第39話 VS 惨劇のエリー
「では! 乗せます! スイッチオン!」
「おお~ あの料理というか料理爆弾が? 本当に美味くなるのか? だったらおれも買うぞ!」
基本的にこの世界の食べ物は、はっきり言って不味い。食材どうのこうのではなく、食材を活かす調理方法も調味料の類も、ほとんどないのだからしょうがない。
そんな世界にこんな道具が販売されたら、そりゃあ画期的だな。もはや食の革命と言えるだろう。
「はい、完了です。ランプが緑色になったら終了です」
さすがに鍋料理爆弾…… 普通なら10秒で終わる処理が30秒もかかりやがった。これは新記録かな。この記録を破る激マズ料理は、今後現れないんじゃないだろうか。
「さて、お立会いの皆さま! ご覧あれ!」
恐る恐る鍋の蓋を開ける、当のエリーさんだ。
「ん? あれ? 匂いが…… うん!いい匂いだ! 間違いない。あたいでもわかるよ」
「で、でも色は……およ? 色が……普通の鍋料理の色に変わってる……ほんとかよ!」
「お、お前……食べてみろ……見た目と匂いに騙されてるだけかもしれん」
「え、ええ! ヤダよ……おれ、まだ死にたくない……」
「あたいが食べてみる! あたいの持ち込んだものさ。あたいが最初に食べるよ!それなら文句ないだろ!」
ああ、おれも商品販売している以上、食わないかんわな……ゴクリ……
豪快にスプーンで鍋の中身を口に放り込むエリー嬢……
「……」
「ど、どうした! エリー! 死んだか?」
群衆の目はエリーの表情に一斉に注目である。
そして……無言のままエリー嬢の頬を伝わる涙が……
「美味いよ~ うわ~ん!!! こんな美味いもの、あたいにも作れたんだ~!!!」
いや、あんたが作ったのはただの破壊兵器、殺人兵器だってえの…… それを美味い!食える!料理に変えてやったのは『美味いんです』君だぜ?
「ほ、本当か! おれも試食していいか?」
恐る恐ると『勇者』が、一人また一人と増えていく。
「う、うめえ! なんだこれ! 激マズどころか、激うまじゃねえか、これ……」
「し、信じらんねえ! 今日から『惨劇のエリー』なんて姉御のことを呼べねえぞ?」
「こ、これなら! 恋人に! いや、おれの嫁さんになってほすい!『激うまのエリー』?」
「すげえぞ、エリーの姉御! いや、待て! すごいのは、この魔道具だろ!」
「これさえあれば……カ、カミさんの料理もうまくなるってか? 買う! 買うぞ!! いくらだ?兄ちゃん!」
「まて、こら! 買うのはあたいが先だ! いくらだい、あんた! 100ドールでも買うぞ!」
「えっと……10ドールですけど…… あ、10回使用すると魔力補充が必要です。10回分の充填で同じく10ドール」
「買った~! 安すぎるぞ! これでうめえ料理と酒が飲めるんだろ?」
ああ、酒も多分美味くなるはずだな……
「試しに酒もやってみましょうか?」
「おい、だれか酒場でビール買って来い!」「おおよ!任せろ!」
早速この世界では定番の『生ぬるいビール』と『得体のしれない酒』を試してみる。
「ど、どうだ?」
「……」
あまりうまくはないはずのビールを飲んだ男の目からは、汗が……
「美味すぎて……な、泣けた……こ、こんなに美味いビール……飲んだことねえぞ! プハァ~!」
「やべえ……こっちも……なんだこれ……酒としてはもう全くの別物みてえだぞ……おれも涙が出そう!」
その場に居た野次馬に次々と回し飲みされるビールと酒……
ビールは『生ぬるい』状態から『キンンキンに冷えた』状態へと変化している。
泡の状態も理想的だ。
「冷えたビールがこんなに美味いとは! 革命だ!」
「うおおお!! おれにも飲ませろ~~~~!!!」
アンの店もそうだが、おれの方も最早パニックだ。
魔道具『美味しいんです』君は100台があっという間に完売。お昼からは作っては売り作っては売り、そして夕方からは魔力充填依頼がひっきりなしに……
「これはもう、早めにアルバイト入れないとまずいですよ、キンタさん……」
本日の販売終了…… おれとアンは真っ白に燃え尽きたのだった……
販売開始2日目……
朝早くから開店準備中のおれとアンである。
「昨日はありがとね」
開店前だが、あの『惨劇のエリー』嬢が挨拶に来てくれた。
「おかげで、あたいもようやく嫁入りできそうだよ。あんたたちはあたいの恩人さあね。よかったらあたいは宿を経営してるんで、いつでも泊まりに来ておくれ。安くサービスするからさ」
ウィンクをおれに投げて、人間爆弾……いやもうそうじゃないな、エリーさんは去って行った。
くくくっ! 文化侵略テロの仕込みは万全だな!こりゃあ……
「アン! 今日はこれ着てやってくれ」
「お、新しい制服っすか? 昨日とは違うですね」
「ああ、おれの国ではメイド服と呼んでる代物だ」
「おお! なかなか可愛いですね!」
ふふん! 昨日のバニーガールを好む客層とは違う客層をこれで狙っているのさ!
まあ、どっちが有効かは今後の売り上げ見てから判断しよう。
「今日は『美味いんです』君、200台用意した。クレープの方の材料もできるだけ短時間でできるように、作り置きでトッピング材料を無限収納に収めてある」
「はいです! 今日も頑張って売るです!」
早速、翌日からはエリーさんの宿へと鞍替え。
宿を経営しているエリーさんの厨房とは、魔力充填に関しての契約を完了。
10回当たり10ドールの値段を長期契約ということで半分にしてあげた。
料理の腕が多少悪くとも、素材をあらかじめ処理しておけばそれだけで何の変哲もない料理でも美味くなるのだ。
これを売りにして商売繁盛を狙うエリーさんである。
おれの店頭販売以外での売り上げも確保でき、宿も安くしてもらえてウィンウィンだね!
販売開始3日目になると、さすがに二人では手が足りなくなった。
「明日は休みにしよう、アン……」
「ですです……でないと死にます。アルバイトお願いしますです」
「ああ、ギルドから面接依頼があった。明日行ってくるさ」
「お願いしますです」
さあ、どんな人材が来たか…… 楽しみだ。
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