第34話 春季攻勢 その2

「情報通り、敵が前線基地を構築し始めました」


 警戒線哨戒に当たっていた猫族の隠密が、情報入手と共に本部へと連絡を入れる。

 小型のヘッドフォンマイクは小さな声さえも拾い、スマホを通して会話を可能としたのだ。

 もちろんキンタが提供した情報管理ツールの一つして……


 情報の即時伝達…… これだけでも強力なアドバンテージであろう。発せられた情報は瞬時に共有される。


「来たか! 今度はこちらが奴らを叩き潰してやるのじゃ。王国の復讐……果たさせてもらうぞ!」


 戦時体制へと移行し、現在情報管制局の指揮を執るのはレイティシアである。


 外側の城壁の上で防衛任務に当っているのは、エルフ族の各部隊長。それをサポートする臨時戦闘員が約5千人。後方担当2千人。管制指揮におよそ5百人である。


 情報管制局の中央正面には、各部署のリアルタイムの状況が見れるように液晶の大型画面が設置されている。

 これまたキンタ商会製……


 そう…… 行商人ことよろずやキンタは、ついに商会を立ち上げたのである。

 とはいえ、商会所属の商人は未だキンタ一人ではあるが、名目上は組織となったわけだ。


「だれか奇特な人がいれば雇いいれるよ~」


 この場にはいないキンタ商会長の言である。


 そのキンタは今どこにいるかというと…… ソフィア以下潜入任務に長けた猫族、犬族、エルフ族選りすぐりの100名と共に帝国国境付近の砦に潜入中なのだ。

 空き巣狙いのような後方かく乱作戦ではあるが、またとないチャンスなのだ。


 作戦の指揮をとるのは、ソフィア鬼教官……鬼軍曹ともいう。


「まあ……おれは転移要員だしな。実地作戦はソフィアに任せるよ」


 どこまでも人任せな屑であることは重々承知なおれ…… いいだろ? それ以外は大活躍だぜ? 主に【通販】だけど……



「敵の第一陣到着後、前線基地の構築開始したとのことです」

 

「ならばこっちも花火を上げるのはもうすぐだな、ソフィア」


「キンタ様……楽しみです~」


 今回の潜入任務での優先順位は以下の通りである。


・砦の軍部食糧庫の爆破または食料奪取

・主要軍事施設の爆破または可能ならば兵器の奪取

・軍総司令部の爆破



 時間稼ぎと言うよりも、継戦能力を奪うことが第一の目標である。

 砦からの補給能力をそぐことを主任務としている。


 

「砦さえ潰せば帝国も魔国も補給線を立たれて瓦解する」



「ではこれより、各小隊は策定箇所への爆薬設置を行う。設置後の集合場所はわかっているな?」


「「はい!」」


 再集合場所は、おれが単独で訪れて情報収集を依頼した酒場の地下。

 すでに酒場のマスター以下は全員共和国側の諜報員として雇ってあるのさ。

 あの時のマスターと大衆食堂のうさ耳店員は、実は親子だったのだ。

 うさ耳万歳! ビバ、うさ耳!


「ソフィア……おれは酒場でマスターと飲んでるから後は頼んだ」


「お任せください、キンタ様!」


 ええ部下を持っておれは幸せもんじゃ!


 酒場で部下を回収後、タイミングを見計らって各所を爆破。盛大な花火を上げる予定である。




「お邪魔するぜ、マスター!」


「いらっしゃい!」


 注文はしなくとも、黙ってバーボンを出してくれるマスターは出来るやつ……


「ようやくですな、キンタ殿……」


「ああ、終わったら旧王都で仕事を始めてくれ」


「奪回作戦ももう既に?」


「作戦要綱はすでに出来上がっている。任せろ」


「これで嫁の恨みを晴らせますぜ、大将!」


「よせやい! お互い様だ。持ちつ持たれつ、仲良くな!」


「合点承知! くくくっ!」


 マスターの奥さんは、元々王都に住んでいたのだが、帝国の侵入時に逃げきれずに殺されたのだ。

 その話を聞き、彼とその娘をこちら側に引き入れた。

 喜んで多種族国家の建設に寄与させてくれと言われ、帝国への復讐が出来るなら命さえ差し出すと言ってくれたのさ。


「マスターには、これからもせいぜい働いてもらいたいんだからな。簡単に死んでもらっちゃ困るぜ? アンちゃんをおれが引きとってもいいのなら構わんがね」


「そりゃあ微妙だな……大将んとこに嫁にやるにはちと早い。だが娘の花嫁姿も見てから死にてえってのも親としてはな……」


「そうそう。だったら簡単に死ぬなよ?」


 爆破後、兎族親子も同時に共和国へ撤退の予定である。


「キンタさんのお嫁さんに、喜んでなりますぴょん!」


 おっと、そこに居たんかい! アンちゃん……


 嫁かあ…… 欲しいねえ…… 戦争終わったら誰かと……いや誰かとなんて言ったら失礼だな。

 しっかりと決めなきゃな……



 その数日後、砦のとある酒場のマスターと大衆食堂の看板娘が姿を消した。

 砦の得意客が、そのことを知った頃…… 砦内の重要施設はすべて吹き飛んだのだった。


 帝国国境の砦……補給基地としても軍事施設としても、そのすべての機能を失った。

 それと時を同じくして帝国魔国連合軍の、共和国への侵攻がほどなく開始された。

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