第74話 行商実習の旅 その3
「われら一族、王に忠誠を誓わせていただきますギャ」
おれの目の前で跪く、100人超のゴブ!
おれは『ゴブロード』となった!
冗談を言ってる場合ではないのだ。
本当にこいつら全員、おれにコッペパン1個で篭絡されてしまったのである。
ちょろいというかなんというか……
「先生って、ゴブリンたちの王様だったのか…… それはすげえけど……おれはなりたくはねえな」
「う、うらやましくはないですね……」
「先生、早く実習に出ようぜ? ゴブに構ってると時間なくなるぜ」
お前ら…… ちょっとひどくねえか? 少しはおれを尊敬……
「飯は確かに美味かった。あれならうなずける! ゴブ王!」
「でさあ……どうすんのさ、先生」
ま、まあ……連れていくわけにはいかんな……
「王よ…… 一つお願いを聞いていただきたいギャ」
そのギャってのなんとかならんのか…… ゴブリーダーよ
「おお!我をリーダーと認めてくださったぞ! 我が王よ! 感謝いたしますギャ」
薄っすらとい輝きを増し、見た目にもちょっと人間に近くなったゴブリーダー……
あ、いや、こいつだけではない。他の100人もどこか知性を感じられるようになったのはおれだけではあるまい。
「先生…… なんだか普通のゴブより賢そうじゃねえか? こいつら」
さっきまでガクブルだったのに、『こいつら』呼ばわりとは、出世したもんだな、生徒Aよ!
「一応は聞いてやる。話せ」
「ありがたき幸せにございますギャ」
「何か問題でもあるのか?」
「実は……ですギャ」
要約すると……
・この近くの洞窟に仲間がもう100人いる。
・ほとんどはメス、子供ばかりで、ほぼ全員が原因不明の病のため動けない
・ここにいる100人は彼らのために餌を探していて昨夜ここを急襲したとのこと
・このままでは部族が全滅しかねない。助けて欲しい。
・待機組100人は責任を持って説得するので安全は保障する
とまあ、こんなところだ。
う~ん…… 商売になるかどうかは微妙だが、これを機にゴブリン全部をおれの配下にして街でも作らせるのも面白いかもしれない。
「わかった。おれになんとかできるかどうかはわからんが、その病人とやらを見せてくれ」
「おお! これで一族は救われたも同然ですギャ」
「おい、おまえらも行くぞ! ゴブ相手に商売できるかどうかわからんが、これも実習だと思え」
「す、すげえな! 商魂たくましいとはこういうことを言うんだな」
「ゴブ相手に一歩も引かずに商売かあ、いい勉強になるかも」
「さすがだ、先生」
生徒10人、ゴブ100人……なんでこうも男ばかりが集まってきたのか……
ゴブのメス? そんなの期待する方がおかしいだろ……
ゴブ達の巣は、すぐ近くだった。
「お前らは洞窟の外で一旦待っててもいいぞ。馬車の中なら安全だしな。病気が移らんとも限らん」
「お、おれたちも行きます!」
「な、何事も経験です。これで死んでもその程度だったということ」
「大商人を目指すには、この程度の困難を恐れていては……」
縛り上げたゴブにもビビってたやつのセリフじゃないんだが…… まあいいか。
最悪でもおれがなんとでもしてやれるだろう。
ゴブリーダーと数人のゴブ、そしておれ、生徒10人で洞窟奥深くで横たわる100人の病人たちを観察することになった。
「こ、これは……」
軽傷の場合は、皮膚に異常が発生しており、重傷者は既に『脱毛』『顔面変形』などの症状が出ている。
単純な皮膚病とも考えられるが、おれの知る限りで思い浮かぶのは『ハンセン病』
いわゆる『らい病』という奴である。
「先生! この病気のこと知ってるのか?」
「ああ、多分な」
接触感染はほぼないとされている病気ではあるが、種族がゴブならば『免疫力』等の違いで感染しやすいと考えられなくもない。
感染が広がらないようにし、一人一人を治療できればこの部族は助けられるだろう。
「おい、ゴブリーダー。助けられるかもしれない。だが、その対価として何を提供する? このおれに……」
「た、対価でごさいますかギャ」
「そうだ! 人族でも病気を医者に治してもらえば対価を支払うは当然。おれはお前らの王になったとはいえ『ただ働き』などしない。なんせおれは商人だからな!」
「か、かっちょええ! 先生! ゴブ相手の商人としての駆け引き! さすがだわ」
「見習わねば! あの強欲さを!」
「ゴブから何を巻き上げるか……見ものだね」
さあさあ、商売の時間でございやすよ!
**注
作者は『ハンセン病』については詳しく知りません。あしからず。
ウィキで知る程度の知識は有です。
ここでは当病気の知識に関してはあまり必要ないのでスルーしてくださいませ。
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