ·····」
「なかなか触れる機会ないからなあ。言葉じゃ表せない独特の感触だった。ぷよぷよっつーか、ぷにぷにっつーか、たぷたぷっつーか·····」
「ええ、なおさら気になる!!」
「いつか触れると良いな」
「そうですね!」
そんなこんなで、水族館の最寄り駅に到着した。
水族館に着くと、真っ先に
「わー!やっぱり海月はキレイだなあ!!」
「そうだな。こんなしっかりとクラゲ見たの初めてかも。」
「ボクもです!いつも小さい水槽に入ってる海月がこんな大きな水槽に·····海月展となると、やっぱり大々的にやりますね!」
「ああ。ずっと見てると、俺もクラゲ好きになりそう」
「海月の沼、ハマりましょ!ボクと!!」
「お、おお·····今日のおみやげはクラゲもの決定だな」
「やった!!海月好きが増えた!」
慧桜さんが、気が済むまでクラゲを見ていようと言ってくれたので、結局三十分も海月を見ていた。
「すいません、こんなずっと海月ばっかり見てて」
「いや、俺は全然構わない·····夏糸は本当にクラゲが大好きなんだな。すごく伝わってきたよ」
「それは良かったです!·····あ、今度はベルーガのいる水族館行きませんか?ボク、ベルーガしっかり見てみたいです!!」
「おう。一番良いとこ連れてく」
「やった!!楽しみです!·····次は、どこ行きますか?」
「んー、そうだなあ··········少し早いけど昼飯するか?」
「そうですね!次の場所でどれぐらい時間とるか分かりませんもんね!」
館内にあるカフェテリアへ着くと、席はまばらな状態だった。二人席を見つけたので、向かい合わせの形で一度、席に着く。
「夏糸、何にする?·····俺は、ミートスパかなあ」
「んー·····ボクは、オムライスにします!」
「了解。注文してくるわ」
「え、ボク行きますよ!」
「今日は、夏糸の昇格祝いで来てんだから、もてなされとけ」
「あ、ありがとう、ございます··········」
「ん。それで良い。」
と颯爽とレジへ行ってしまった。
··········なんてカッコイイんだ。慧桜さんは。今さら火照っている顔をおしぼりで冷却する。
·····四の札を持って慧桜さんが帰ってきた。
「··········ん?どうした。顔が赤いぞ。暑いか?」
「あ··········さっきまで見てた海月の余韻でまだ興奮してるだけ·····です」
なんて説得力の無い言い訳なんだ。
自覚はありながらも、とっさに、そう出た。
「··········そうか。熱がないなら良いんだけど」
「あ、それは全然大丈夫です!ピンピンなんで!!」
「なら、良かった」
そうこうしている内に、料理が運ばれてきた。
「わー!美味しそう!!いただきます!!」
「おう。いただきます」
ふたりで、しっかりと手を合わせ、いただきますをして食べる。
「このオムライス、卵の部分がすっごい!!ボクもこんなオムライス作れるようになりたいなあ·····」
「·····ん、これミートソースに赤ワイン入ってコクがあるな。うま。」
「あ、慧桜さん!ミートソース、口についてますよ!」
「ん、とって」
「え·····あ、失礼、します」
右手はスプーンを持っているため、左手でそっと慧桜さんの口に触れる。
··········あ。ふにって柔らかい。
ふいに、慧桜さんがボクの左手を掴んだ。
「··········夏糸、お前その指輪·····」
急に慧桜さんがフリーズしてしまった。
「え、っと·····指輪がどうかしました?」
「俺にとっちゃ大アリだ··········誰か、付き合ってる奴がいんのか?」
「·····え?ボク、いない歴イコール年齢ですよ??」
「·····ペアリングじゃないのか?これ」
「はい、今日の占いでシルバーの指輪が良いって言うから·····」
「でも、位置の指定はされてないだろう?どうしてよりにもよって左手薬指なんだ」
「え、それは位置によって意味が·····あ。」
ここまで言ってしまったら、絶対にどんな意味だ?って聞いてくるに決まってる。
もう、穴があったら入りたい。
「で、どんな意味があるんだ?左手薬指には」
ほら。やっぱり。
「それは·····内緒です。」
「ふーん。なら、俺が自分で調べるまでだけど良いのか?自分の口で言った方が良いんじゃねーか?」
なんてずるいんだ。この人は。そう言われたら言うしかないじゃないか。
