第38話 アンのお店、開店します! 『美味しいんです』君も販売開始です!
今回、帝都で商売を始める目的は、この帝国に【文化テロ】を仕掛けることである。
この魔道具を売ることが、どうしてテロに結びつくかと言うと……
今まで不味かった食事が劇的に美味くなり、それに慣れてしまった後に突然美味い飯が食えなくなったら人はどうなるだろうか?
パニくるか、嘆くか、怒るか、悲しむか……人それぞれであろう。
だが、間違いなく何かしらの衝撃を与えるのではないか。
プレート魔道具『美味いんです』に注入する魔力は、おれの魔力でなければ機能しない。
で、おれがある日突然いなくなれば…… これ以上は言わなくてもわかるだろう? そういうことさ。
さて……次はアンの仕事だ。
新規購入した今回の仕事用の馬車。よく某国なんかで見かけそうな、ホットドッグを売る移動式屋台のような馬車である。
設置後、屋根付でオープンされた窓口から、商品の受け渡しができるスタイルだ。
今回馬車の右側面ではおれの魔道具『美味いんです』の販売と追加の魔力注入業務を行い、左サイドではアンが食い物を販売する。
最初にアンが売る商品は、ズバリ『クレープ』である。
もともと酒場のマスターに鍛えられており、料理も得意、接客も完璧、看板娘だったのだからなんの問題もなくクレープの試作作成はできた。
「おおお! これ、美味いです~ キンタさん、最高です~!」
そうだろ、そうだろ! 崇め奉り給え! わはははは!
「この生地に色々挟んで売るわけですかあ。こりゃあ女性客にバカ売れしそうですね!」
いやいや、顧客層は女ばかりじゃないぞ? そのための秘策! お前の制服はこれだ!
「なんすか? これ?」
「着てみろ!」
うさ耳としっぽは自前の黒タイツぴったりの、ものほんの『バニーガール』の誕生である。
これに食いつかない男は男じゃない!はず……
このバニーガールのアンを餌に男どもをも集客。女性層は、この世界では珍しい甘味で勝負なのだ。
お値段は……プレーンクレープが2ドール(200円相当) トッピング1つに付、追加で1ドール上乗せ。
生クリームとオレンジのトッピングで、お値段4ドールといった感じだ。
一応トッピングはしばらく様子見のため限定である。
生クリーム、バニラアイス、チョコレート、オレンジ、ストロベリーの5種類のみ。
「これは逝けますね…… 美味いです~」
さっきからこいつ、食いまくりなんだが…… 食い過ぎてお前が逝っても知らんがな……
「ばかウサ……大丈夫か? お前が売るんだぞ?」
「ばかウサ言うな! ひどいですう~ キンタさん! しっかり売るですよ~ お任せあれ~!」
~開店初日~
「さあさあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい! この魔道具『美味しいんです』君の実演販売だ!」
数日後、帝都中央広場で早速朝から販売開始である。
ぞろぞろと何人かの通行人が足を止める。
「この『美味しいんです』君は、驚いちゃあいけない! この魔道具にのっけてボタンを押せば! どんな食材も料理もあっという間に『最高級』食品になるというすぐれものだ! おっとそこの綺麗な奥さん! ちょいとお持ちの惣菜で試しちゃどうだい? お試しでお代はいただかないよ?」
綺麗な奥さんと呼ばれ顔を赤らめる女性…… ええのお……美人は得だね。
とはいえ、呼び込みの口上を真に受けて、お試ししてみようという猛者はなかなかいない。
片や反対側のクレープ屋『アンの店』は、既に待ち行列が…… なんなんだ、この差は……
甘味のいい匂いに誘われ、アンのバニーガール姿に誘われ、男女問わずに購入していく。
「美味いね、これ! こんなの食べたことない~」「うっまあ~い!」「あっま~い!」
購入したお客の感想があっという間に広がり、我もわれもと購入していく。
「キンタさん、材料がなくなりますです。補充お願いします!」
ああ、おれも頑張ろうっと……
何気にショックっす!……
「ちょいと、いいかい?あんた……」
ん? 誰ですかいのお……
「あ、あれは……『惨劇のエリー』……」
おれの目の前にいる女性……かなりの美形であるが、その女性をみた他の男性客のつぶやき……
惨劇ってあ~た……何者ですか? 殺人鬼を街に放置したらいかんだろ? ってか何をしたら惨劇なんていう二つ名つくのよ、一般人が……
「あたしの名前はエリー。あんたのその魔道具……なんでも美味くなるって本当なんだろうね!」
おうよ! 任せろ! どんな激マズ飯でも大丈夫だぜい?
「おいおい……ありゃあ、エリーじゃねえか……あいつの激マズ飯を食わされて、別れた恋人の数は3桁に迫るって噂だぜ?」
「いや、病院送りにされた恋人が3桁って聞いたぞ? あの外見に騙された男の数はそんなもんじゃないらしい」
「メシマズがなけりゃあ、あの美しさだ。おれも恋人になりてえが……愛妻弁当で死にたくはねえな、まだ……」
何その人間爆弾さんは…… そんなやつを相手にしなきゃいかんのか? この『美味しいんです』君は……
徐々に見物客が増え、ここに世紀の対決が始まろうとしていた。
名付けて『激マズ!惨劇のエリー VS 美味いんです君』
こここそが勝負どころである! ふふふ! 異世界の住人たちよ! 今こそ我の魔力に恐れおののかせてやろうぞ! おののけ!諸君!
「どこの魔王さまですか、キンタさん……てか、早く材料補充してくださいね? お客さんが待ってるんで……」
空気を読まないやつだ…… まあ、可愛いから許す。おれのバニーガール、アンは誰にも渡さない!
「これは、あたいが作った鍋料理だ。こいつが誰が食っても美味くなるってんなら買うよ。その魔道具」
おっと、商売商売! ひひひ!
蓋を開けて覗き込んだ鍋料理…… 色は紫色と化し、匂いは激臭レベルの、もはや殺人兵器じゃね? これ、食い物なのか? どうやったらこうなるか、逆に教えてほしいわ。
「うおおお~~~! 半端ねえゼ! さすがは『惨劇のエリー』! 姉御すげえぜ! うっぷ……やべえ……オロロロロ~」
勝てるのだろうか、おれ…… 最強の敵、現る! その名は『惨劇のエリー』!
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