第41話 アンさん誘拐される!

 大急ぎでおれとバンパイア族のマリアは、現場へと駆け込む。


 聞けば、朝の忙しい時間帯が終了し、ほんの少しだけ昼前に馬車の外でうとうとしていたアンは、あっという間に攫われたらしい。

 犯人の目星は付いておらず、アリアを留守番にして大急ぎでおれの所へマリアが報告に来たとのことだ。


「くっそ! 油断した! こんなことになるなら護衛を雇っておけばよかった」


「わたしたちも、ほんの少し目を離した隙に……すみません、キンタ様」


「いや、君らは悪くない! おれの失態だ! アンはおれが絶対取り戻す!」




「え?誰を取り戻すんですか? キンタさん」


「誰って……アンに決まってるだろ…… え? アン……なんでここに?」


 いつの間にか攫われたはずのアンが、おれのすぐそばにいたから驚きだ。


「アンさん、誘拐されたんじゃ……」


「あ、ええ……そうみたい。あははは……」


「あははって…… どういうことだ! 説明を求めるぞ!アン!」


「いえ、わたしを誘拐するなんて、そもそもソフィアさんクラスを数人ががりでやんないと無理ですって」


「はあ? ソフィアを数人って…… それ、特殊部隊並みだろ……」


「言いませんでしたか? キンタさん。わたし結構強いんですよ? ちゃんと誘拐犯のお兄さんたちにオ・ネ・ガ・イしたら話は聞いてくれましたよ?」


「き、聞いてねえ…… それってお願いじゃなくて、単に物理的に排除しただけなんじゃ……」


「すっご~い! アンさんて強かったんだあ!」


「お兄さんたちには、『ジシュテキ』に警備隊に出頭していただきました~」


「いいお兄さんたちだったんですね~」


 牛人族のアリアが、どこか抜け作な気がしないでもない……


 聞けば、アンは幼少のころから将来『暗部』として活躍すべく、父親から英才教育を施されていたらしい。

 あの酒場のマスターことアンの父親も、実は強かったという訳だ。


 やべえ…… アンを嫁にして浮気なんかしたらサクッと翌朝には死んでるかも、おれ……


「だから~心配ご無用です~! キンタさん!」


 それでもこの日以降、冒険者ギルドに紹介してもらった護衛の冒険者を2名雇うことに決めたおれである。


 危険が少な目で給与もいい護衛の仕事、それも移動中の魔物相手もしなくていい、女性の多い仕事場! 美味いものも食べれる! 

 速攻即決で決まりました!


「冒険者ギルドから紹介されたミックだにゃ」「ジャガーですにゃ」


 あわせてミック・ジャガー…… どうなってんだ、この世界の命名基準……


 紹介されてきたのは猫族の冒険者、双子のミックとジャガー……


 聞けば二人ともBクラスの冒険者でかなりの腕利きらしい。


 仕事しっかりしてくれるんなら、将来的には社員として雇用してもよさそうだ。

 もちろん二人とも女性。


 おれは男を雇う気はない。

 なんで生まれ変わっても男と暮らさないかんのよ。少なくとも身近には、鑑賞に堪えうる女性社員で固めたいのさ。嫁は言わずもがなである。


 この二人、歳は17歳。冒険者歴5年のベテランだそうだ。若いのにたいしたもんだ。

 まあ、Bクラスってのがどの程度かはよく知らんけど……


「多分ですけど……ソフィアさんならSクラス行けるんじゃないかと……」


 な、なんですと! ソフィアがSクラス…… じゃあ、あんた……うさ耳美少女のアンさんは?


「SSかな? キンタさんなら、トリプルもあるかも」


 さらっと言うな! え? お、おれってば最強? ひょっとして……


「「キンタさん、よろしくにゃ」」


「あ、ああ。よろしく頼む」


 護衛任務の給与は日給で一人金貨1枚(1万円相当)が相場である。

 どこぞの警備員みたいなもんか…… 痛くもかゆくもない出費だ。


 これで社員の安全確保できるのなら安いものである。

 おれは相場より高めの金貨1枚と銀貨5枚で二人を雇った。

 3食付である。


「やったにゃ! ずっとキンタ商会の護衛やりたいにゃ!」「どこまでもついていくにゃ!」


 おうおう、がんばってくれ! がんばれば給金アップするからな!



 今日も売り上げはすさまじい! もはや行商レベルではない。大き目の店を構えた方が良さげな売り上げなのだ……


 ならば……店は任せて、おれは次のステップへ……


「もう少し従業員増やしてから出かけてください~ キンタさん!」


 過酷労働はいかんよね!うんうん……おれは従業員には優しい男である。


「わかった!あと3人アルバイト雇ってくる。それまで頑張ってくれ!」


「終わったらキンタ様の魔力欲しい~! 3日分が溜まってる~」


「や、宿で払う。待っててくれマリア……」


「あいあい! 楽しみにしてる~」


 最近求人を出すと、競争率がかなり高いらしい。おれの方ですべて面接している時間がないので、ある程度までは絞ってくれるよう、商人ギルドのブリュンヒルトさんにはお願いしてある。

 男はすべてカット。女性限定である。今更だれになんと言われようと、変える気はないんだぜ!


 実のところ、男性からも応募がかなりきているみたいだ。一度でいいから検討してほしいと頼まれてはいるのだ。

 男と言ってもおっさんは論外。可愛げなローティーンの男の子ならば考えてやってもいいとは伝えておいた。だが優秀でないとダメ!ゼッタイ!



 商人ギルドへ求人募集の件を伝えて、冒険者ギルドには納品。それを終えたおれが一旦宿の手配をするためにエリーさんの元へと向かうと……


「ああ、手紙預かってるよ? キンタさん」


 エリーさんがおれに渡してくれた手紙…… どうみても帝国のどこその貴族かお偉いさんの印章付きだったわ……


 キタ~!! 案外早かったな。こちらの狙い通りか…… できれば帝室からのご招待なら万々歳だが……


「大丈夫かい? あんた……貴族とかに目つけられてんじゃないのかい?あたしゃ心配だよ」


「大丈夫ですよ、エリーさん。これでもおれは、ある時は行商人、ある時は薬師、ある時は大魔導士キンタ! 実態は大魔王キンタ様なんですよ?」



「あ、あはははは! おかしい! そらあんた……それだったら例え皇帝様からの招待でも安心だわ」


 いやいや、冗談ではないのだよ、エリーさんや…… 魔王とは言わんが、この世界唯一の龍騎士さまでっせ?



 自室に引きこもり、手紙の内容を見ると案の定……この国の3大貴族の一人、公爵家からの夕食の招待状だった。


「くくくっ! ついに来たか! この国を!この帝国を屈服させるときは近い!」


「だいじょうぶかえ?キンタさん…… あんた、頭やられてないだろうねえ」


 ドアの向こうでこっそりと様子をうかがっていたエリーこと、宿屋の女将のつぶやきはキンタの耳に届くはずもない。


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