「··········なりたいと思って」
「ん?もっかい言ってみ」
「だから!!もっと慧桜さんと仲良くなりたかったからです!!左手薬指には、愛や絆を深める意味があるから、もっと慧桜さんと··········」
これ以上丸められないんじゃないかってほど、目をまん丸にしてボクを見つめる慧桜さん。
「··········それ、本当か?」
「ここまできたら、もう嘘なんかつけませんよ·····」
「夏糸?愛や絆を深めるって意味なら、もっと仲良くはなれねえな。仲を深めるって意味はその位置にねえからさ。」
「·····あ、確かに。」
「あの·····さ?夏糸。やっと自分の気持ちがちゃんと分かったよ。今、夏糸の左手薬指に指輪をはめられてるのを見た時、すっげえ嫌だった。顔も知らないその指輪の相手に嫉妬までした·····でも、それがペアリングじゃないって知った時、めちゃくちゃホッとしたし、もう誰のものにもなって欲しくないと思った·····だから」
「·····ちょ、っと·····待って、ください·····頭が、追いついてない·····」
「よし。なら、長ったらしくなったから、もう簡潔に言うわ。俺は夏糸が好きだ。めちゃくちゃ猫背なところ、すごく人想いなところ、笑顔をよく見せるところ、実はイタズラが大好きなところ、少しなで肩なところ、誰とでも親しくなれるところ、実は漢字に弱いところ、どんなことにも積極的なところ·····全部全部大好きだ。これからは、一番近いところでお前の成長を見ていきたい。俺と、付き合ってくれるか?」
唐突に言われて、驚きと嬉しさのあまり顔が歪んでいるだろうな。
·····だとしても、しっかりボクの気持ちも伝えなきゃ。
「·····ボク、も、慧桜さんのこと大好きです。前にピアノ弾いてるところ見せてくれて、バイトリーダーっていう大役を任せられて、実は家庭的なところがあって、車の運転ができて、バイト先にあるホワイトボードに描かれた絵は愛嬌が滲み出てて、ものを大切にしすぎで、たまにしてるメガネ姿が似合ってて、サングラスは似合いすぎなところとか、全部全部大好きです··········でも、ボク、慧桜さんは好きになっちゃいけない人だと思ってました。男からそういう目で見られたら迷惑だろうなって。 でも、抑えようとすればするほど、慧桜さんのことが大好きになってました·····あの、お返事なんですけど、ボクで良ければよろしくお願いします」
「ありがとう。こちらこそ、よろしくな」
「はい!!·····何か、夢みたいです」
「何か、ごめんな·····場所選ばなくて。カフェテリアでとか俺も想定外なんだけどさ」
「いや、全然大丈夫ですよ!むしろ、ここが思い出の場所になりますし!」
「さ、早く飯食い終わらせて、次の場所行こう。行きたい場所、見つかった」
「はい!早く食べます!」
少しドカ食い状態になってしまっていると
「かいとも口にケチャップついてんぞ」
「え、本当ですか!?·····とって、くれますか?」
「ん、ほら。ここ」
と、親指の腹でケチャップをとりペロッと慧桜さんは舐めてしまった。
そんな姿にドキッとしていると
「ああ、こんな近い距離ちょ、やべえな。ちゅうしてえ」
って俯きがちに言うから
「慧桜さん!そのまま下向いてて」
「ん?おう」
慧桜さんの服のフードを頭にかぶせ、ボクも自分の服のフードをかぶる。
「はい!良いですよ!顔上げてください!」
慧桜さんが顔を上げたのと同時に、すかさず慧桜さんの後頭部に手を回しキスをした。
「··········な、おま·····それは、反則だろう。俺が先にちゅうしたかったのに」
「でも、この案はボクが考えたんで!·····フードあれば人目も気にせずできるかな、って」
「これからデートはフード付きの服じゃないといけなくなったな」
何とかご飯を食べ終え、次の場所へ向かう。
行きたい場所が見つかったと慧桜さんは言ってたけど、一体どこだろう?
期待に胸を膨らませながら、後ろをついていった。
「ん。」
と、ふいに手を繋がれ、慧桜さんのポケットに入る。
まさか、夢にまで見たこの光景に喜びが隠せない。
さっきまでは、昇格祝いのお出かけだったのが、今からは水族館デートに変わることに幸せを感じずにはいられなかった。
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