第72話 行商実習の旅 その1
「ところで……確認しておくが、お前ら『計算』はできるよな?」
授業を担当してから数日後、なんでこんなことを生徒を前にして今更聞いているかと言うと……
こいつら全員あまりにも頭の出来が悪すぎたせいである。
だいたい商人になろうというのだ計算なでできて当たり前だと思っていたのは、おれだけの常識だったらしい。
「ええっと……学校で習えって母ちゃんに言われました」
「おおよ! 一ケタの足し算引き算までなら。ああ手と足の指の数までならだいじょうブイ!」
「掛け算? そんな高等算術……できるわけがない」
「ワリザン? それっておいしいの? アンザン? 暗黒魔法のたぐいっすか? いや、出産とかの話かな? うん、それなら聞いたことあるかも」
あ、頭がいてえ…… そこからかよ……
その後の2週間ほどを費やして、基礎体力の向上、九九、2桁までの足し算引き算掛け算割り算の手計算方法なんかを徹底的に教え込んだ。
「おお! おれにも計算できたった!」
「おれ、感動した! これで世界征服できるかも」
「おれは…… これで大商人への道が開けた! 気がする……」
「た、足し算ならだれにも負ける気がしないぜ! 先生!」
出来の悪い弟子程可愛いものかもな……
それにしても可愛い女子高生はどこ行った!
おれの青春をどこやった、クソ女王様よお!
体力もついた、計算もそこそこできるようになった、商人としての基礎知識もまあ初級程度なら……
おれはもうおうちに帰りたいのだ。
帰ってしばらく嫁たち、いや婚約者たちとイチャイチャしたいのである。
それもできないならば、せめて好きな行商の旅を満喫したい。
なんで他国でこんな生活を送らねばならないのか……
ん? 行商?
ピコ~ン! そうだ! 実習だ! こいつら全員引き連れて実習に出ればいいのだ。
名付けて『行商実習の旅』
くくくっ! こいつら全員こき使ってやろう!
ならばさっそく学園長に直談判だな。
「実習の旅? うむ、構わぬぞ? ただし学園祭までには戻ってきてくれ」
学園祭? そんなもんあるのか?
「1か月後に開催されるでな。1週間の準備期間を考えて3週間の旅じゃ。これでどうじゃ?」
はあ? 3週間も男子学生10人と生活を共にせえと?
あほか! せいぜい2泊3日程度の予定だぜ?
「なに、親御さんたちにはわらわから説明しておこう。存分に教育してくるのじゃぞ。遠慮はいらん」
まあいいか…… 女っ気は現地調達すっか。
というわけで、ぶらりと期間未定の実習の旅が決定したのだった。
「先生! 実習の旅かあ! いいね! おれ旅なんてあこがれだったんだ」
「行商実習! 楽しみです!」
「学園の女どもには飽き飽きしてたんだ! いい女紹介してくれ、先生!」
「え、エロ本……持ってってもいいかな……」
「あほ! そんなもんより現物(女)を現地調達(ナンパ)するに決まってるだろ!」
せいぜい夢をみているがいい。
おれが徹底的に商売、いや働くことの厳しさというものをとことん教え込んじゃる!
行くと決まったら即出発!すぐ出発! である。
もちろん旅の安全はキャンピングカーもどき馬車で確保する。
「これ、すげえな! 先生の持ち物か!」
「欲しい! いやここに住みたい! おれの部屋より断然便利だし!」
「商売でがんばればこのような馬車も買えるのか?先生」
どうだ! 見たか!我がキャンピングカー!
「ああ、将来おまえらが儲けたら売ってやらんでもないぞ?」
「ほ、ほんとか先生!」
目ん玉飛び出るほど高額だがな、ははは!
さあ! 一刻も早く行商の旅! 商売!商売……
「なあ、先生…… 」
「言うな……」
「こんな寂れた山奥で商売になるのか、先生……」
「人もいなければ、灯りの一つも見えませんが……」
「これって俗にいう『山道で迷った』ってやつか?先生」
「……そうとも言う」
行商実習の旅は、初日から躓いたのだった。
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