第36話 帝都へ行商の旅ですよ~

 旧王都奪回作戦などは他人に任せて、おれは現在帝都に向けて進撃……いや行商の旅に出ている。

今や廃墟と化した砦に一度転移してからの、改めてスタートする帝都への旅である。

 今回は、あのうさ耳少女のアンちゃんを伴っている。


 おれはさすがに、若い男女の2人きりの旅はまずかろうと固辞したのだが、あの酒場のマスター(父親)に押し付けられたのである。


「娘をよろしく頼む! キンタ殿……」


 誰かに殴られたかのように、右の頬を腫らして懇願する、そんな姿に断り切れなかったのさ。

 ちなみにアンちゃんの右手も、なぜか赤く腫れていたが……


 一緒に旅をしてみると、アンちゃん……いやもうアンと呼んでほしいと睨まれたので、アンと呼ぶことにする。

 アンはことのほか料理などの家事一般がとても優秀だったので、おれとしてはとても助かっている。

 帝都に入るに当たっては、夫婦で行商を営んでると言うことにした方が、何かとよかろうとのことなのでそういうことにした。 

 なのでアンが喜ぶ喜ぶ! うさ耳が盛大にぴょこぴょこと!


「キンタさんと夫婦~!」


 おれなんぞと夫婦なんて、そんなにうれしいのかいな……


「そりゃあもう……自覚してくださいね、キンタさん。引く手あまたなんですよ?キンタさん」


 そ、そうなの? そりゃうれしいけど……


「自覚しておかないとそのうち刺されますよ、キンタさん」


「え、こ、怖い!」


「わたしが守ります! キンタさん!」


 いきなりおれの頭を、豊満な胸で抱きしめるうさ耳さんである。うれしくないわけがない。

 うさ耳~しっぽ~気持ちええで~


 このまま既成事実を作ってアンさんを嫁に…… いや待て……ソフィアとレイティシアには確実に殺されそうだ……早まってはいかんぜよ……

 ちなみにアンは15歳だそうな。ギリで成人しているので『児童虐待』になることはない。そんな法律がこの世界にあればだが……



「それにしてもキンタさん、さくっと王都奪還するための新兵器とかないんですか?」


 ああん? そんなもん【通販】で買えるわきゃねえだろ? とは言えない。


「いや、さすがのおれでも仕入れできないよ、それ……」


「そうなんですか? ちょいと放り込んで、ばっば~ん!ってやっつけて、それで占領~!って出来たらいいですねえ~」


 どこぞの核爆弾かってえの……

 おれの頭はアンほどおちゃらけておらんのよ…… いいよな、お気楽頭は……


「おんなじことを、レイティシアも言ってたけどな」


「い、いいんですか? 一国の王女様を呼び捨てにして! ってかもう王女様じゃないか……」


「そういうこと…… せいぜい同僚程度だな、あいつは……」


「あいつって……ええ~! でも共和国のお偉いさんですよ?」


「そのお偉いさんの地位につけてやったのが、おれだっつうの!」


「そ、そうでした……ははは…… キンタさんて実は雲の上の人?」


「そんなはずないだろ? ただの行商人、キンタ商会の会長だがな」


「でもでも、キンタさんは龍騎士、この世界で唯一のドラゴンライダーだって皆言ってましたよ?」


「ああ、まあ……成り行きというか、おまけというか……」


「おまけで龍騎士になれちゃうんですか? だったらわたしも……」


「無理無理! ドラゴン相手に勝てたとしても成れないよ、龍騎士」


 超高級栄養ドリンクのおかげ……とは、内緒な。


「そ、そうですか……残念……」


 こいつ……案外脳筋なのか、うさ耳美少女よ…… やっぱ、嫁候補からはずしておくか……



 第二次共和国防衛戦が終了し、条約を結んだわけではないが、なんとはなしに帝国と共和国は休戦状態である。

 一部の目ざとい商人は、稼ぎ時とばかりに両国を行ったり来たりしているようだ。


 そういえば、帝国元帥の残念王女のネルケの消息はぷっつりである。

 あの戦の後、帝都に呼び出されて蟄居中だとか聞いたが定かではない。


 まあ、あれも一種の脳筋魔法使いと言えなくもない。

 会わないで済むのなら、会わないに越したことはないのである。


 それともう一人…… 元長屋の住人で魔国に仕官し、戦では副官をやっていた素浪人のおっさんも行方不明だ。

 まあ、おれの売りつけた刀は回収済みなので、問題を起こすこともあるまい。というか、もう活躍は出来んかもしれんね…… 刀が無くなったって、ばれれば実質解雇ですな。


「帝都には美味しいものありますかねえ、キンタさん!」


「あるんじゃね?きっと」


「もう! つれないなあ! キンタさんの仕入れる食料が美味すぎるのがいけないんです~」


 そうなのだ。この世界に食料事情はお寒い限りなのだ。


 おれはこれから帝都に行って何をもくろんでいるかというと、帝都で【文化テロ】を仕掛けるつもりなのさ。


 もちろん兵器産業に寄与するものは除く。


 せいぜいキンタ商会なしでは、生きていけないように餌付け……いや、真っ当な商売をさせていただきたいものである。

 胃袋つかんだやつが勝ち! 掴まれたやつは、どれ……いや負けなのだ。


「もうすぐ帝都ですよ~」


 さすがは自動運転付馬車は高性能である。


 さあさあ! 何を売りつけようかねえ!


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