第40話 アルバイター採用しました! 冒険者ギルドからも商談キタ~!

 帝都での商売を始めて1週間……

 魔道具『美味しいんです』君は、『美味しいんです・改』を発売中である。


 値段は15ドール。

 性能的には使用回数が20回に伸びた。と言うよりも20回分の使用が可能な魔石交換すれば、本体の持ち出しは不要な仕様に変更したのだ。

 魔石? この世界にそんなにないでしょう?って?


 いやいや、おれが準備したのはただの『ビー玉』ですよ。


 このビー玉、やたら効率がいいのである。魔力をぐんぐん吸い取ってくれるのさ。

 どうやら魔石というのは素材もそうだが、形状と大きさにより性能がはるかにアップするらしい。


 だから真球体に近いビー玉は、おあつらえ向きだったわけだ。

 このビー玉だけでも商売が出来そうなのだ。


 そうそう、アルバイトは二人採用した。


 一人はおっとりした牛人族のアリアさん。若干18歳の豊満ボディの持ち主である。さすがは牛さんである。


 もう一人は『バンパイア族』のマリアさん。


 こちらは残念な洗濯板さんではあるが、妖艶なその姿は目を見張るものがある。年齢は不詳…… 女性に年齢はタブーなのさ。


「わたしの給与は、キンタ様の魔力でいただきたいですわ」


 なんでもおれの魔力は超美味いのだとか……バンパイアって血を吸うんじゃなかったけか。


「どこの世界の話ですか? バンパイア族が魔力を糧に生きてるって子供でも知ってますよ?」


 常識知らずはおれの方だったっす……orz



 宿の主、エリーさんとは新たに契約。業者用に倉庫に設置型の『美味しいんです』君を開発。

 いわゆる室内設置型の常時起動タイプである。

 魔力が尽きるまで、倉庫内の食材すべての味を劇的に向上させてくれるばかりか、腐敗すら大幅に遅らせることができる高性能魔道具なのだ。魔力の補充はもちろん魔石(ビー玉)で行う。


 これについては、量販することは今のところ考えていない。

 エリーさんの宿のアドバンテージとして、しばらく売り上げの推移を見守ることにしたのだ。


 そして『アンの店』では商品を増やした。


 第2弾は『たこ焼き』


 これも売れ行き順調である。


 甘い系と熱々しょっぱい系の2段構えである。


 そのうち焼きそばやお好み焼きなどもラインナップする予定だ。


「キンタさん! 冒険者ギルドの副ギルマスさんがお見えですよ?」


「え? 冒険者ギルド? おれに何の用かな」


「本人に聞いてくださいね。宿の1階の食堂で待ってるそうです」

 

 宿の店員の一人が教えてくれる。


「おうよ!……」



 食堂では一人の男性がテーブルの席でおれを待っていた。


「初めまして、キンタ様。わたくし冒険者ギルドの副ギルマスを拝命しております、ブリュンヒルトと申します」


 おふ……何そのどこその、かっこいい宇宙船みたいな名前は……

 それに比べておれの名前……キンタか……ダッせ! 改名しようかな。


「初めまして、キンタ商会会長のキンタです」


 目の前のイケメン中年…… 一体おれに何用なのか?


「突然の訪問をお許しください。キンタ様」


「いえいえ、商売は人なりです。これもご縁かと」


「そうおっしゃっていただければありがたい。早速ですが本題に入らせていただきます」


「ええ、お願いします」


 余計な前振りは必要ない。商談ならさっさと済ませてしまおう。既に今日の商いに皆出かけたのだ。おれも遅れてはなるまいて。


「キンタ様の扱っている商品『美味しいんです』を、冒険者版で製作していただけないかというのが今回の主旨でございます」


 ん? 冒険者バージョン?何それ? 使い道あるの?


