よろずや 教壇に立つ! 編

第71話 魔国学院 最底辺クラス担任になる!

「走れ!走れ~! お前ら~! 商人と言えどもこの世界で体力なし、戦闘力無しで生きていけるなどと思うなよ~!」



 魔法学園…… 女子高と聞いてたのに、今おれはなぜか10人の男子学生を相手に熱血指導中である。


 騙された感が半端ない。


「おい! ヴィオレッタ! 女子高じゃなかったのか、ここは!」


「ああ、済まぬ……今年から新科が増設されたんじゃが、どうせなら男女共学にと変わったんじゃったわ。許せ!」


 許せじゃねえよ! おれの夢を返せ!


 魔国の魔法学園…… 魔法科、騎士科、生産科、そして新設された『商業科』の4つの科で構成されている。


 おれは元々商人ということもあって、商業科教員へと配属になったのだが、この学園で唯一男子だけの科が、このクラスである。



 商業科は新設されたものの、それほど人気があるはずもなく、1年生1クラス10人のみ。


「せ、先生……はぁはぁ…… なんで商人が身体鍛えなきゃならんのですかあ……」


 元にいた世界ならば、さほど危険のない商人ではあるが、この世界には魔物、獣、賊の類に事欠かないのだ。

 自分の身を守れる程度の事が出来なければ、あっさり死ぬ可能性が高い。


 こいつらは、騎士や魔法使いのように前線にでて戦うのが嫌で、商人志望となった連中である。

 商人でさえあれば、危険性は薄いなどと思ってるやつらばかりなのだ。そのことをしっかりこいつらの心の中に刻み込む必要があるとおれは判断した。


「行商にでて、魔物に襲われたらどうすんだ? 」


「ご、護衛を雇えばいいんじゃないですか?」


「護衛がやられたら? その護衛に裏切られたら? 逃げる体力も最低限の戦闘力もなければ黙って食われるか? この世界は甘くはないぞ? 商人なんて金だけは持っているだろうから真っ先に狙われる。おまけにお前らは男だ。さっさと殺されるか、いいとこ奴隷落ちだな。女なら他にも使い道はあるがな」


「そ、そんな…… 確かにそうですけど……」


「生きて商人を続けたきゃ、今は黙って走れ!」


「は、はい……」


「おい! 今日は全員時間内に走り切れたらおれがとっておきを出してやるぞ?」


「せ、先生……それって……」


「おうよ! エ・ロ・ホ・ン!」


 だらだら走っていた若干15歳、突然10人の目の色が変わる。


「み、みんな! ぜってえ、みんなで走り切るぞ! エ、エロ本だ~~!」


「「「うおおおお!!!」」」


 この世界には『エロ本』などない。そもそも写真という技術がないし製本技術も未熟なので本自体が高級品なのだ。


 なので、授業中に自習させている間におれが読んでいた『エロ本』に少年たちが食いついたことは言うまでもない。

 だいたい自習させておいて、その間に『エロ本』読んでる教師ってどんだけダメ教師かって話だが……


 同年代の少女たちの『水着姿』『下着姿』『無修正ヌード』等の写真を見せられた彼らの衝撃はいかほどだったろうか……


 おれの担当するクラスが全員男であったことも幸いした。これで一人でも女生徒がいれば、この手は全く使えなかっただろう。

 まあ、その時はその時で別の手もあったけどね。


 飴と鞭…… 教育には欠かせませんて!


 という訳で、学園では最底辺扱いされている『商業科』ではあるが、将来このクラスの10人が、おれと大規模な商売を営むことになるのは、また別のお話。


「よ~し! 全員走り終えたら昼飯だ。午後は座学だ。遅れるなよ!」


「い、急げ! 時間がないぞ! 一人でも間に合わなかったら『エロ本』がもらえない……」


「は、はひ~~~…… お、おれ!頑張る~」


 せいぜい、がんばれよ! とってもエロい青少年諸君!


*****


「というわけで、午後は座学だ。午前中はよく頑張ったな! 午後の授業が終わったら委員長、代表でおれの研究室にこい。おれら以外のクラスの生徒や教員には絶対に見つかるなよ? まかり間違って取り上げられてもおれは知らんぞ?」


「は、はい! ゴチです!先生!」


「では、今日は『商人』になるために絶対に必要な事……からだな」


「きょ、教科書は必要ないでありますか? キンタ先生」


「ああ、おれの授業では使わない。そこに書いてあることは時間のある時にでも読んでおけ。そこには書いてないことを教えていくつもりだからな」


「了解です」


「さて…… 商人になるための必須条件とはなんぞや? 委員長」


「は、はい! お金と店?と人? ですかね」


「まあ、当たらずも遠からずだな。もちろん店舗を構えていくには必要なことだ。人も金もなけりゃあ商売なんかやれるはずはない」


「他にもあるんですか?」


「お前ら商人になって何を売るつもりだ?」


「えっと……魔道具とか食料とか日用品……」


「家とか家具、国によっては奴隷ってのもあり?」


「売るのもいいがどこから仕入れるんだ?」


「ああ、そうか…… 商売やるには『仕入先』は絶対必要ですね」


「そうだ。で、売るのは店舗だけなら、まあそれでもいい。だが、大きく商売しようと思ったら販売ルートは必ず持たないといけない」


「仕入れ先と販売ルートですか、なるほど」


「だが……最も必要な事! 商人だけではない。冒険者なんかにも重要なことは『情報』だ」


「情報……ですか?」


「お前ら、例えばAという食い物を売る際、市場での販売価格を知らないで、いくらで仕入れていくらで売るかをどうやって決めるんだ?」


「それって定価が決まってるんじゃ……」


「もちろん常に定価販売している物もあるが、変動するものもあるだろう? 特に麦なんかは豊作不作によって値段なんて大きく変わるぞ?」


 まだ少年とも言える15歳など、この世界でもただのひよっこであり、商人としての知識など無いに等しい。


 おれはこういったおれの中では常識的なことを少しづつ教えていくことにしたのだ。


*****


「では、今日の授業はここまで! 委員長、後で来い! とびっきりの奴渡してやる!」


「「「おおおお!!!」」」


「さすがは、キンタ先生……ぐへへ…… 」


 お前ら……いいけど、そうやって溜まった『あれ』をどうやって処理すんのかねえ……くくくっ!




「じゃあ、また明日な!」


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