第35話 春季攻勢 その3 終結

「砦が爆破されただと! バカな! 補給路を断たれたようなものではないか! 既に進撃は始まったのだ。おめおめと引き返せるか~!」


「で、ですが、このままでは、前線基地での食料は持って3日だけです」


「な、ならば3日で決着をつけようではないか! 諸君」


 前線基地司令部で報告を受けるネルケ元帥、帝国第一王女である。


「すでに補給物資の救援要請は飛ばしております」


「だが、もう間に合わん。3日で始末をつけねばわれらは破滅ぞ!」


「まさかこのような手で来るとは……」


 『間抜け』と言うには、間抜けに失礼と言うべき失態。


「いまさら愚痴をいうな! 参謀長」


「は、はい……」


「すぐにでも攻城兵器を投入せよ! もたもたしていると兵が餓死しかねん! 一気に攻める!」


「りょ、了解しました!」



~共和国最前線 西側城壁にて~


「敵投石器発見!数……約20! 距離およそ1000メートル、」


 キンタから配給された双眼鏡を用いて、敵発見を報告する担当士官である。


「ようやくおいでなすった。我らの出番っすね、隊長」


「ああ、鬼教官……いや、ソフィア教官殿に、訓練の成果を見せる時がようやく来たな。対物ライフル隊の準備いいか?」


「はい、すでに狙撃対象の割り振りも完了しております」


「さあ、敵さんの度肝を抜いてやれ! エルフがいつまでも弓矢だけの種族ではないことを、存分に教育してやろうじゃないか、諸君!」


「くくくっ! 今日からこの国の、いえ、この世界の歴史が変わるんですね!」


「その通りだ! おれたちは新たな歴史の1ページを開く。敵投石器距離800で一斉射撃開始せよ」


 この世界に初めて戦争投入された巨大な遠距離投石器……その台数は約20機。有効射程距離約400メートル。

 画期的な発明とは言えたものの、既に共和国における技術革新の前では骨董品の域を出なかったことは悲劇であったろう。

 

 城壁まであと1キロ弱と迫った時、どこからともなく飛んできた飛翔体によってわずか数分の内に20機すべてが崩壊したのだった。

 デヴューと同時にゴミ箱行きとなった、最新兵器第一号となった。


「新兵器が…… 虎の子の攻城兵器が……ああ……」


「やつの……やつの言葉は真実だったというのか…… 新兵器とはいったいなんだったのか」


「元帥閣下……ご、ご指示を!」


「ま、まだ負けたわけではない! 全軍進撃開始!全方面から攻撃を開始する!」


 東西南北それぞれに2万の包囲陣をしいての第一次総攻撃が開始された。



 エルフの砦に配置された、高性能なバリスタを予想して今回持ち込まれたのが、従来の強度の2倍を誇る盾……


 それは、前回と同じバリスタであったなら有効であったかもしれない。


 今回城壁に設置されていたのは、バリスタではなかったのだ。

 

 新たにキンタが用意したのは、セントリーガン!


 元々【通販】で購入したBB弾使用のおもちゃの類である。

 だが……この世界に姿を現したとき、それは殺戮兵器と化す。


 オートマチックで吐き出されるBB弾は、有効射程200メートルで秒あたり最高で約20発をばらまくのだ。


「狙撃隊用意! 撃て~!」


 エルフが誇る狙撃兵による射程は約1500メートル。さすがにこの距離で確実に当てられる技量の持ち主は多くはないが、800メートル以内ならば確実に当ててくる。


 強度を増した盾は確かに狙撃銃に対しては有効であったが、盾を持たない後方の部隊はただの的である。

 次々とBB弾に倒れる帝国兵続出……


「ひ、怯むな! 前進せよ! 数はこちらが上だ! ぐっ!」


 指揮官が最初に確実に頭を射ぬかれ、前線指揮系統も徐々に崩壊していく。


 各方面とも状況は全く同じであった。

 遠くに居れば狙撃され壁に近づけば、セントリーガンとアサルトライフル、エルフの放つ矢の餌食となる……そんな地獄絵図が、各所で断末魔の叫びと共に描かれていた。



「このままでは……このままでは第一次攻略戦の二の舞ではないか……」


「あれは噂だったのじゃないのか……お、おれは……死にたくない!」



 連合軍全兵士の頭によぎる、『全滅』の二文字……


「帝国兵を瞬滅せよ!」


 『瞬滅王女』の二つ名は、瞬滅される立場を意味することとなった、歴史的瞬間であった。



*****



「楽勝じゃな…… 造作もないことよ」


 共和国管制局で、映像を確認するレイティシアから思わず漏れる声……


「南方面の敵下がります! 東方面の敵は停止しています!」


「西方面の敵およそ30%損耗の模様!」


「北方面の敵が、西方面の部隊と合流を図っています!」


 戦時作戦室と化した情報管制局内に、次々と報告が上がる。


「これでは、今日中にはカタが付くやもしれませんね」


「わらわも、キンタ殿から教育された時は耳を疑ったものじゃ。キンタ殿の提供するものは、すべてがこの世界の価値観を一変させるであろうよ。あの時はまだ信じておらなんだが、これを見せつけられてはのお……流石に信じざるを得んな」



「早めに終わらせれば、王都の奪回も!」


「うむ……夏までには可能かものお……いやはや恐ろしい男よ……よろずやキンタ……」


「王都奪回の後は、王都の復活をなされるおつもりですか?レイティシア様」


「いや……このまま共和国の拡大を進言するつもりじゃ。既に王国は過去の遺物。共和国を元にして、わらわたちは成りあがるべきじゃの。あの男を敵に回したらわれらの首が飛ぶ……」


「はい……おっしゃる通りです……」

 

 今までは恩を仇で返すかのように反発していたミランダも、この期に及んでキンタに好んで敵対することは、己の首が物理的に飛ぶことを自覚したようである。



 二日後、帝国歴895年4月。共和国へと侵攻した帝国、魔国連合8万人はわずか数千人の捕虜を残し全滅した。

 旧エルフの村、現共和国首都を守る第一の城壁にたどり着いた帝国兵士は、ただの一人もいなかったという。


 瞬滅王女ことネルケ帝国元帥……帝国第一王女は、わずかな供回りと共に旧王都へと逃げ帰った。

 逃げ切れたその数……わずか10人にも満たなかった……


「どうしてこうなった…… われは『瞬滅王女』、最強の魔法使い、帝国最強の元帥ではなかったのか……」



 その後、帝国皇帝は詮議と言う名の軍法会議に出頭するよう、娘のネルケに命じた。


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