「詳しくお聞かせ願えますか?」


「はい、では……」






~帝都内の、とある貴族の晩餐にて~


「なんだ? 今夜の食事……う、美味すぎるぞ……」


 とある貴族の屋敷で、己の奥方と子供たちと共に食事中のご当主様である。


「あなた……やはりおわかりになりまして?」


「いや、これでわからぬ奴は相当の味音痴だろうよ。いつもと同じ食事メニューが全く別物だ…… 料理人を変えたのか?」


「いえ、いつも通りの料理長の食事ですよ、あなた」


「お母さま…… これは美味しすぎます…… 今までで一番おいしいです」


 ある意味、料理人の腕の良しあしに関わらず、料理が美味いというのは『料理人への冒涜』とも言える話である。


「わたくしが、料理の仕上げをさせていただいたのですわ。おほほほほ!」


「なんと……お前……でかした! これなら立派に店が出せるぞ! ん! 酒が……酒もなのか……驚きだ……どういうやり方?いや、産地? そんなはずはない。ラベルは一緒だ……」


 もちろん奥方の料理の腕が上がったわけではない。


 メイドの一人が、街で評判だと言う魔道具『美味しいんです』を購入。それを試しに使ってみただけの話なのだ。


 ここ数日以内で、貴族平民を問わずにあちこちの家庭で、同じような出来事が発生したという。


 食事後のその貴族夫婦の会話。


「あなた……こんなものを知り合いの貴族の方から購入しました」


「うむ……なんだね、それは」


「これ1瓶でそれはもう、男性ならば絶倫。女性ならば感度が最高に高まる媚薬なのだとか…… 紹介していただいたそのご貴族夫婦……すでに毎晩毎晩ハッスルされているそうな…… うらやま……こほん……だからね? あ・な・た!」


「お、おう……大丈夫なのだろうな? 副作用とか麻薬のような中毒性はないのであろうな」


「それはもう大丈夫です。元々は精力剤というよりも回復薬らしいですわ」


「そ、そうか……こ、今晩、試してみるか、おまえ」


「ええ、久しぶりに……お願いしますわ、お情けをたっぷりと……」


 その後の『あっは~ん、うっふ~ん』があったかどうかは、キンタの預かり知らぬところであるが、一体全体どこから手に入れたのだろうか……


 実は旧王国王都のとある貴族が持っていたのである。キンタ提供の『栄養ドリンク』


 占領軍たる帝国軍経由でここまで無事?流通してきたのだった。



*****


 この世界の冒険者というのは、多くが『迷宮』に挑んだり、魔物退治に忙しい職業である。

 長期間の遠征ともなれば、ただでさえ激マズの食事は味気ない保存食だけとなり、冒険者という職業の不人気さに拍車をかけている。


 そんな冒険者のために!


「こちらのプレートタイプではなく、袋に入れられるタイプは作れないでしょうか?」


 ふむ……検討、新規開発の余地は十分にある。


 袋に保存食でも飲み物でも入れておけば、いつでも美味い食事とは言わないまでも、それなりの物が食える。 

 となれば、冒険者の食事事情は劇的に改善されるだろう。


 とはいえ、この機能を果たすためにはおれの魔力は必須。

 ならば、魔石(ビー玉)を組み込んだ袋または背負いのバッグタイプ等々色々作ればいい。


「何とかなると思いますよ」


「そ、そうですか! 良かった~ で、卸価格の方ですが……え?」


 魔石を回数ではなく、重量によって消費するタイプに変更し、キロあたり1ドール、10キロ収納タイプで10ドール(1000円相当)で作成。

 バッグ込ならば20ドールで販売するように決めた。


「早い……そんなに簡単にできるものなのですか……」


 サンプルをその場で袋タイプ10、背負いバッグタイプ10、交換用魔石を30個用意してやる。


「大量にとなれば時間はかかりますが、この程度ならこんなもんですよ?」


 まあ、おれにはとんでも能力の自覚がないのでしょうがない。


 冒険者ギルドへは7割の卸価格だ。


「十分でございます。早速ギルドの店頭で販売してみます。すぐにでも追加注文が入ると思いますのでよろしくお願いします。それにしても……この魔石も……これはまた後日ご相談させていただかねば!」


 という訳で、新たな商品開発と販路の開拓があっという間に終わった次第である。


 さあ! 今日も売って売って売りまくろう! クレープにたこ焼きに『美味しいんです』君!


 そろそろ朝の忙しい時間が終わるであろう時間帯……


「た、大変です! キンタ様!」


「ど、どうした! 」


 出かけようとしていたおれの元へ、マリアが青い顔して飛び込んでくる。


「アンさんが……アンさんが誘拐されました……」



 何! これは急がねば……


 か弱きうさ耳美少女アンさん……おれのモフモフをかっさらうとは…… 許せん!


 おれの大事な……ぜってえ取り返す!

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